星流国の狐族〜池に落ちたら、妖怪しかいない異世界にワープした!?〜

みるくくらうん

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酒呑童子⑤

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「あー?簡単だろこんなの、瞬間的に妖力をブワーッとだな……」

「いやそう言う次元じゃ無いって」


 妖力の質や量にももちろん個人差があり、九尾であるアサヒは格別に妖力の質が良い。本能的に瘴気を押し返しているアサヒは、禍々しい瘴気を放つ酒呑童子に対して自身の妖力使い上手く立ち回った。


「神力のあるニンゲンだけじゃ無く、夜帳の犬や九尾まで来やがって……あの日の再現でもしようってのか?せっかく封印が解かれたってのに」


 酒呑童子は悔しそうにそう吐き捨てると、分身を一度集めて様子を伺うように一斉にナツメを睨む。


「あの日、夜帳一族が俺を焼き、サクナが俺の瘴気を枯らし、そして九尾のクオンが強力な祠を作ってサクナと共に俺を封じた。どいつもこいつも必死に俺に抗った。
 逆に言えば、それだけ数を揃えてもこの俺を完全に滅することは出来なかったっつーことだ」


 そう言って愉快に笑う酒呑童子だが、ナツメを見る目は執着にも似た恨めしい瞳だった。


「(なんかめちゃくちゃ睨まれてる……)」


 余程サクナの存在が酒呑童子にとって脅威だったことが伺え、ナツメは抵抗するようにむすっとした表情で酒呑童子を睨む。


「さーて、どうしようかなー。逃げても良いけど、恨みがある奴ほど殺したくなるのが俺の性……いや、鬼のさがか」


 酒呑童子は指を鳴らし、一人残って他の六体を四方八方に散らせた。
 ゲンドウは耳を澄ませ、闇に消えた分身達を音で追う。


「酒呑童子の分身は、均等に瘴気を分けているから本物の区別がつきにくい。片っ端からぶった斬って本体を探すのじゃ」


 ゲンドウはそう言って柄を握ると、目の色を変えてすぐさま後ろを振り向き酒呑童子に向かって刀を投げる。
 その刀は酒呑童子の頭を貫き、一時的に動きが止まった。


「一体目」


 そして懐の短刀を取り出したゲンドウは次に右を向いて二体の酒呑童子を相手に斬りかかる。


「二体同時じゃ」


 そして、激しく回転した後持っていた短刀を四体目の酒呑童子の喉目掛け突き刺した。


「四体目。こっちはハズレじゃ」


 その華麗な動きを見たナツメはあんぐりと口をあけた。


「す、すっげぇー!ゲンドウさんあんな強いんだ!?」

「未だ夜帳一族の長をやってるぐらいだからね。誰もお館様には敵わないんだ」


 カゲロウはそう言って構えると、耳を澄ませ近くに居た一体の酒呑童子の首を切る。


「ハズレかな。アサヒ、そっちだ」


 ゲンドウとカゲロウが相手した酒呑童子は全て偽物だと分かり、アサヒは耳を研ぎ澄ませあらゆる方向から来る酒呑童子と対峙する。
 残り二体のはずが、アサヒを取り囲んだのは五体の酒呑童子。


「!?増えてやがるッ」


 アサヒは目を見開き一瞬驚きを示すも、妖力を放って瘴気を一旦跳ね返し目を光らせ攻撃に備える。


「酒呑童子は最大で十体分身する。森の闇に紛れ分身を増やしたか」

「アサヒ!」


 ゲンドウとカゲロウは分身を抑えつつアサヒに駆けつけようとするも、ナツメはとある異変に気づく。


「あれ……」


 ナツメはアサヒを囲む酒呑童子のうちの一体を見ると首を傾げた。
 ある一体だけみぞおちあたりが他の酒呑童子に比べ濃い瘴気を放っていることに気付き、ナツメは慌てて口を開く。


「アサヒ!右斜め後ろの酒呑童子が本体かも!色が違う!」


 ナツメはそう言い放つと、指摘を受けた酒呑童子は目を引き攣らせる。
 アサヒはナツメの言葉を聞くと瞬時に本体と思わしき酒呑童子に鋭い蹴りを入れ地面に叩きつけ、爪で体を切り裂いた。その瞬間、他の酒呑童子の動きが鈍ったためゲンドウは笑みを浮かべる。


「アタリじゃの。見事だナツメ(サクナよりも瘴気を見る力に長けてるのぉ)」


 ゲンドウは関したようにナツメを見た。


「ゲホッ!ゲホッ、おえっ……」


 強い妖力で攻撃を受けた酒呑童子は、思わず咳き込んで地面に転がる。


「クソッ、クソッ、ナツメとかいうニンゲン、なんなんだ!?サクナよりじゃねえかよ!!」


 酒呑童子は悔しそうにナツメを睨むと、そのまま立ち上がって禍々しい妖力を放ち分身を消し去って集結させる。ナツメの瘴気を視る力が強く、分身での戦法が通用しないと悟った酒呑童子は呆れた表情で酒を飲んだ。


「お前、厄介だな」


 酒呑童子はナツメを見て面倒だと言いたげに憂鬱な表情を浮かべると、持っていた酒瓶を地面に落として割ってみせた。その酒を踏んだ酒呑童子は、凝縮させた瘴気を纏うと、地面の酒がふわふわと浮き上がらせる。
 ゲンドウは刀を構え警戒心を露わにさせた。


「元々、黒妖怪に堕ちる前の酒呑童子の妖力属性は水じゃ。黒妖怪に落ちたことで酒を媒介にし火や氷を使えるようにはなったが、本来の属性の技を使わせると厄介じゃぞ」


 妖怪の目ではただ水滴が浮き上がっているように見えたが、ナツメの目には酒が黒く色を帯びて細かい水滴状に分裂し、針状の瘴気が浮き上がっているかのように映った。


「細かい黒い針がいっぱい……こんなの飛んできたら、みんな怪我しちゃうじゃん」


 ナツメはそう言って祈りのポーズをとる。





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