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神降明嵐珠①
しおりを挟む「少しツクヨミの伝言にもあったが、瘴気を取り込むことが出来るのも本当なのじゃな」
「うん」
「そうか……」
ゲンドウは低い声で相槌をうつ。
「(突如多発している黒妖怪で、この国は混乱に陥ろうとしている。そして幸か不幸か、ニンゲンが絶滅したこの世界で、最強の巫女の力を受け継いでいるニンゲンが突如現れた。
これは偶然なのか、それとも……)」
ゲンドウは少し振り向きナツメの姿を確認すると、目を細め思いに耽る。
遠い昔、幸せそうに笑みを浮かべるサクナと、その横で愛おしそうにサクナを見下ろすクオン。
場面は移り変わり、黒妖怪が多発し、サクナとクオンは共闘しそれを祓う。
人間の死体が転がり、傷つく妖怪が溢れ、混乱した国でサクナは立ち向かい、そして最後は救ってみせた。
「(もし、あの歴史がまた繰り返されるのなら……ナツメはサクナと同じ運命を辿るのだろうか)」
ゲンドウは、サクナの最期を思い出す。祈りを捧げるようにして技を発動させたサクナ。それを悔しそうに見守るクオン。何も出来なかった若かりし頃の自分。
「(サクナ……お前の力を受け継ぐ者が現れたということは、やはりお前は死んだのだな)」
ゲンドウは喉が熱くなるのを堪え、見慣れた屋敷が目に入ると現実に引き戻されるかのように表情を変え人化に戻り、屋敷の前に立った。
アサヒも同じように人化に戻ると、ナツメを抱きとめて優しく地面に下ろす。
「うわあーでっけー!これが姫様の実家ー!?」
屋敷を囲む大きな塀の長さに目を丸くするナツメ。
「いかにも。まあそう固くなるでない、でかいだけの古い屋敷じゃて」
門番はゲンドウの姿を確認すると、頭を下げて門を開く。
三人は夜帳屋敷の中に入っていった。
「本来なら丁重にもてなしたいところじゃが……カゲロウが心配での。早速例の物をナツメに授ける」
「!」
ゲンドウは屋敷の奥に二人を案内すると、鍵のかかった古い倉庫のような場所の前に辿り着く。慣れた手付きで鍵を取り出し開けると、錠が外れ、暗がりの中で厳重に保管された一つの箱があった。
札が貼られ封印されたそれを、ゲンドウが懐かしそうに眺め、やがて指差しナツメを見下ろす。
「サクナの死後、クオンがワシに預けた“神降明嵐珠があの箱の中にある。あれはサクナ以外触れることのできないものでな。この屋敷を建てたのも、これを隠すためじゃった。この土地はサクナの家があった場所でもあるから、サクナの匂いが微かにまだ残っている」
ゲンドウは懐かしそうに笑みを浮かべると、ナツメはその箱に近づく。
「……なんか、不思議な感じ」
引き寄せられるような、懐かしいような、そんな感覚を覚えたナツメ。アサヒはそれを見守った。
「封印を解けるのもまた、サクナだけ。しかしな、そのサクナはもういない。それであれば、継承者……ナツメ、お前になら解けるはずじゃ」
「……」
ナツメはそっと封印の札に触れる。すると、元々手首に付けていた数珠が反応し青白く強い光を発した。
「!?」
アサヒとゲンドウはその光に目を細め、一歩下がる。ナツメはその光にびくともせず、さらに強く札に触れた。
「何だこの強い光っ……」
アサヒは歯を食いしばり少し腰を落として眉を顰める。
「かなり強い封印をしていたようだ。その封印が今、ナツメの手によって解けるぞ」
ゲンドウが冷静な声でそう言うと、封印の札から文字が消え、やがて中心から亀裂が入り破けていく。やがて強い光はゆっくりと消え、アサヒとゲンドウはナツメの方へ近づいた。
「開けていいんだよね?」
ナツメは首を傾げ箱を指差すと、ゲンドウは小さく頷く。
「もちろんじゃ。それはもうお前の物だからの」
ナツメはゴクリと唾を飲み、ゆっくりと箱を開けて中を確認した。
中には大きめの真珠のような玉が中心に置かれており、それは美しく輝いている。
「……玉?」
ナツメはそれをヒョイっと持ち上げると、拍子抜けしたかのように首を傾げた。神器と聞いていたぐらいなので、とてつもない派手な武器を想像していただけに、アサヒも訝しげにそれを眺める。
「左様。ナツメ、お主が元々付けていた腕の数珠、1つだけ色を失っているだろう」
ゲンドウはナツメの数珠を指差しそう指摘すると、ナツメは目を見開く。
「確かに!あれ?ってことは……」
「気付いたか。神降明嵐珠はナツメが元々付けていた数珠を指す。じゃが、その核が無い状態だったので半端だったのだ。そしてその核が、ここに封印されていた物。
神降明嵐珠はそも核をもって完成する」
「……これが、核」
ナツメは核を見つめてから、色のない数珠の部分にそれを合わせると、小さな光を発した核が一瞬で数珠に吸い込まれていく。そして数珠は青白い光を放ち、より一層眩い輝きを放って完成された。
「なんか、すげーキラキラしてる」
ナツメは神降明嵐珠を見つめ、繊細な輝きを感じ不思議と力がみなぎっていく感覚を覚える。
「そもそも、これって何?」
ナツメがそう問いかけると、ゲンドウは奥から一冊の本を取り出した。
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