星流国の狐族〜池に落ちたら、妖怪しかいない異世界にワープした!?〜

みるくくらうん

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サクナとクオンの出会い①

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「ああ。まるで神のように扱われていたサクナだったが、突然現れた流浪の九尾・クオンはサクナに対して無礼な態度を取っていたがね」


 ゲンドウはその光景を思い出す。



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『サクナとかいう、神様気取りのニンゲンはここにいるか?』


 九つの尾を揺らし毛を逆立てた妖怪が、サクナの目の前に現れる。サクナは当時、最強の巫女として人間の主導者となっており、のちの夜帳屋敷を造ることになるゲンドウの一族を偶然黒妖怪から救ったことで、その一族から守られるようになっていた。
 若かりし頃のゲンドウもまた、サクナを守る存在。クオンの前に立ちはだかり顔を顰めた。


『無礼者。クオン、結界を破ったのか』


 ゲンドウは人化を解き犬化するも、クオンは馬鹿にしたように鼻で笑う。


『結界?そんなものあったのか?ニンゲンの真似事をする妖怪の作る結界なんぞ、まるで紙切れのようだぞ。犬っころのゲンドウよォ』


 九尾の妖力を持ってすれば、ある程度の結界は破ることができる。クオンはゲンドウを見下ろし馬鹿にしたような目を向けた。


『貴様……』


 ゲンドウが言い返そうとしたところ、サクナは後ろから声を出す。


『ゲンドウ、いいわ。私が出る』


 サクナはそう言ってゲンドウの後ろから現れると、初めて見る九尾の姿に一瞬目を見開くが、決して恐怖心を出すことなく微笑んで見せた。
 護衛を掻き分け九尾の前に顔を出したサクナは、堂々とした様子で口を開く。


『初めまして、私がサクナよ。貴方が噂の“流浪の九尾”?あちこちで暴れて人間の家を壊してるらしいじゃない。何もしていない人間を襲うなんて、無意味で愚かね』


 弓矢を背負ったサクナは、黒髪を紐で束ねながらクオンに恐怖することなくそう言う。余裕な佇まいのサクナに対し、クオンは顔を顰めた。


『ニンゲンと妖怪が仲良くするなんざお断りだ。お前らニンゲンが妖怪にしてきたことを忘れたか?見るだけで虫唾が走るんだよ』


 人間は妖怪を恐れるあまり、時には酷い仕打ちをしてきた過去がある。クオンはそんな人間を毛嫌いしており、人化することも一切無かった。
 サクナは溜息を吐いてやれやれと首を振る。


『それはお互い様でしょ?人間にも悪い人間と良い人間がいるし、妖怪もまた同じじゃない。妖怪だって、そこらじゅうで人間を襲ってた。どうして人間ばかりが悪いだなんて決めつけるのよ。あなた馬鹿なの?』


 サクナはここぞとばかりに鼻で笑ってクオンを見上げた。


『何だと小娘、俺様に向かって馬鹿と言ったか』


 クオンは牙を見せ怒りを露わにするも、サクナは動じない。


『お互い手を取ろうとする意志があるなら、それはそれで良いと思わない?私は私と仲良くする気がある妖怪と仲良くしているだけ。貴方に関係ある?だいたい何しに来たのよ。わざわざ文句言いに来たのかしら』


 サクナは正論をぶつけ捲し立てる。


『言っておくけど、私が目の届くところで暴れるなら容赦しないわよ』


 サクナは美しい夜明け色の瞳を輝かせながらクオンを睨み付けると、クオンは苛立ちを見せる。


『貴様がいるおかげで、妖怪がどんどん人化して生活するようになった。何故妖怪がニンゲンのフリをして生きねばならない?弱く、短命で、臆病で狡猾なニンゲンを真似るなど屈辱だ。お前は何がしたい。妖怪を手懐けて何を企む』


 クオンはサクナが何か良からぬことを企んでいると考えているのか、その真意を探りに来た様子だった。


『企むって何よ。私の理想はね、妖怪も人間も平和に暮らす世の中なの。だいたい人間は、妖怪と違って短い命なのよ?その短い命、楽しく生きたいじゃない』

『今までも何度も綺麗事を言うニンゲンがいた。だがどいつもこいつも最後には裏切りやがる。俺を見て恐怖心を出して攻撃し、やり返せばまるで被害者面だ。ニンゲンは信じない』

『あっそ。好きにしなさいひねくれ狐』


 サクナはそう言って満面の笑みを浮かべ続ける。


『もう一度言うけど、私は何も企んでなんかないんだから。それに貴方の事、全然怖くない。むしろ貴方が私を怖がってる』


 クオンはピクッと眉を動かす。


『なんだと?俺が貴様を怖がる?上等だ』


 クオンは牙を剥き出しににして思い切り右足を上げて爪を突き立てるように振り落ろした。濃い妖力が一気に噴き出し、周囲は恐れ慄いた。


『っサクナ!!!!』


 後ろで見ていたゲンドウが叫ぶ。


『…………』


 しかしその爪はサクナに突き刺さることなく、目を貫く寸前で止められていた。ゲンドウはほっとした表情を浮かべる。
 サクナは真顔で立ったまま動じず、やがて少し笑みを浮かべ口を開いた。


『殺さないの?』


 サクナは何の力も使っていなかった。クオンが寸前で攻撃をやめていたため、無傷のままその場に立つことができている。


『…………何故避けない。噂に聞く魂縛呪はどうした』


 サクナが強力な力を使うと分かっていたクオン。しかしそれを使わなかったことに動揺し、鋭く尖った爪がサクナを切り裂く寸前で動きを止めた。
 クオンは一歩下がって訝しげにサクナを見る。








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