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運が悪い日②
しおりを挟む「ナツメ。なぜ力を同時に使える……?」
「え?おかしい?」
ゲンドウは目を見開きナツメに問いかけるも、ナツメは至って平気そうに首を傾げながら返事をする。
「おりゃぁぁぁああ!!!」
ナツメはそのまま濁流を押し返すと、跳ね返った濁流をくらった酒呑童子は眉を顰め呆然と立ち尽くした。
「……ハァ?」
濃い瘴気の力が圧倒的な神力で押し返されたことで、酒呑童子はナツメがサクナよりも圧倒的な神力を持っていることに気付き、そしてそれはゲンドウも同じだった。
「あー危なかった……ゲンドウさん、大丈夫?ヒサトさんもー大丈夫そうだね」
ナツメはゲンドウとヒサトに対して笑ってそう問いかける。
「あ、あぁ……」
「僕は、平気ですけど……そもそも瘴気にどっぷりなもので」
ゲンドウは少し動揺しながらも頷く。ヒサトの言葉にナツメは「そうだった、あはは」と頭を掻きながら笑みを見せた。
「ナツメ!」
そこにアサヒとカゲロウも駆けつける。カゲロウは驚いた表情でナツメを見ている間、アサヒは凄まじい勢いでナツメの腕を掴んだ。
「ナツメ!お前、今何した!?」
「えっ、この本に書いてた“神通力”ってやつ、今使いどころかと思って。上手くいってよかったー」
「お前、瘴気借力も魂縛呪も使ってただろ!?そんな同時に使って体は平気なのか!?」
アサヒは心配そうな表情でナツメの肩を掴み見下ろすと、ナツメはあまりのアサヒの剣幕にキョトンとした後小さく笑った。こんな状況でもふわりと笑うナツメに対し、アサヒは少し安心したように表情を緩めた。
「いや、今んとこは全然へーき。そんな心配すんなって……ぶぇっくしゅ!!!」
外の冷たい空気と土砂降りが相まってか、体の冷えたナツメはくしゃみをしてから苦笑する。
「それより、雨で余計寒い……オレちょっと寒いの苦手なんだよなあー」
ナツメはへらっと笑って鼻をずびずびと啜っていると、アサヒは自分の羽織りをナツメに被せた。
「わっ、アサヒいいって!お前が寒いだろ!しかも首領の羽織りだぞ……オレなんかに」
「いい。お前に貸してやる。……頼むから、もし具合が悪くなったりしたらすぐに言え。分かったな」
アサヒはそう言ってナツメの頭を優しく撫でると、酒呑童子の方へ向き凄まじい殺気を出し睨みつける。
「あーあ、アサヒキレてるよ」
カゲロウはその殺気を察知してゾクリと本能的に震えると、刀を構え同じように酒呑童子の方を向いた。
「ナツメ。多分アサヒはここから抑えが効かなくなるぐらい本気を出すかもしれない。まだ元気が有り余ってるうちに早く終わらせようとしてるんだと思う」
「アサヒ、なんかすげー怒ってるの、雰囲気で分かる」
ナツメは苦笑しながらアサヒの背中を見た。
「ナツメが危ない目にあったのがよっぽど嫌だったんだよ。……ほんと、見せつけてくれるよね」
カゲロウはアサヒの出方を伺い、邪魔をしないように一歩引いてナツメを守るように前に出た。
酒呑童子は深い溜息を吐いてからナツメを見て舌打ちをする。
「ハァー。何だよこの展開。そのちんちくりんのニンゲン、サクナなんか比にならないぐらい強ェじゃねーかよ?
サクナは同時に力は使えなかったはずだ。予定変更、先にぶっ殺すことにするわ」
酒呑童子はそう言い捨てると、自身の角を赤黒く成長させ、その度に目からは黒い涙が溢れていく。そして歪んだ笑顔を浮かべると、狂気じみた闇の深い瞳でナツメを見た。
しかし、その視線を遮るようにアサヒが前に立ったため、酒呑童子は再度舌打ちをした。
「させねぇぞ」
アサヒはこめかみに青筋を立て、瞳孔を開いた状態で酒呑童子を真っ直ぐに睨んだ。
「おい九尾のガキ。お前、式紙を百匹しか作れねえ癖に調子に乗ってんじゃねぇぞ……クオンは五百は作れた。そんな雑魚は後でじっくり殺してやる。邪魔だ、どいてろ」
酒呑童子の挑発に、アサヒは目を細めてから小さく笑う。
「悪いな……人型じゃ使える妖力が限られる。お前の言う通りまだ俺はガキだからな、人型で妖力の使い方は修行中なんだよ」
アサヒはそう言って眩い光を一瞬放ち狐型になると、黄金の瞳で酒呑童子を睨み妖力を解放する。九本の大きな尻尾を扇のように開き靡かせると、そのから溢れる妖力の純度に一瞬怯んだ酒呑童子は一歩下がって眉を顰めた。
「なるほどなァ……こりゃ立派な九尾様だ。だが、自ら的をデカくするなんて馬鹿なのか?機動力や俊敏さを考えりゃ、鬼の俺とやり合うなら人型の方がいいと分かっていただろうに」
酒呑童子はそう言って水を操り宙に浮くと口を開く。
「蠱毒冥冥・閻魔罰」
酒呑童子から溢れる瘴気がやがて地面に這うと、水と融合し沸騰したように動く。そしてそれは酒呑童子を包んだかと思えば、破裂するように消え失せた。
そしてその中から姿を現したのは、完全体酒呑童子。艶のなかった赤髪は一気に潤いを取り戻し、短かった角は鹿のように大きく伸び、肌のひび割れは完全に修復されていた。
「大昔、ニンゲンをみくびり、この力でサクナを先に殺さなかったことが俺の敗因だ。今回はもう失敗しないぜ、アーハッハッハ!!」
酒呑童子は大声で笑みを浮かべるとさらに続ける。
「本当にお前らは運が悪い。だれが俺を復活させたかは知らねェが、なぜか時間が経つ毎に力がみなぎってくるのを感じる。全力の俺がどれだけ恐ろしいか、その身を持って痛みを、苦痛を、そして侵食を享受するがいい」
酒呑童子は長い爪を生やした真っ白な指を見ると、そこから骨を吐出させて一本の鋭い釘のような物を創造した。
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