星流国の狐族〜池に落ちたら、妖怪しかいない異世界にワープした!?〜

みるくくらうん

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運が悪い日①

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「蠱毒冥冥・呪霧道」


 酒呑童子は再び技を発動させると、さらに大量の黒妖怪を召喚し五芒星によって動けない自身の周りを固め、複雑な五芒星の妖力の絡まりを破壊しようと瞑想に入る。


「五芒星を壊す気か……」


 アサヒは襲い掛かる妖怪を切り裂いて急ぎ酒呑童子まで辿り着こうとするが、無限に湧き上がる黒妖怪達に手間取り中々酒呑童子を攻撃することができず苛立ちを覚える。


「動きを止めても攻撃出来ねーなら意味ねぇ。カゲロウ、俺が抑えてるうちに斬れるか」


 アサヒの問いかけに、同じように黒妖怪に手間取るカゲロウは汗を拭いながら答える。


「この数の黒妖怪をどう抑えんのアサヒ。一気に相手をすると、いくらお前でも瘴気にあてられるよ」


 黒妖怪の血が付着した刀を力一杯振り、黒い血を払うカゲロウ。


「あんま得意じゃねーけど、紙を使う。妖力の量はお前よりあるからな」

「なるほど、物は試しだね。何体出す?」

「五十……いや、百はいける」


 アサヒはそう言って懐からいくつかの紙を取り出し印を組んだ。


「式紙・狐百匹」


 アサヒの黄金に光る瞳が一瞬光ると、狐型に型どられた紙が真っ白な狐に変貌し、百匹の狐に分裂して湧き上がる黒妖怪に噛みついていく。


「ぶっ……狐の顔不細工」


 紙を用いて一時的に生を宿す“式紙”。アサヒはあまり繊細な技は得意ではないため、現れた狐百匹の顔はお世辞にも整っているとは言えなかった。


「るせ!」


 アサヒは少し顔を赤らめながらそう返す。
 瘴気の力で素早く息を吹き返す黒妖怪と、アサヒの妖力で絶え間なく動く式紙達が拮抗してる間、狐百匹を動かすアサヒは集中して印を組み続けなければならなかった。


「今のうちに斬れ、一気に抑える」


 アサヒはカゲロウにそう言い放って妖力を放出する。


「りょーかい」


 カゲロウは刀を構えると、アサヒはカゲロウが酒呑童子に攻撃しやすいよう式紙を操り黒妖怪を抑えた。
 カゲロウは瘴気の薄い気配を感じ取りながら酒呑童子に近付くと、首めがけ一文字に刀を振る。
 しかし、その瞬間五芒星に亀裂が入ると、酒呑童子が屈んでカゲロウの攻撃を寸前で避けた。


「!?」


 カゲロウは空振りに終わった刀を瞬時に持ち替え、自身の脇下を潜らせ後ろから襲う黒妖怪に突き刺してから酒呑童子の濃い瘴気の気配を避ける。


「ゲホッ……(瘴気で気持ち悪くなってきた。瘴気は気味悪いくらいにどんどん濃くなっていく。早いうちに仕留めないと厳しい)」


 カゲロウは目眩にも似た感覚に眉を顰め、ゾッとするような瘴気の気配を避けながら酒呑童子の様子を伺った。
 酒呑童子はうっすらと目を開くと、ニヤリと歯を見せて笑みを浮かべる。


「やっぱりこの五芒星はクオンほどじゃねぇなァ……馬鹿みたいに質量はあるが、青くせぇ妖力だ。
 それにカゲロウとか言ったか?お前の刃、全くなってない。やっぱりカグツチを纏った刀じゃないとなァ、ゲンドウ」


 酒呑童子は首を鳴らしながら余裕の笑みを見せたため、アサヒとカゲロウは悔しそうな表情を浮かべる。
 ゲンドウは木々の隙間から大量に溢れる雨を眺めると、目を細め深刻そうな表情を浮かべた。


「(カグツチを刀に宿らせるには“雨”では不可能。雨に宿る僅かな水の妖力でカグツチが不機嫌になるのを、彼奴は知っているのだな)」


 火の化身カグツチが放つ炎は、普通の炎とは違い殺傷能力に優れているが、ここまで土砂降りの雨が降れば発動できる技も限られる。
 大昔酒呑童子と対峙した夜帳一族の当時の長は、カグツチを刀に纏い酒呑童子に大打撃を与えたが、この状況ではカグツチの制御が出来ないとゲンドウは眉を顰めた。


「今日のお前らは運が悪い。天は雨を降らせ俺の味方をしている。ひよっこの九尾は大したことねぇし、犬はただ刀を振り回す雑魚。極め付けはそこのニンゲン……無謀なことをしようとしているな」


 酒呑童子の言葉に、ナツメはピクッと目を動かし反応を示す。そして顔を酒呑童子の方へ向けて真顔で睨んだ。
 五芒星は徐々にひび割れていく中、手を動かせるようになった酒呑童子はコキコキと関節を鳴らし笑みを浮かべナツメを見たあとヒサトを指差す。


「もうその犬は手遅れだぞ。神様でもなきゃ、そいつを普通の妖怪に戻すのは難しい……わざわざそいつの動きを止めてるが、?」


 酒呑童子がそう言い放った瞬間、五芒星が粉々に砕け光が失われる。降り注ぐ雨が酒呑童子の周りに瞬時に吸い寄せられるのを見たアサヒは、慌てて口を開いた。


「避けろ!」


 アサヒの声に反応したカゲロウは酒呑童子から慌てて距離を取り、ゲンドウはヒサトとナツメを庇うように前に立って大きく吠える。
 その刹那、瘴気の濁流を巻き起こした酒呑童子がその波の上に乗り、穢れた水を操作してアサヒ以外の全員を濁流の中に飲み込んでいった。


「っナツメ!!!!」


 瘴気の影響を受けないとはいえ、水に巻き込まれれば呼吸が出来ないことは明白だったため、アサヒは慌てて印を解いて濁流の中へ飛び込もうとする。
 しかし、次の瞬間に酒呑童子は目を見開いた。


「なんだと……?」


 濁流が四人を巻き込むことはなく眉を顰める酒呑童子。狼狽える酒呑童子を見たアサヒとカゲロウはナツメの方を見る。


「っ……!」


 この場にいるものは、一瞬声を失ったのように驚いていた。その理由は、ナツメがゲンドウとヒサトをかばうようにして前に立ち、濁流に対して手を翳し神通力を使うことで攻撃を防いでいたからだ。
 

「っこんのやろぉっ~!!!こんな真っ黒な水、こっちに向けんじゃねぇ~!!!」


 ナツメは大声をだすと、数珠が激しく光る。


「なぜ……」

 
 ふとゲンドウはとある疑問を覚えナツメを見た。
 神通力を使い濁流を止めて押し返しているだけでなく、そこから瘴気が吸われている。ヒサトの動きも魂縛呪で止めたまま行なっているため、ナツメは三つの力を同時に使っていることとなる。

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