星流国の狐族〜池に落ちたら、妖怪しかいない異世界にワープした!?〜

みるくくらうん

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酒呑童子①

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 サクナとクオンの馴れ初めを二人に話したゲンドウ。
 ナツメは聞き終え興味深そうに目を輝かせた。


「へー!!クオンってニンゲンを守るためにわざと遠ざけようとしてて、サクナは手を取り合って生きようとしてたってことかー」


 ナツメは手に持っていた狐の面を再度付け直しながら、感心したようにそう話す。


「左様。クオンは優しい心は持っているが、口は悪いし不器用でな。勘違いされることも多いのじゃ。アサヒ、お前に少し似ているの」


 ゲンドウはまるで孫を見るような眼差しでアサヒを見つめ口角を上げると、アサヒは気まずそうに目を逸らす。



「……器用な方ではないですけど」


 アサヒは眉を顰め答える。


「そーそ、こいついっつも口悪いんだよなー!すぐ叩くしさー」


 ナツメはアサヒを指差してゲンドウを見上げ訴えると、アサヒは舌打ちをしてナツメの首根っこを掴む。


「あーもう、お前はいちいち余計な事言ってんじゃねえぞ」

「掴むなよバーカアーホ」


 二人の戯れを見たゲンドウは、まるでサクナとクオンを見ているかのように懐かしそうに顔を緩ませるも、何かを感じ取ったのか突然真顔になり振り返る。
 アサヒも同様、耳をピクッと動かし目を光らせた。


「どーかしたの?」


 ナツメが二人の様子に首を傾げると、アサヒはナツメ抱えた。


「うわ!?」

「ゲンドウ様、カゲロウの所に急ぎましょう」

「無論じゃ。これは少々まずいな」

「?」


 ゲンドウは急いで蔵から出ると、すぐに犬化して振り返る。犬妖怪の中でも王者の風格があるゲンドウのオーラに圧倒されたナツメは驚きの表情を見せた。
 アサヒも同様に狐化すると、狼狽えるナツメを頭に乗せる。

 ナツメは何事かと目を丸くするも、ふと空を見上げ、木の隙間から見えるはずの空がうっすら紫色になっていることに気付いた。


「……アサヒ、空が紫に」


 ナツメはゾクッと体を震わせた。


「見えるのか」

「うん。早く何とかしないと、みんな黒妖怪になっちゃうぐらいに空に瘴気が広がってる。毒霧と混ざってやな感じ」


 ツクヨミの時に対峙した黒い瘴気とは違い、質の高い悪意に満ちた瘴気。ナツメは懐の猫又を覗き眠っていることを確認すると、優しく抱き上げて片腕で抱きしめた。


「アサヒ、急いで俺のこと連れてって」

「……ゲンドウ様、急ぎましょう」

「うむ。この土地の黒妖怪……あの祠に封印したのは“酒呑童子”という悪鬼。黒妖怪と化した酒呑童子をサクナが無力化したのじゃが、数千年の時を経て復活したのか……?」


 ゲンドウは訝しげにそう言うと、夜帳屋敷の強化を支持しつつ祠の方角へと駆け抜けていった。
 アサヒも急ぎ追いかけると、ナツメは瘴気が濃い方向を指差す。


「アサヒ、あっち!あっち側が濃いよ」

「ああ……俺も感じる。くそ、妖力で押し返さないと簡単に侵食されちまうな」

「気をつけるんだぞアサヒ。ワシは何度も黒妖怪と対峙しておるが、お前はまだ経験が浅い。油断するな」

「はい」


 瘴気を長時間帯びてしまうと、自身が侵されてしまうことはアサヒはダイダラボッチ戦で経験している。まるで泥が纏わりつくような感覚に襲われ、不快感を示し顔を顰めた。
 妖力を纏って身を守るにも体力が要る。ダイダラボッチの時同様、すり減らしながら戦うことになるだろうとアサヒは覚悟を決め目を細めた。


「(アサヒ、毛が逆立ってる……)」


 ナツメはアサヒの身を案じ、祈るようなポーズを取る。


瘴気借力しょうきちゃくりき


 ナツメは先ほどの本で覚えた技名を唱えると、数珠が鋭く光り、周辺の瘴気がナツメに集い吸い寄せられていく。


「うおお!ちゃんと技名言って祈れば簡単に使える!」


 今までは脳内でイメージをし、相手に触れる事で瘴気を吸っていたナツメだが、こうして唱える事で周辺の瘴気を呼び寄せることが出来ることに気付き自分自身に驚く。
 ゲンドウとアサヒは体が軽くなったため目を見開いた。


「今どれだけ吸った?あまりやりすぎると後で大変だ、無闇に力使うんじゃねぇ」


 アサヒは眉間に皺を寄せながらそう言うと、ナツメは困ったように笑みを浮かべる。


「そ、そういう調整はちょっとまだ難しい……」

「ったく、薄い瘴気ぐらいなら俺の妖力で跳ね返せるんだからお前はあまり無理するな!」

「うん」

「ナツメ、お前の容量がどれだけあるか分からぬが、サクナは酒呑童子を無力化した時一週間は寝込んでおった。クオンと体を合わせてどうにかなったが、その後もしばらくは具合を悪そうにしていたぞ」

「じゃあ、ダイダラボッチと同じ……?」


 ダイダラボッチを滅した際に、アサヒと体を合わせるまでは寝込んでおり、合わせた後もしばらくは倦怠感が残っていた。


「それ以上かもしれねえぞ。サクナはお前より容量があったからそれで済んだのかも知れねぇ。いいか、全部吸い取ろうなんざ思うなよ?心臓ぶっ壊せば無力化出来るんだ。その隙があればいい」

「うん。アサヒがちゃんと戦えるように頑張る」


 ナツメはアサヒを安心させるように頭を撫でて額を擦り付けると、相手は少し落ち着いたように表情を緩ませた。


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