星流国の狐族〜池に落ちたら、妖怪しかいない異世界にワープした!?〜

みるくくらうん

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ナツメと串肉の宴④

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「なっ……」


 動揺するアサヒは、やがて諦めたように頭を掻いてから溜息を吐くとさらに続ける。


「ツクヨミ様の仰る通り、アイツは……ニンゲンです」


 意を決したようにそう伝えるアサヒ。ツクヨミは「やはりな」と言って目を細め笑った。
 ツクヨミは、アサヒを息子のように思うクレナイとは親友の間柄。それを知っているアサヒは、クレナイが信用するツクヨミに事情を説明することを決めた。
 それはただ単に信頼だけの行為ではなく、自分や九尾隊では得られないニンゲンの情報を得るためでもある。サクヤの神器と縁があるツクヨミに事情を話しておくことは、ナツメにとってもプラスだと考えていた。


「心配せずとも、無闇に他の奴には言わぬ。今の時代、ニンゲンという存在を知らない妖怪が多いからの。仮に伝えたとして御伽噺のように感じるだろうな」

「俺も、ナツメと会うまではニンゲンという存在を知りませんでした。まだ勉強中ですが……ニンゲンは、妖怪より脆弱な体で妖力を持たぬ存在です。アイツに限っては、この世界の知識もあまりない。ただ、色々特別な力を持ってます。それは我々がなし得ないことです」


 アサヒは真剣な表情でツクヨミを見る。


「妾に憑いていた猫又の瘴気。アレをどうにかしたのはナツメの特別な力という訳だな」


 ツクヨミは確信のある声色でそう問いかけると、アサヒはコクリと頷く。


「……妖怪は、黒妖怪と戦う術はその核を滅することだけ。ナツメはその常識を覆し、瘴気ごと吸って黒妖怪の力を無効化させます。この力が知れ渡れば……」


 アサヒは手に力を込め眉を顰める。


「うむ。良くはないだろうな。今、原因不明の黒妖怪の多発が相次いでいる。ナツメが悪い妖怪の手に渡れば、この世界は傾くだろう……間違いなくな」


 ツクヨミは真顔でアサヒを見つめそう言い放つと、アサヒは決意をしたように頷いた。


「だから、俺はアイツも九尾隊も、翠緑の地も守ります。ツクヨミ様を助けたのも、色々と打算的な部分もありました。この地を統べるツクヨミ様が黒妖怪になれば、それこそ世界が傾きますから」


 アサヒはそう言って軽く笑うと、ツクヨミも可笑しそうに口角を上げた。


「お前のやり方は間違ってない。首領というのはなアサヒ、自分の領地の民と隊を守るのが仕事。そもそも他の隊の妾を優先などしなくても良いのだ。だが今回は、妾を助けて正解じゃ!これから妾は、お前が大事にするナツメに目をかけてやれる」


 ツクヨミはこの短い時間でナツメが気に入ったのか、嬉しそうに笑みを浮かべた。


「昔、歴史好きの爺やのニンゲン話は何度も聞いていた。話半分で聞いていたが、まさか自分がニンゲンと関わる機会が訪れるとはな。ナツメにはすごく助けられた。アサヒ、妾はもちろん闇夜の地と黒狼隊を守るのが指名じゃ。だが、ナツメを守ることもそれに繋がると考えている。妾が持つ情報は惜しみなくお前に授ける」

「ありがとう、ございます」


 アサヒはぺこりと頭を下げて安心した表情を浮かべる。


「まあ、言っても妾もあまり詳しい訳ではないが、サクナは妖怪とは違う神秘的な力を持つ反面、体は強くなかったと聞く。ナツメもきっとそうなのだろう。この先困難があっても立ち向かう力を持っておいた方がよい。良いか、神器は絶対に持っていけ。分かったな」


 ツクヨミの話は真っ当で、アサヒは小さく頷いてからツクヨミに今度は深く頭を下げた。


「はい。ありがとうございます。……アイツには、せめて笑って過ごして欲しい。この世界に来たこと、後悔させたくない」


 アサヒはそう言って立ち上がると、ツクヨミはその背を見ながら思いに耽る。


「(ナツメは別世界から来たとでも言うのか……本当に神秘的な子じゃの)うむ。してアサヒ、詮索をしないことが条件だったのに、結局喋らせてしまってすまぬな。だがどうしても伝えたかった。良いか、妾は味方となりいつでも助ける。恩は忘れんぞアサヒ」


 アサヒはコクリと頷き少し振り返ると、「勿体無いお言葉です」と言ってナツメの元へ戻っていった。


「……にしても、随分と雰囲気が変わったのーアサヒは。九尾隊の首領になりたての頃はまだ青臭かったが、良い表情をするようになった」


 ツクヨミはクスクス笑い、月を見上げ自らも宴の場所へと戻っていった。



------------------------------------------------



「……」


 アサヒが宴会会場へ戻ると、酔っ払いの黒狼隊が楽しそうに笑っている騒がしい様子だった。その中心では、人型から狼型に変化したカゲロウがおり、その背にはナツメが蕩けそうな笑みを浮かべうつ伏せに寝た状態で乗っかっている。
 かなり酔ってしまったのか、ズレかけたお面の隙間から赤い頬が見えた。それを確認したアサヒはそこに近付いてナツメの首根っこを掴む。


「こぉらナツメ、テメェ、飲みすぎてんじゃねーよ」

「んん?」


 ナツメはアサヒの声に反応し上半身を起こすと、ぼーっとした様子でアサヒを見上げたヘラヘラと笑みを浮かべた。


「あしゃひー」


 ナツメはとびっきり甘えた声でアサヒに向かって手を広げたため、アサヒは面を食らったような顔になり反射的にナツメを抱き上げた。


「ったく……」


 アサヒは眉を顰めながらも、優しい手つきでナツメの頭を撫でながら抱き抱えると、カゲロウはコロコロと笑う。


「遅かったねぇアサヒ。もうナツメはぐでんぐでんだよ?僕のこと犬呼ばわりするし、乗せろってしつこくてさー」


 言葉だけで聞くと文句のようだが、カゲロウの表情はいたって嬉しそうだったためアサヒは顔を引き攣らせる。










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