星流国の狐族〜池に落ちたら、妖怪しかいない異世界にワープした!?〜

みるくくらうん

文字の大きさ
上 下
95 / 113

夜帳屋敷の長⑤

しおりを挟む

「あ、食べた」


 エビフライの尻尾なら食べるけどな、とナツメは内心思いながらアサヒを見る。アサヒはごくんと喉を鳴らして飲み込むと、カゲロウを見てニヤリと言われて笑った。
 カゲロウが海老天の二尾あるうちの一尾を差し出した事に対し、アサヒはナツメの食べ残しを食べる事で対抗した様子だった。


「……」


 カゲロウは眉を顰め面白くなさそうな表情をする。


「……(なんとも低い争いじゃの)」


 なんとなく察したゲンドウは食後のお茶を啜った後溜息を吐くのであった。



------------------------------------------------



「ゲンドウ様、御馳走になりありがとうございます」
「お館様、ありがとうございます」


 アサヒとカゲロウがゲンドウに頭を下げると、ナツメは口を開く。


「ゲンドウさんご馳走様~」


 ナツメはニカッと笑みを浮かべお礼を言うと、アサヒはナツメの鼻を高速でつつきながら眉を顰める。


「てめーはもうちょっとちゃんとお礼を言えないのかドアホ」

「ふがーっ!なぁにすんだよぶああか」


 戯れ合う二人を見たゲンドウはにっこりと笑みを浮かべた。


「アサヒ、怒っている癖に相手の鼻をつつくなんて惚気かの」


 狐妖怪の“鼻をつつく”という行為は、相手のことが“可愛い、愛おしい”という意味が込められている。アサヒは怒りつつもそれを無意識にしてしまい、ゲンドウの指摘で顔を真っ赤にさせた。
 ナツメも意味を思い出して同じように顔を赤くすると俯く。


「……べ、別にそう言う意味は」


 アサヒはナツメをチラッと横目に見てから、言い訳のようにそう言って袖口を合わせ腕を組むみ、少し眉を顰める。


「(はは。まだまだ青いの)」


 ゲンドウは軽く笑って目を細めると、カゲロウが口を開いた。


「ゲンドウ様。ここで合流できたので、二人を預けても宜しいでしょうか。少し急ぎの案件でして、任務を優先させたく」


 カゲロウは少し真面目な顔で空を見上げて、飛ぶ立つ烏を見て意味深に目を細めた。ゲンドウは一気に真顔になり、小さく頷く。


「うむ。ツクヨミから聞いておる。実はワシも、祠が気になっていての」

「やはりゲンドウ様も気になっておられましたか。それでは、急がせてもらいます」


 カゲロウは真顔で俯き加減にそう言うと、ゆっくりと森の方へ続く道に歩き出す。一度足を止めて振り返りナツメを見ると、満面の笑みを浮かべた。


「ナツメ、またね。そこの無鉄砲な俺の友達のこともよろしく」


 カゲロウはそう言って手を振る。


「うん。カゲロウ、気をつけてね?」

「ふふ。ナツメも。アサヒ、ナツメに怪我させないでよ」

「当たり前だ!」


 カゲロウはアサヒの返答を聞くと安心したように笑い、犬化して颯爽とその場を去っていく。


「無理をしないといいのだが。今でこそ物腰柔らかになったが、カゲロウは元々ここらで有名な不良妖怪だったからの」


 ゲンドウはそう言いながら歩き出した。


「そうなの?」


 アサヒとナツメも、その後ろについて行くように歩き出し、ナツメはゲンドウに相槌をうった。


「ああ。ツクヨミとの出会いがなければ今でも悪さをしていただろうな。今じゃ仲間思いの一人前の妖怪、それに四天王まで昇りつめた実力者。じゃが、仲間思いすぎて一人で背負う癖もあるから心配なんじゃ」


 ゲンドウはそう言って困ったように笑うと、アサヒも思い当たる節があるのか少し表情を変える。


「アイツはキレると手が付けられないからな。迷惑なやつだぜ、仲間をもうちょっと頼れば自分の傷が小さく済むっていうのによ」


 アサヒが愚痴っぽくそう零すと、ゲンドウはすかさず口を開いた。


「アサヒ、お前もだぞ」

「っ!?」


 アサヒは目を見開く。


「翠緑の首領になりたての頃は随分一人で突っ走っていたようだが、少しは落ち着いたのか?」

「言われてやんの」


 ナツメがクスクスと笑うとアサヒは顔を赤くし舌打ちをした。ゲンドウは一度声を出して笑うと、何かを感じ取り空を見上げる。


「嫌な予感がするのう」


 小さくそう呟いたゲンドウは、犬化して振り向く。


「少し急ぐぞ」

「うおあ!?でかぁ!!!」


 ナツメは犬化したゲンドウを見て目を見開いて驚いていると、アサヒも急いで狐化しナツメを咥えひょいっと背中に乗せる。


「へぶっ」


 上品な毛並みの上に落とされたナツメは、慌てて体勢を整えた。


「(この気配……屋敷の用事が終わったら急いでカゲロウを追いかけた方が良さそうだな)ナツメ、しっかり掴まれ。少し急ぐぞ」

「りょーかい」


 ゲンドウとアサヒは猛スピードで夜帳屋敷を目指しスピードをあげ、ナツメは必死にアサヒにしがみつく。
 道中、ふと左の方を見たナツメは、黒いオーラを見つけて目を見開いた。まだ薄いが、じわじわと広がっているそれを見て慌てて口を開く。


「アサヒ!左の方に瘴気が見える!」

「なんだと」


 アサヒは焦った表情を浮かべると、そのやり取りを聞いていたゲンドウが会話に混じった。


「ナツメ、やはりお主はサクナの力の継承者だったのだな。サクナも瘴気を視ることができた」

「……うん。本に書いてあったこと、俺にも少しできるから」


 ナツメはそう返答をする。


しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

宰相閣下の絢爛たる日常

猫宮乾
BL
 クロックストーン王国の若き宰相フェルは、眉目秀麗で卓越した頭脳を持っている――と評判だったが、それは全て努力の結果だった! 完璧主義である僕は、魔術の腕も超一流。ということでそれなりに平穏だったはずが、王道勇者が召喚されたことで、大変な事態に……というファンタジーで、宰相総受け方向です。

転生したら召喚獣になったらしい

獅月 クロ
BL
友人と遊びに行った海にて溺れ死んだ平凡な大学生 彼が目を覚ました先は、" 聖獣 "を従える世界だった。 どうやら俺はその召喚されてパートナーの傍にいる" 召喚獣 "らしい。 自称子育て好きな見た目が怖すぎるフェンリルに溺愛されたり、 召喚師や勇者の一生を見たり、 出逢う妖精や獣人達…。案外、聖獣なのも悪くない? 召喚師や勇者の為に、影で頑張って強くなろうとしてる " 召喚獣視点 "のストーリー 貴方の役に立ちたくて聖獣達は日々努力をしていた お気に入り、しおり等ありがとうございます☆ ※登場人物はその場の雰囲気で、攻め受けが代わるリバです 苦手な方は飛ばして読んでください! 朔羽ゆきさんに、表紙を描いて頂きました! 本当にありがとうございます ※表紙(イラスト)の著作権は全て朔羽ゆきさんのものです 保存、無断転載、自作発言は控えて下さいm(__)m

風紀委員長様は今日もお仕事

白光猫(しろみつにゃん)
BL
無自覚で男前受け気質な風紀委員長が、俺様生徒会長や先生などに度々ちょっかいをかけられる話。 ※「ムーンライトノベルズ」サイトにも転載。

処理中です...