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酒呑童子②
しおりを挟む一方のカゲロウは、星の祠付近で犬化し、酒呑童子と対峙していた。
カゲロウが到着した時には星の祠はすでに破壊されており、警戒し重ねていた封印の札が何故か剥がされていることに気付いたカゲロウは、冷静にその様子を式神に伝えツクヨミに送る。
「(何者かが意図的に封印を剥がしてる……一体誰が)」
そんな中、破壊された星の祠の横で酒呑童子は肩を鳴らしながら胡座をかいていた。
「いてて……クソー、サクナとかいうクソ女のせいでこのザマだ、アイツ一発犯してやらねーと気が済まねぇ……!
いや、もう死んでるか?アイツ人間だもんなアハハ」
そう言って愉快に笑う酒呑童子。品性の無い話し方とは裏腹に、悪鬼と呼ばれる前の美少年の面影が残る。
しかしながら、真っ白で儚げな肌はひび割れを起こし禍々しさを増しており、瞳は真っ黒に染まっていた。
酒呑童子は自らの赤く尖った角に触れ、深い溜息を吐く。
「はぁーぁ。久しぶりに出られたっつーのに、肌にヒビは入ってるわ、角は短いわで最悪じゃねーか。折角の色男が台無しだなこりゃあ」
酒呑童子は腰にぶら下げた酒瓶を持つと、それを豪快に零しながら飲み一息つく。不完全な復活ではあるが、その見た目は伝説通りの色男で、カゲロウは疑うことなく目の前の鬼が酒呑童子だと分かった。
「(アレが数多の女を誑かし、その怨念で黒妖怪になったと言われている悪鬼”酒呑童子“か。ただ存在するだけでこの瘴気……まともに戦えばどうなることか)」
カゲロウは漂う濃密な瘴気に眩暈を起こしながらも、歯を食いしばり酒呑童子を睨む。
酒呑童子はカゲロウを見ると、ヘラッと笑って口を開いた。
「何だよ、さっきからジロジロと。お前が封印剥がしてくれたのか?可愛いわんちゃん」
酒呑童子は呑気にそう問いかけると、カゲロウは真顔で目を細め警戒心を露わにする。
「違うよ。むしろ逆かな。封印を重ねてた張本人だよ」
カゲロウはいつもの穏やかな声色ではあるが、その語尾は低く怒りを秘めた様子が伺えた。
「あーそー。どーりで中々出られなかったワケねぇ……気にくわねぇなー、俺の邪魔するなんてさぁ」
酒呑童子はゆっくりと立ち上がり、わしゃわしゃと自らの紫がかった髪を掻きながらニヤついた表情を浮かべる。
何を考えているかさっぱり分からないその雰囲気を不気味に感じたカゲロウは、警戒心を怠ることなく腰に携えた刀に手を添え臨戦体勢を取った。
「俺さー、そこそこ力のあるやつをここまで呼び寄せて喰って、力溜め込んで派手に復活しようと思ってたんだよ。でも、中々上手くいかねぇもんだなあ、アハハ」
酒呑童子は狂った笑みを見せるとさらに続ける。
「まあ雑魚何匹かは喰ったから、こうして不細工ながらも形はなんとかなってるってこったぁ。でも、まだ腹が減って仕方がねぇーの」
「何が言いたい」
カゲロウは柄を握り足に力を込め酒呑童子を睨み付けた。
「わんちゃん、俺の餌になってくれよ。お前美味しそうだしさぁ」
酒呑童子はそう言ってカゲロウに凄い勢いで迫ると、酒を口に含みカゲロウに思い切り吹きかける。
酒は酒呑童子の妖力で炎へと変わり、カゲロウは驚いたように目を見開いた。
「焼き犬いっちょ上がりーってかぁ?アハハ」
酒呑童子は嬉しそうに笑うが、カゲロウは目の色を変え抜刀し火を振り払うと、無傷の姿で現れてそのまま仕返しとばかりに酒呑童子に切りかかる。
あまりのスピードと、カゲロウの雰囲気が変わったことに一瞬目を見開く酒呑童子は、すぐさまその攻撃を避けて一歩後ろに引いた。
「あっれぇー、思ったよりやるじゃないの。何その殺気。よく今の今まで隠せてたね……油断した」
酒呑童子は少し笑みを浮かべて口を腕で拭うと、眉を顰めぽりぽりと頬を掻く。
酒呑童子が封印される前の世界にカゲロウはいない。この犬妖怪が只者では無いと悟った酒呑童子は考え込む仕草をした。
「結構強いなら、喰うには勿体無いな……そうだ、お前器にしようか」
酒呑童子は思い付いたようにポンっと手を叩くと、満面の笑みでカゲロウを見て指をさし続ける。
「力振り絞って瘴気出して妖怪に感染させたところで、俺の元に来るやつは雑魚ばっかりなんだよ。お前みたいな“器候補”待ってたんだぜぇ?」
「器……?その肉体を捨てる気なのか」
「まあ見ての通りボロボロだしよォー。お前の魂ごと貰えば力も強まって良いことづくめだろ?」
酒呑童子は再び口に酒を含むと、またもやカゲロウに吹きかける。カゲロウは同じように刀を振るうが、刀に酒が付着した瞬間氷が発生しカゲロウは目を見開き妖力を放出してそれを無理矢理振り払った。
酒呑童子は間髪入れず今度は床にも酒を吹き飛ばし氷の壁を発生させると、それを蹴り飛ばしてカゲロウに攻撃をする。
カゲロウは一度大きく息を吐いて構えた。深く腰を落とし前のめりの体勢になったカゲロウを見た酒呑童子は、ピクッと顔をひくつかせる。
「陽炎・闇舞」
カゲロウは技を発動させると刀を振る。
すると、氷の破片達は次々に揺らめき始め跡形もなく蒸発していった。
酒呑童子は細かく震えながら呆れ笑いを浮かべる。
「その刀構え、まさかお前“夜帳流”を使うのか」
酒呑童子の問いかけに、カゲロウは眉を顰めながら答える。
「そうだけど」
酒呑童子はサクナが封印したとは言われているが、それにはゲンドウを含む夜帳一族も加担していたとは聞いていたカゲロウ。構えを見て夜帳流を言い当てられたため、酒呑童子の中ではよほど印象的だったのであろう、カゲロウは鼻で笑ってさらに続けた。
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