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夜帳屋敷の長⑤
しおりを挟む「あ、食べた」
エビフライの尻尾なら食べるけどな、とナツメは内心思いながらアサヒを見る。アサヒはごくんと喉を鳴らして飲み込むと、カゲロウを見てニヤリと言われて笑った。
カゲロウが海老天の二尾あるうちの一尾を差し出した事に対し、アサヒはナツメの食べ残しを食べる事で対抗した様子だった。
「……」
カゲロウは眉を顰め面白くなさそうな表情をする。
「……(なんとも低い争いじゃの)」
なんとなく察したゲンドウは食後のお茶を啜った後溜息を吐くのであった。
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「ゲンドウ様、御馳走になりありがとうございます」
「お館様、ありがとうございます」
アサヒとカゲロウがゲンドウに頭を下げると、ナツメは口を開く。
「ゲンドウさんご馳走様~」
ナツメはニカッと笑みを浮かべお礼を言うと、アサヒはナツメの鼻を高速でつつきながら眉を顰める。
「てめーはもうちょっとちゃんとお礼を言えないのかドアホ」
「ふがーっ!なぁにすんだよぶああか」
戯れ合う二人を見たゲンドウはにっこりと笑みを浮かべた。
「アサヒ、怒っている癖に相手の鼻をつつくなんて惚気かの」
狐妖怪の“鼻をつつく”という行為は、相手のことが“可愛い、愛おしい”という意味が込められている。アサヒは怒りつつもそれを無意識にしてしまい、ゲンドウの指摘で顔を真っ赤にさせた。
ナツメも意味を思い出して同じように顔を赤くすると俯く。
「……べ、別にそう言う意味は」
アサヒはナツメをチラッと横目に見てから、言い訳のようにそう言って袖口を合わせ腕を組むみ、少し眉を顰める。
「(はは。まだまだ青いの)」
ゲンドウは軽く笑って目を細めると、カゲロウが口を開いた。
「ゲンドウ様。ここで合流できたので、二人を預けても宜しいでしょうか。少し急ぎの案件でして、任務を優先させたく」
カゲロウは少し真面目な顔で空を見上げて、飛ぶ立つ烏を見て意味深に目を細めた。ゲンドウは一気に真顔になり、小さく頷く。
「うむ。ツクヨミから聞いておる。実はワシも、祠が気になっていての」
「やはりゲンドウ様も気になっておられましたか。それでは、急がせてもらいます」
カゲロウは真顔で俯き加減にそう言うと、ゆっくりと森の方へ続く道に歩き出す。一度足を止めて振り返りナツメを見ると、満面の笑みを浮かべた。
「ナツメ、またね。そこの無鉄砲な俺の友達のこともよろしく」
カゲロウはそう言って手を振る。
「うん。カゲロウ、気をつけてね?」
「ふふ。ナツメも。アサヒ、ナツメに怪我させないでよ」
「当たり前だ!」
カゲロウはアサヒの返答を聞くと安心したように笑い、犬化して颯爽とその場を去っていく。
「無理をしないといいのだが。今でこそ物腰柔らかになったが、カゲロウは元々ここらで有名な不良妖怪だったからの」
ゲンドウはそう言いながら歩き出した。
「そうなの?」
アサヒとナツメも、その後ろについて行くように歩き出し、ナツメはゲンドウに相槌をうった。
「ああ。ツクヨミとの出会いがなければ今でも悪さをしていただろうな。今じゃ仲間思いの一人前の妖怪、それに四天王まで昇りつめた実力者。じゃが、仲間思いすぎて一人で背負う癖もあるから心配なんじゃ」
ゲンドウはそう言って困ったように笑うと、アサヒも思い当たる節があるのか少し表情を変える。
「アイツはキレると手が付けられないからな。迷惑なやつだぜ、仲間をもうちょっと頼れば自分の傷が小さく済むっていうのによ」
アサヒが愚痴っぽくそう零すと、ゲンドウはすかさず口を開いた。
「アサヒ、お前もだぞ」
「っ!?」
アサヒは目を見開く。
「翠緑の首領になりたての頃は随分一人で突っ走っていたようだが、少しは落ち着いたのか?」
「言われてやんの」
ナツメがクスクスと笑うとアサヒは顔を赤くし舌打ちをした。ゲンドウは一度声を出して笑うと、何かを感じ取り空を見上げる。
「嫌な予感がするのう」
小さくそう呟いたゲンドウは、犬化して振り向く。
「少し急ぐぞ」
「うおあ!?でかぁ!!!」
ナツメは犬化したゲンドウを見て目を見開いて驚いていると、アサヒも急いで狐化しナツメを咥えひょいっと背中に乗せる。
「へぶっ」
上品な毛並みの上に落とされたナツメは、慌てて体勢を整えた。
「(この気配……屋敷の用事が終わったら急いでカゲロウを追いかけた方が良さそうだな)ナツメ、しっかり掴まれ。少し急ぐぞ」
「りょーかい」
ゲンドウとアサヒは猛スピードで夜帳屋敷を目指しスピードをあげ、ナツメは必死にアサヒにしがみつく。
道中、ふと左の方を見たナツメは、黒いオーラを見つけて目を見開いた。まだ薄いが、じわじわと広がっているそれを見て慌てて口を開く。
「アサヒ!左の方に瘴気が見える!」
「なんだと」
アサヒは焦った表情を浮かべると、そのやり取りを聞いていたゲンドウが会話に混じった。
「ナツメ、やはりお主はサクナの力の継承者だったのだな。サクナも瘴気を視ることができた」
「……うん。本に書いてあったこと、俺にも少しできるから」
ナツメはそう返答をする。
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