星流国の狐族〜池に落ちたら、妖怪しかいない異世界にワープした!?〜

みるくくらうん

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切なく、甘く②

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「でもな」


 アサヒはナツメを深く抱き締めながら口を開く。


「そんなことどうでも良くなるぐらい、俺はお前が好きだ。お前が人間でも妖怪でもどうだっていい」

「……っ」


 ナツメは一瞬目を見開いた後ぎゅっと目を瞑り涙を零しながらさらに顔を埋めると、強く抱き締めて小さく肩を震わせた。


「おれ、っ……いま、なんか変、だ」


 初めて飲んだお酒に溺れ、普段抑え込んでいた不安が涙となり言葉となる。
 言いたくないのに、言ってしまう。こんな切ないこと口に出したくないのに、安心したくて甘えてしまっている自分がいる。
 アサヒから与えられる愛情を厚かましくも求めてしまう姿を露呈してしまい、酔いながらも動揺するナツメだが、アサヒの口から溢れた愛の言葉に喉の奥が熱くなった。


「……(普段口には出さないが、結構不安だったのか)」


 アサヒはそんなナツメの心境を察し、酔っぱらいの戯言だとは思わず真剣に向かい合った。
 この世界で唯一の人間という存在のナツメは、きっとどこかで孤独で、不安定で、言い表せない焦燥感にも似た感情に常に襲われている。


「(意外と繊細なんだな、コイツ)」


 アサヒはそんなナツメを包み込んで、愛情の紐で丁寧に縛っていくように言葉を紡いだ。


「俺はもうとっくにお前と添い遂げる覚悟してんだよ。
 お前の世界じゃどーか知らんが、この世界では輪廻転生という概念がある。魂は繰り返し生まれ変わってこの世界は循環してる」

「りんね、てんせい……」


 ぼーっとした脳内で復唱される輪廻転生の概念。ナツメはアサヒを見上げた。


「死んでもすぐ生まれ変わって俺のところに戻ってこい。お前方向音痴だから遅いだろうけどよ、それでも俺は待ってる。あまりにも遅かったら俺が探してやるから、覚悟しておけ」


 アサヒはそう言って目を細め笑みを浮かべると、ナツメはやがて涙をいっぱいに溜めてから小さく頷いた。


「うんっ……」


 ナツメはつられたように笑みを浮かべて返事をすると、アサヒを見上げる。


「……あさひ、あさひっ」


 そして愛おしそうに名前を呼び安心したように再度抱き締めると、アサヒは耳をピクピク動かしその声を拾って尻尾を振った。


「ナツメ……お前みたいな酔っぱらい、明日になったら忘れてるだろうから言うけどよ」


 アサヒはナツメの唇を触りながら真顔で続けた。


「俺はお前がどうしようもなく愛しい。生きていようが死んでいようが、お前は俺のものだからな」


 アサヒはナツメの口に親指を入れると、ナツメの温かい舌に触れる。


「この髪も、目も、口も、舌も、体もなにもかも。全部俺のものだ」


 甘い執着心を露わにするアサヒ。
 ナツメは口に入ったアサヒの親指を咥えコクリと頷くと、赤子のようにその指を吸った。


「……(まるで赤ん坊だな)」


 アサヒはしばらくナツメの好きなようにさせていたが、ナツメの舌の感触が気持ち良くなったのか、少し興奮し指を引き抜く。


「(危ねぇ……)」


 理性を揺るがすナツメの行動に、アサヒは眉を顰めながら口を開く。


「ほら。そろそろ目ぇ瞑って寝ろ」

「……いやだ」


 ナツメは幼子のように首を振って嫌がると、アサヒの上に跨る。


「おまっ……何してんだ」

「……寝たら、アサヒどっかいっちゃう」


 寂しそうに瞳を揺るがすナツメに対し、アサヒは驚きを隠せずいた。


「お前、もしかして」


 普段任務が多く、ナツメの寝顔を見届けて夜中に仕事に飛び、早朝に戻ってくることも多かった。ナツメがそのことに気付いているのを知ったアサヒは、少し驚いた様子でナツメを見る。


「……普段はそんな寂しそうな顔しねーくせによ。言えばいいだろ。それだったら俺だって……少しは」


 そう言いかけたアサヒだが、ナツメは普段アサヒの邪魔をしないように心がけていることを思い出し言葉に詰まる。
 酔った今だからこそ本音を言っているナツメに対し、アサヒは目を細め軽くため息を吐いてから手を伸ばした。


「悪かった。……お前、平気そうにしてたから。寂しいのは俺だけかと」


 アサヒが小声でそう言うと、ナツメはアサヒを押し倒すように顔を近付けて頬にキスをする。


「お祭り、嬉しかった。闇夜の地に来てからもずっと一緒で、お前のこと独り占めしてるみたいで、えへへ、楽しかったな」


 ナツメはそう言って眉を下げながら優しく笑うと、電池が切れたようにこてんとアサヒの肩に顔を埋めるように寝息を立て始めた。


「……泣いたり笑ったり寝たり、忙しい奴」


 アサヒは自分の横にナツメを寝かせぽんぽんと頭を撫でると、しばらく愛おしそうにその寝顔を見つめた。

 お酒でほんのり赤くなった頬。長い睫毛。濡れたような桃色の唇。

 はだけた着物を直そうと手を伸ばすが、触れたナツメの肌の心地良い感触が引き金となり、直すどころか胸元をはだけさせるアサヒ。
 ぷっくりと桃色に盛り上がったナツメの乳首を見て唾液を飲むが、すぐに頭を左右に振って眉を顰めた。


「酔っぱらい相手に何考えてんだよ……」


 アサヒはすぐに理性を引き寄せ、はだけた胸元を治す。ナツメは「うーん」と小さく唸って寝返りをうった。
 仰向けに眠るナツメだが、足癖が悪いのか、足元の着物がはだけるぐらいに足が開いており、アサヒは少し目を逸らしつつ着物を直した。
 温かい太ももが少し手に当たり、分かりやすく反応するアサヒ。

 アサヒが甲斐甲斐しく直しても、ナツメはいつの間にか寝返りをうつため、その度に着物は着崩れ紐が機能していない状況だった。


「あーもう、わざとやってんのか」


 アサヒは少し大きな声を上げてナツメに覆い被さるも、ナツメは気持ちよさそうに眠っている。


「酔ってる奴を襲う趣味はねぇからな……」


 アサヒはそう言いつつも、ナツメのはだけた着物に手を伸ばして解けかかった紐を完全に解いて左右に着物を開き、ナツメの体を眺める。
 少し浮いた肋骨に指を這わせると、ナツメはくすぐったそうに身をよじった。


「ほっせー体。簡単に折れちまいそうな骨だな」


 ナツメの左右の肋骨を両手ですりすりと撫でて掴むアサヒ。ナツメはうっとりと気持ちよさそうな表情で寝息を立てる。







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