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神降明嵐珠②
しおりを挟む「……古いが、この本を読むと良い。サクナの手書きの書物だ、お前に授けよう。ワシが持っていても何も意味がないものだ」
ゲンドウは古い本の表紙を一瞬撫でて埃を落としてからナツメに手渡す。表紙には何も書いておらず、ナツメはそれを受け取ると頁を捲った。
中には神降明嵐珠について記載されており、時々掠れてはいるが状態は良く、ナツメはそれを読み進めていく。
祖父が大事そうに持っていた数珠はただの数珠ではなく、こちらの世界で神降明嵐珠と呼ばれる物だった。なぜそれが自分の元いた世界にあったかは分からないが、器は元いた世界にあり、核は今いる世界にあったということになる。
神降明嵐珠は、“魂縛呪”、“瘴気借力”、”神通力“という三つの力を操ることができる力を引き出す神器。
魂縛呪は相手の魂を一時的に支配し動きを止めるが、1日に使用できる回数は数回程度。
瘴気借力は、瘴気を取り込み妖力へと変換させるが、人間の体に妖力を宿すことは毒となるため溜め込んでおくことが出来ない。
神通力は、あらゆる万物を意のままに操ることができる強力な技だが、使用すると三日間は上記二つの力を使用できず、一時的に体力が著しく低下するため注意が必要。
「また、神降明嵐珠はヤマタノオロチを滅することのできる唯一の神器、天羽々斬を召喚する道具でもあり、その召喚には」
ナツメはそこまで読むと言葉に出すことはせず目を見開く。
「(その召喚には、……自身の命が媒介となる)」
サクナはヤマタノオロチを滅して命を落としたとされていたが、真実として、天羽々斬を召喚したことで命を落としたということになる。
「(もしヤマタノオロチが出てきたら、オレは……)」
ナツメの様子が変わったことに気づいたアサヒは首を傾げる。
「どーした、急に黙って」
「っ」
ナツメはパタンと本を閉じ笑みを浮かべた。
「なんでもねーよ。帰ったらゆっくり読む」
ナツメは本を風呂敷にしまう。ゲンドウはなんとなく察したが、その部分については特に触れることもなく口を開いた。
「そもそもナツメ、お前は何処から来て、どこで神降明嵐珠の器を手に入れたのじゃ」
ナツメはゲンドウの質問を受けてアサヒを見る。
アサヒが小さく頷いたため、ナツメはこれまでの経緯をゲンドウに出来るだけ分かりやすいように話した。
「……信じがたい話じゃな。しかし、予知夢を見るサイカの言う通りになったのだから、本当なのだろう。それに、見事に封印を解いたのだから間違いなくナツメはサクナの力を有しておる。ダイダラボッチの瘴気も、ツクヨミの瘴気を吸ったのも瘴気借力の力を引き出した、ということになるな」
「でもさー、なんで核が揃ってなかったのに使えたの?」
これまでナツメは、魂縛呪や瘴気借力を使用した経験があったため首を傾げた。
「その封印された核は神通力の核。他の二つの力を使うための核はすでにその数珠に宿っているということじゃ」
ゲンドウは箱に入っていた巻物を開きそれを見ながら説明する。
「3つの核が無ければ、天羽々斬を召喚することもできぬ。だから、このように厳重に保管したのだろう」
完成形となった祖父の形見。そしてそれを操れるのはナツメだけであり、サクナはまるで歴史が繰り返されることを予知したかのようにこうして核を厳重に保存する道を選んでいた。
「これで、オレは最強ってことだな!」
ナツメはニカッとアサヒに笑いかけるとアサヒは溜息を吐く。
「調子のんな。危ねーことはさせねぇからな」
アサヒはそう言ってナツメの額を指で弾く。
そんな中ゲンドウは、ナツメをじーっと見つめた。
「それにしても“別の世界”から来たとな……。ふむ、それはワシからすればさして大した問題ではないが、実に不思議ではある。ナツメよ、そのお面を取ることは出来るか」
「え!」
ナツメはまたもやアサヒを見ると、アサヒは口を開いた。
「……ナツメは変わった目の色をしています」
「淡い、夜明けのような色の瞳で、時折不思議な輝きをみせる、美しい瞳なのだろうか」
「っ」
図星だったため、アサヒは動揺した表情を浮かべる。
「なんだ、ゲンドウさん知ってんだ。アサヒがさ、あんまり別の奴に見せたがらないんだよ、オレの目。目立つからって」
ナツメはそう言いながらそっと狐の面を外し、ゲンドウに瞳を見せた。ゲンドウはその瞳を見ると、まるで魅了されたかのようにハッとする。
「……懐かしい色だ。その瞳までもがサクナと同じなのだな」
ゲンドウは切なげにナツメを見下ろすと、優しく微笑む。
その表情を見たナツメは、何かに気付いたような表情を浮かべた。
「ねーゲンドウさん。もしかしてサクナのこと好きだった?」
「!」
ゲンドウはナツメの質問に目を見開いた後、突如声を上げて笑い出したため、アサヒとナツメは目を丸くする。
「あぁすまぬすまぬ……あまりにも可笑しくての」
「違った?」
ナツメは首を傾げた。
「……サクナは当初から最強の巫女として名を馳せていてな。妖怪と人間の垣根を無くし今の文化を作る礎を作った偉大な方じゃった。愛おしいというよりは、敬愛していたのじゃろうな」
「そんなすごい人だったんだね」
ナツメがそう返すと、ゲンドウは小さく頷く。
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