星流国の狐族〜池に落ちたら、妖怪しかいない異世界にワープした!?〜

みるくくらうん

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夜帳屋敷の長①

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 大浴場から出た二人は部屋に戻り、アサヒが昨晩にツクヨミと話した件をナツメに説明する。


「じゃあ姫様はオレが人間って知ってんだ。オレのために、神降明嵐珠かみおろしのめあらしじゅを譲ってくれるってこと?」

「ああ。ツクヨミ様はこの闇夜の地の名家出身で、ツクヨミ様が“じいや”と呼んで慕うゲンドウ様が仕切る夜帳屋敷に今から向かうことにする。そこに、神器が保管されてるそうだ」

「へー、そっかあ!もう暫くは闇夜の地にいるの?」


 隊服をきっちりと着たナツメは、鏡で確認し満足げな表情を浮かべながら問いかける。


「そうだな。予定を変更して、とりあえず今日は翠緑に戻らず北上して夜帳屋敷を目指す。式神に伝言させて、留守を預けたクレナイにはこの事は伝えた。帰るのは明後日になりそうだな」

「ふーん、そっかー!」


 ナツメはアサヒの少しはにかむと、アサヒは首を傾げる。


「なんか嬉しそうだな」

「なんか、もっと旅行できるんだなーって」


 ナツメが笑みを浮かべてアサヒを見上げてそう言うと、アサヒは不意打ちを食らった顔をする。


「わ、分かってるって!どうせ“遊びじゃねーんだぞー!”とか、“旅行とかぬるいこと抜かすなー!”言うんだろっ!」


 ナツメは少し顔を赤らめながらそう言うと、アサヒはナツメの頭を優しく撫でて目を細め見下ろす。


「んなこと言わねーよ。帰りに土産もたくさん買ってやる」

「え……」


 ナツメもまた、不意打ちを食らったような顔をし、やがて俯き加減で「うん」と小さく返事をした。


「(妙に優しい……調子狂うじゃんか)」


 ナツメは撫でられた頭を抑えていると、アサヒはナツメにお面をつける。


「ほら、お面。出る前にツクヨミ様に挨拶していくぞ。朝早いから起きてるか分かんねーけど。
 クレナイと一緒で、飲み過ぎて朝起きてこないんだよなぁ、あのひと」


 アサヒは頭を掻きながら部屋の扉を開くと、ナツメは風呂敷に包んだ荷物を持って後ろをついて行った。
 道中、酒で酔った黒狼隊の隊員が廊下で眠っていたりしたため、二人は起こさぬようそれを避けて歩く。
 ツクヨミの部屋の前まで辿り着くと、アサヒは扉の向こうから声をかけようと口を開いた。


「アサヒか?もう立つのだな」


 その瞬間、扉の向こうからツクヨミの声が聞こえ二人は目を見合わせる。二日酔いのせいか、ツクヨミの声は少し枯れており、具合が悪そうに聞こえ二人は苦笑した。


「失礼します」


 アサヒが部屋に入ると、ツクヨミとカゲロウが頭を抑えながら部屋にいるのを見てナツメは目を見開いた。


「姫様、カゲロウ、だいじょーぶ?」


 ナツメは苦笑しながら声をかけると、ツクヨミは水を飲みながら苦笑する。


「ふふ、久しぶりの酒は堪えたの。だがまあ、楽しかったかたよしとする」

「姫様が煽るせいで、僕はもう少しで潰れるとこでしたよ……風呂に入ってもまだ抜け切ってないですし」


 カゲロウは水瓶を抱えながら胡座をかき、深く溜息を吐いたためツクヨミは声を出して笑う。
 アサヒはカゲロウがいることに首を傾げ、座るカゲロウの体に軽く蹴りを入れた。


「おい、なんでお前がいんだ?」

「僕が聞きたいかなー。姫様に呼ばれたんだよ」


 カゲロウはそう言ってから立ち上がりナツメに手を振ると、近付いて少し膝を曲げナツメの視線に合わせる。


「おはようナツメ。よく眠れた?(ナツメ、石けんの匂いと、アサヒの匂いがするな)」


 カゲロウは鼻をスンスンさせながら声をかけた。


「うん。なんか、昨日はごめん……飲み過ぎちゃって」


 カゲロウの背に乗って遊んだことを思い出したナツメは顔を赤らめ目を逸らす。


「ううん。ナツメはお酒初めてって言ってたもんね。ああやって覚えていくんだから気にしないで?僕はいつでも大歓迎だから。それにしても、ナツメって酔うとあんな風になるんだね」

「い、言わないで……俺の黒歴史だから」


 ナツメはぶんぶん顔を横に振って恥ずかしがると、そばで見ていたアサヒが面白くなさそうに眉を顰めた。
 カゲロウはそれに気付くとニマァと笑みを浮かべる。


「ナツメ。昨日は見れなかったけど、アサヒが泥酔したら凄いことになるよ。ナツメなんて全然可愛い方だから。いつか見れるといいね」


 カゲロウの発言に、アサヒは顔を引き攣らせた。


「てめっ……余計なこと言うんじゃねぇ!!!」


 アサヒはカゲロウの胸ぐらを掴み顔を赤らめながら怒りの表情を浮かべると、カゲロウは両手を上げ降参のポーズを取ってヘラヘラと笑った。
 ナツメは首を傾げながらアサヒを見る。


「えー、どうなんの?めっちゃ気になる」

「るせ、別にどうもしない。普通だ普通」


 アサヒは気まずそうにそう答えたが、ナツメは気になるのかカゲロウを見た。


「カゲロウ、教えて!」

「うん。あのねぇー」

「カゲロウ!お前は少し黙ってろ!あー、姫様、俺達すぐに出発しますんで、その挨拶に」


 アサヒは話を逸らすようにツクヨミにそう言うと、ツクヨミは笑みを浮かべる。


「ああ、そうじゃったの。来ると思うて起きていたから、カゲロウを呼んだのじゃ」

「アサヒ。妾が話を通したとは言え、流石に犬無しで夜帳屋敷に入るのは体裁も良くないからの。道中も睨まれると面倒だ。カゲロウはたまたま別の任務を任せていてな、そのついでと言ってはなんだが、同行を許せ」


 ツクヨミの提案に、アサヒはじとーっとした顔でカゲロウを見た。



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