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夜帳屋敷の長③
しおりを挟む「だろうな……ダイダラボッチの時は、お前速攻ぶっ倒れてたもんな。それに、今回は妖怪が視認できるほどの濃い瘴気もなかった」
「うん。紫っぽい瘴気は見えてたけど、妙に簡単だったというか……。ね、アサヒ」
「祠に行きたいって言いたいんだろ?」
アサヒが呆れ顔でそう問いかけると、話を少し聞いていたカゲロウは振り返り口を開く。
「それ、僕の今日の任務だよ。“星の祠”の封印を見てくる。猫又が黒妖怪になった時、祠にいたって言ってたし。何かあるかも知れない」
「……一人でいくのか?」
アサヒがそう返すと、カゲロウはふふっと小さく笑う。
「あはは、心配なの?」
「なワケあるか!」
「素直じゃないねぇアサヒは。まあ、“見に行く”だけだよ。何か異変があればすぐにツクヨミ様に報告することになってる」
二人のやり取りを聞いたナツメは首を傾げた。
「ねえカゲロウ。星の祠にはなにがあるの?」
「大昔からある封印の祠で、ツクヨミ様が言うには悪い妖怪が封印されてるって。そう言えば、翠緑で起こってた黒妖怪も、元は月の祠に封印されてた妖怪だったって聞いたけど」
「ああ、エンジュの調査で出所が分かった。大昔の祠で、翡翠山の中腹にある洞窟の中に祠があるが、ダイダラボッチがそこに封印されているという記述はエンジュが調べるまで出てこなかった」
「相当昔に封印されたってこと?」
「そういうことになるな」
「じゃあ、もしかしてその星の祠に本体がいるってこと?大変だよアサヒ、全然解決してない!」
ナツメは大声を上げ必死に訴えるが、アサヒは眉を顰める。
「ああ……でも、とりあえず俺達は夜帳屋敷に行くのが優先だ。ゲンドウ様の話も聞かないと」
大昔から生きているゲンドウはサクナと接触した経験がある。何か人間の話が聞けるかも知れないと踏んだアサヒは、神器を受け取ることもあり優先順位は変えなかった。
少し小さい声で真面目に伝えるアサヒに、ナツメは眉を下げる。
「なんでゲンドウ様の所に行くのか僕は知らないけど、姫様の提案なんだよね?それなら、ナツメはそうした方がいいよ」
カゲロウは同行はするが詳細は聞いていないため、二人が何をしにゲンドウの所へ行くのかが分かっていない。それでも何も聞かず二人を案内しており、アサヒはそんなカゲロウに申し訳なく思いつつも何も語らずただ目を細めた。
「……う、うん。分かってる」
ナツメは不安げに頷くと、アサヒはその気持ちを汲み取って目を細めた。
「神器はお前のためにもなるんだから、まずは貰っておいた方がいい。俺も祠は気になっているから、終わったら寄ってやる。だが無理はさせないぞ、お前でも危険なことには変わりないんだからな」
「……うん、分かった」
ナツメは納得した様子で頷くと同時に、道が拓けて小さな町に辿り着いた。
「さて、焦っても仕方ないから、とりあえず朝食を食べてこうか」
ピタッと足を止めたカゲロウは人化になると、アサヒも足を止め同じように人化して宙に浮いたナツメをキャッチし地面に舞い降りる。その瞬間、ナツメのお腹がぐぅっと可愛く鳴った。
「そう言えばお腹すいた」
ナツメはお腹を抑えてアサヒを見上げると、アサヒもお腹を鳴らす。
「だな。腹減った。おいカゲロウ、美味い飯」
「分かってるよ、ほらこっち。飲んだ次の日に沁みるやつ~」
カゲロウが案内した先は、流行っている蕎麦屋。カゲロウの姿を見た店員は慌てて奥の座敷を用意した。
「(VIP対応)」
ナツメは混雑する蕎麦屋の中に入り、特別な者に用意された座敷へと上がった。
「朝なのに結構混んでるな」
「騒がしいよね。あれはきっと朝まで飲んだ帰りに食べてる奴らだよ」
カゲロウがそう言って笑うと、ナツメにお品書きを渡して笑みを浮かべる。
「何食べたい?奢るよ」
「え!いいの?えっと……結構種類あるなあ」
「カゲロウの奢りなら1番高いやつでも食っとけ」
アサヒがそう言うと、カゲロウは鼻で笑う。
「アサヒはもちろん自分で払ってよ」
「なんでだよ、ケチかお前」
「翠緑の長が何言ってんの?」
「てめーが頼むから来てやったんだぞこっちは」
「助けたのはナツメだよね」
「ふん、俺が許可を出した」
「えらそーに」
軽い言い合いが始まった二人に、ナツメはやれやれと溜息を吐いた。
「もー、ジャンケンで決めろよー」
ナツメの提案に二人は首を傾げる。
「じゃんけん?なんだそれ、また変なこと言いやがって」
「じゃ、じゃんけ?」
ジャンケンを知らない二人に対し、ナツメは目を丸くする。
「え、まじ……?ジャンケン知らないの?」
「「知らない」」
「えー……」
ナツメは驚きつつも二人にルールを教え始めると、二人はグー、チョキ、パーの手をしてナツメを見た。
「へー、簡単だな」
「うん。わかりやすいね。こういうのはサイコロで決めたりするもんだけど、これならすぐ出来るし」
「だろー?じゃあいくよー、最初はグー、ジャンケン」
二人はナツメの掛け声に合わせて手を動かす。
「ポン!」
アサヒはパー、ナツメはパー、そしてカゲロウもパー。
そして、知らない手がグーを出している。
「え!!??」
突然の四人目の登場に、ナツメは驚き慌ててその手の持ち主を見上げた。
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