星流国の狐族〜池に落ちたら、妖怪しかいない異世界にワープした!?〜

みるくくらうん

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サクナとクオンの出会い②

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『貴方は私を殺さないと思ったから』


 サクナは目を細め美しい笑みを浮かべる。
 サクナの笑顔に魅了されたクオンは一瞬目を見開いた後、まるで見透かされたような気分になり悔しそうに顔を歪めた。


『フン……丸腰のニンゲンを殺すほど落ちぶれてはいない』


 クオンはそう言って舌打ちをする。


『そもそも貴方、ニンゲンを嫌っている割には“殺した”っていう噂はちっとも聞かないわね。……本当は優しかったりするのかしら?』


 サクナの指摘にクオンは表情を歪め、明らかな動揺を見せ思わず目を逸らす。


『馬鹿かお前。だいたい、今ので死んでたらどうするつもりだった』

『うーん。そうね……』


 サクナはうーんと首を傾げ考えた後、あどけない少女さを含んだ、純粋で愛らしい満面の笑みを浮かべて答えた。


『輪廻転生して、“何するのよ馬鹿”って言って引っ叩こうかしらね』

『……』


 輪廻転生は妖怪の概念。それをあっさりと口にしたサクナにクオンは少し驚きを見せた。


『人間風に言うと、化けて出てきて驚かせちゃう、って感じかしら』


 サクナはそう言ってコロコロと笑う。


『なーんて。本当はね、貴方から殺気を感じなかったから避けなかっただけなの。私、そういうの分かっちゃうから。貴方は私を殺したいなんて、一滴も思ってない』


 サクナは人差し指を立てて可笑しそうに笑う。


『(……調子が狂う。よく笑って喋る女だな)』


 その純粋な笑みを見たクオンは、狐妖怪で最強と言われる九尾の自分に対し、終始怖気付かないサクナの態度を見ると拍子抜けした表情を浮かべ、やがて背を向けた。
 気付けばクオンの逆立っていた毛並みはすっかり落ち着きを取り戻し、元の美しい毛並みになっている。ゲンドウはそれに気付き、クオンがサクナに自然と絆され始めていることに気付いた。


『もう行くの?』


 サクナは背を向けたクオンにニコッと笑みを浮かべながら問いかけると、クオンは少し振り返り目を細める。


『……まあな。お前と話していると馬鹿が感染る』

『は』


 サクナは突然の悪口を受け目を丸くした後、ムスッとした表情を浮かべクオンに駆け寄り飛び蹴りを食らわす。普通の人間がする飛び蹴りとは違い、サクナの神力が篭ったそれはクオンに少なからずダメージを与えた。
 クオンは眉を顰め目をひくつかせる。


『この野郎……いきなり何しやがる小娘!』


 クオンはぐるっと振り返り苛ついた表情を浮かべながら文句を言った。


『そっちが失礼なこと言うからじゃない!』


 サクナはぷくっと頬を膨らませ仁王立ちする。


『アホ丸出しの面で笑ってるからだろ!このブス!』

『はぁ!?なんですって!?天下の九尾様の癖に品がないわねぇ!そっちこそ人化したらブスなんじゃない!?あ、分かった!だから人化出来ないんだ~』


 サクナは売り言葉に買い言葉でクオンを挑発すると、後ろで見ていたゲンドウは溜息を吐いてやれやれと首を振った。
 サクナは最強と謳われてはいるがまだ14歳の少女。少々子供っぽい部分もあるが、普段は気を張っているためここまで子供らしさを出す事も珍しく、ゲンドウは小さく笑って安心した表情を浮かべた。


『(サクナの子供っぽい姿、久しぶりに見たな)』


 ゲンドウは内心そう思いながら二人のやり取りを見守る。


『テメェ……言わせておけば……』


 挑発を間に受けるクオンは舌打ちをし、やがて意を決したようにギュッと目を瞑った。


『あら?』


 サクナはキョトンとした表情を浮かべ首を傾げる。
 クオンの妖力が渦を巻き濃縮され、辺り一面は煙だらけになった。人化することに慣れていないため妖力のコントロールがしばらく出来なかったクオンだが、やがてその煙の中から人化したクオンが顔を出す。


『どーだ、小娘』


 月の光のような銀色の長髪を靡かせたクオン。切長の目と透き通る海の色のような青い瞳は、宝石のような輝きを思わせた。サクナに近付いていくクオンは、形の良い唇を動かし得意げに笑って見せる。


『…………』


 サクナはクオンを見上げ呆然とした後、みるみると顔を赤くし後ずさる。クオンはサクナの反応が何を意味するのか分からず首を傾げた。


『おい、なんとか言え』


 クオンの問いかけにビクッと肩を震わせたサクナは、小さく口を開く。


『ば』

『ば?』

『ばかー!!!!』


 サクナはそう言って慌ててその場から逃げるように立ち去ると、残されたクオンは顔を引き攣らせる。


『は?』


 ゲンドウは苦笑しながらクオンの方へ近寄った。


『照れてしまったんだろう』

『アイツが?俺に?』


 ゲンドウは微笑みながら頷くと、空を見上げ続けた。

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