星流国の狐族〜池に落ちたら、妖怪しかいない異世界にワープした!?〜

みるくくらうん

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夜帳屋敷の長②

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「僕はナツメの護衛ができるなら大歓迎」

「間に合ってるっつの」


 火花が散る二人に、ナツメは苦笑する。


「まあそう言うなアサヒ。信頼する四天王を一人連れて行けば、ナツメも危険な目に合いにくい。都合が良いのがカゲロウだけだったからの、勘弁せよ」


 ツクヨミの言葉に、アサヒは従わざるを得ず軽く溜息を吐いてから「わかりましたよ」と言って承諾するも、チラッとカゲロウを睨んだ。
 カゲロウは相変わらずへらへらとした笑みを浮かべその睨みを受け流し、ナツメに手を振った。


「よろしくねー」

「うん!」


 ナツメはニコッと笑みを浮かべると、アサヒはその横でぶすーっと面白くなさそうな表情を浮かべる。


「してアサヒ……クレナイに酒を渡しておいてくれ。実は妾が大変になっていたこと、クレナイには言えてなかったのだ。変な意地での、心配かけたくなかったんじゃが……今頃拗ねてるだろうから」

「分かりました(たしかに、拗ねてそうだな)」


 ツクヨミは黄金に輝く貴重な酒を風呂敷に包みアサヒに持たせると、ナツメはそれを横から取り上げて自分の風呂敷に包んだ。


「お前移動する時デカ狐になるから、オレが持っとく!」


 ナツメはえっへん!と胸に手を当てると、アサヒは「落とすなよ」と言ってナツメの頭を撫でた。


「そうじゃ、此奴。温かいから一晩中懐に入れて寝てやったが、全然起きないのじゃ」


 ツクヨミは眠り続ける猫又を懐から取り出すと、首を掴んでアサヒにぽーんと投げた。


「わぁ、猫又!お前ここにいたのかー!」


 ナツメはアサヒがキャッチする前に猫又を抱き抱えると、眠る猫又を撫でてぎゅうっと抱きしめる。


「……妾は気にしておらんが、よく思わぬ犬も多くてな。ここに置いておいても居心地悪かろう。まだ随分と弱っているようだがの、良ければ連れてってやってくれぬか」

「!」
 

 ナツメは嬉しそうに目を輝かせアサヒを見上げると、アサヒは軽く溜息を吐いた。


「ったく、仕方ねえな」

「!!!」


 ナツメはパアァっと表情を明るくすると、猫又を優しく撫でて自分の懐にすぽんっと仕舞い込み笑みを浮かべる。


「あはは、あったかい」


 その様子を見ていたカゲロウは、ジーッと見つめ羨ましそうな表情を浮かべる。



「……ねーナツメ、僕が小さい犬だったら入れてくれる?」


 カゲロウがきゅーんっと喉を鳴らし潤んだ目で見つめると、アサヒがその間に割って入り舌打ちをした。


「二日酔い、馬鹿なこと言ってねーでとっとと準備しろ!行くからには案内しろよ」


 アサヒはそう言ってツクヨミに向き直ると、深く頭を下げる。


「それではツクヨミ様。お世話になりました」

「何を言う。世話になったのは妾じゃ。……ナツメ」


 ツクヨミはゆっくり立ち上がると、ナツメに近付き目を細め見下ろす。ナツメは首を傾げ、お面の奥で目を丸くした。
 ツクヨミはナツメの肩をトントンと撫で、耳元で口を開く。


「本当にありがとう、ナツメ。お前はこれから困難が多いかも知れぬが、アサヒがいるなら大丈夫。妾も味方だからの」


 ナツメが人間なことを知っているツクヨミは、全て悟ったような声色でそう言うと、ナツメは小さく頷き笑みを浮かべた。


「うん。ありがとう、姫様」


 ナツメがふわっと笑みを浮かべると、ツクヨミは堪らなくなりナツメをぎゅうっと抱きしめる。ツクヨミの巨乳に埋もれるナツメは若干溺れながら顔を赤くする。


「わああっ(胸がー!胸がー!)」

「ああっ、愛おしいっ、これが母性かの」

「あ、ずるいですよ姫様」


 カゲロウが羨ましそうにじとーっとした目でその様子を眺め、持っていた水瓶の水を全て飲み干すと、フーッと息を吐いて肩を鳴らした。


「さ、行こっか」

「ああ。行くぞ、ナツメ」

「はーい」

「気をつけるのじゃぞー」


 着崩した着物の肩を少し直しつつ、ツクヨミは三人を見送った。




-------------------------------------------------



「落ちるなよ」


 狐化したアサヒは、大きな九つの尻尾を揺らしながらナツメが乗りやすいように地面に突っ伏す。ナツメはアサヒの鼻筋を撫でてから背中の方へよじ登っていった。


「絶対僕の方が乗りやすいのに」


 犬化したカゲロウがそれをじとーっとした目で見つめ、ふわっと欠伸をしながら尻尾を軽く振った。


「あはは、ごめんなカゲロウ。こっちの方が乗り慣れてるから安全なんだよ」

「つーことだ。カゲロウ、前を走ってくれ。これより北は、森の上は毒霧だろ。俺も下を走る」

「了解。僕の任務は二人を送った後だから、それまでは任せて」


 カゲロウはそう言って前に向かって駆け出していくと、アサヒもそれに続き走った。ナツメはアサヒの銀色の毛並みを撫でてから、ぎゅっと軽く掴み落ちないようにバランスを取る。
 時折、懐で眠る猫又の様子を見て笑みを浮かべると、眉間辺りを撫でて潰さぬような体勢を取り続けた。
 周囲を見ると、朝日が僅かしか差し込まない木々に囲まれた道を走っていることに気付く。つい先ほどまでは煌びやかな御殿にいたはずだが、少し離れるとここまで雰囲気が変わるのかとナツメは少し不安げな表情を浮かべた。
 それを察したアサヒは、ナツメに声をかける。


「寒くないか?」

「うん、猫又あったかいから大丈夫」

「ダイダラボッチの時も、瘴気にあてられるだけで体力が削られた。猫又は一度濃い瘴気に操られていたから、回復するには時間がかかるな」

「そっか。なあ、アサヒ……猫又の瘴気吸った時に思ったんだけど」

「ああ」

「やっぱり、ダイダラボッチの時と違って、薄かった。多分核が別のところにあると思う」


 ナツメの言葉に、アサヒは気付いていた様子で真顔で頷いた。
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