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サクナとクオンの出会い③
しおりを挟む『……なんなんだアイツは。人化してやったのに逃げやがって』
『最強だの神様だのと言われ祭り上げられてはいるが、あれでもまだ年頃の娘なのだ。お前の見た目がよっぽど綺麗だったからか、恥ずかしくなったんだろうな』
クオンはゲンドウの言葉を聞くと、頬をぽりぽりと掻いて反応に困った表情を浮かべた。
『綺麗だぁ?けっ、ニンゲンっつーのは本当に何考えてるか分からねぇ』
言葉ではそう言うクオンだが、照れ隠しにも見えたゲンドウは眉を下げて笑った。
『まあそう言うな。サクナは正真正銘、心が清らかなニンゲンだと思う。悪意がないことはお前も分かっただろう?クオン。お前もサクナと同じで、他者の悪意を見抜く力があるんだからな。
そもそも、わざわざちょっかいをかけにきたのだから気になっていたのだろう?噂の美人巫女が』
ゲンドウはニヤッと笑ってそう問いかけると、クオンはばつの悪そうな表情を浮かべる。
『フン。だからといって、俺は共存を認めた訳じゃないぞ。ニンゲンなんざ信じねぇ』
『ニンゲンは信じずとも、サクナは信じてやってはくれないか。ここ一帯を汚染していた瘴気を、サクナが身を挺して清めてくれた。その恩として今は我ら黒犬一族がサクナを守っているが、サクナをよく思わない妖怪はそこらじゅうにいる。中には強大な力を持つサクナを喰って力を得ようとする妖怪もいる。
サクナはこれから、一生身を守り生き続けなければならない』
ゲンドウはぽつぽつと語り、何かを憂いたような瞳で雲を見た。クオンは真顔で話を聞く。
ゲンドウは小さく口を開いてさらに続けた。
『……サクナは、元々は妖怪に両親を殺された不憫な娘だった。その時にはすでに力に目覚めていて、悪さをする妖怪をよく懲らしめていたそうだ。
だが、ある日サクナの留守中にその妖怪が腹いせで両親を殺した』
クオンはサクナの過去を聞くと目を見開く。
『胸糞悪い』
クオンは綺麗な顔を顰めそう吐き捨てた。
『サクナは怒り狂って、犯人の妖怪を追い詰め殺す一歩手前までいった。もちろん他の人間もそれを手伝った。
……だが、最終的にサクナはトドメは刺さなかった』
『何故だ』
『……そうやって悲劇を重ねることで、同じことが繰り返されると気付いたからだ』
クオンは肯定も否定もせず、自身の手に力を入れてグッと拳を握る。
『それでもサクナは哀れか?滑稽か?答えよ、クオン』
ゲンドウがそう問いかけると、クオンは目を細めた。
『どっちもピンとはこねーな。だが、ニンゲンと妖怪が仲良くするなんて、そんな夢物語を語ってる時点で馬鹿だとは思う。分かり合える訳がねーからな。
いつの時代もお互いを線引きしてきた。一人だけが良心的でも何の意味も成さない。誰かが必ず壊すんだ。そしてそれがきっかけで簡単に崩れていく。
結局、ニンゲンと妖怪はそれの繰り返しだろ』
クオンはゲンドウと同じように空を見上げ、これまで繰り返された人間と妖怪の歴史を振り返った。
確かに良い人間もいた。だが悪い人間や、妖怪を快く思わない人間が圧倒的に多かった。繰り返される戦争、牽制し合う関係性。それを見てきたクオンは、人間と関わることに疲弊していた。
『歩み寄ったところで、結局は人間の命は儚い。そしたらまたやり直しだろうが。サクナの理想は叶うことなんて無い。あの馬鹿女と仲が良いなら目を覚まさせてやれゲンドウ』
クオンはゲンドウの胸ぐらを掴み、さらに続ける。
『……アイツが妖怪に対して絶望する前にな』
ゲンドウとクオンは睨み合うも、ゲンドウは軽く溜息を吐いてクオンの手を掴み胸ぐらを掴むのを止めさせた。
ゲンドウはクオンのニンゲン嫌いの根底が、弱い種を脅かさない道を作るための演技だと気付く。
きっとこれまで、純粋なニンゲンが妖怪に傷付けられていく様子を何度も見てきたのであろう。過度に妖怪に関わるニンゲンの末路を知っているからこそ、あえてニンゲン側から妖怪を避けさせるために攻撃をし、妖怪を怖いと思わせている。
“自分は最強の九尾ではあるが、神様では無い”
だから、理想郷を作り上げることはできない。全員を守れるわけではない。そう悟ったクオンの精一杯の形が、ニンゲンを嫌うことだった。
『純粋なニンゲンを守りたい、と思う気持ちは分かるがなクオン。サクナは儚い命を、妖怪と分かりあうために生きようとしている。根底はサクナもお前も同じなのだ。だが方法が違うだけ。
クオン、お前は距離を保つことで共存が叶うと思っている。だがサクナは共に生きることこそ共存だと思っているのだ』
ゲンドウは真っ直ぐな目でクオンを見る。
『共に生きる、か』
クオンは叶うはずがないと小さく笑うも、叶えばいいと思っていることに気づいた。
会ったばかりのサクナを鮮明に思い出すクオン。牙を向き爪を出した自分に対しても笑顔を見せたサクナが、どこか胸に残って離れない。
サクナの存在に感じたことのない感情を芽生えさせ、それを認めたくないが故に頭を掻き舌打ちをするクオン。
サクナはこれまで出会った人間とは全然違うことに、クオンは一目見た時から気付いていた。
『あの小娘を信じる信じないは別として、暇潰しに結末ぐらいは見届けてやってもいいかもな。俺は手伝わないが』
クオンはそう言って鼻で笑うと、ゲンドウから背を向けて何処かへと消えていった。
『まったく、素直じゃない奴だな』
ゲンドウはほっとした表情を浮かべてから小さく笑った。
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