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ナツメと串肉の宴③
しおりを挟む「アサヒ、ちょっと良いか」
「はい」
ツクヨミに呼ばれたアサヒは、ナツメに「少し外す。飲みすぎんなよ」と言って頭を撫でた後、酔っ払った黒狼隊の隊員を掻き分けてツクヨミの元へ向かう。
ナツメはそれを見守り、一人ちびちびとお酒を飲んでいた。
「(いっちゃった)」
ナツメは少し寂しかったのか、撫でられた部分を手で押さえ、仮面の下で目を細めてアサヒの背中を見守っていると、アスカが再度ナツメにお酒を勧めに戻ってくる。
「ナツメ!さあ飲め!今日は朝まで宴だ!アッハッハ!」
「え!?う、うん」
ナツメは勧められるがままお酒をクイッと飲むと、アスカはさらにお酒を注いで笑う。
「どんどんいけ!」
「えぇ!?(こんなに飲んで大丈夫なのか?)」
ナツメはそれからも言われたまま酒を飲み続け、お酒の力もあってか周囲に溶け込んでいた。
「九尾隊って少数精鋭なんだろー?他の隊より人数少ないけど、四天王は激強って聞いたぜ。上位には未来予知できる奴もいるとか」
黒狼隊の上位・ヨウはナツメに肩を組みながら人懐っこい笑みを浮かべ話す。
「未来予知……ああ、サイカか!確かに黒狼隊ってめちゃくちゃ人数いるから、それに比べるとうちって結構少ないのかもなー。あんまりオレもよくわかってないけど、みんな強いぜー」
ナツメはダイダラボッチ戦の時に戦っていたメンバーを思い出しながら得意げにそう語る。
「でもナツメも上位だろー?なあ、どんな力使えんの?」
尻尾をぶんぶんと振って興味津々に聞くヨウに、ナツメは困ったように首を傾げる。
「んー……(瘴気を吸えたり、魂縛呪とかもできるけど、これって言っていいのかな)」
瘴気を吸い取る力があることはもちろん言えない。魂縛呪も、勝手に使ったらアサヒが怒るだろうと思ったナツメは返答に困っていた。するとそこにカゲロウが助け舟を出す。
「いくら仲が良くても、手の内を簡単に見せるわけがないでしょー。ねーナツメ」
カゲロウがそう言うと、ナツメは慌てて首を縦に振った。
「そーだよ!こんなとこで見せれるワケねーじゃん」
ナツメはニカッと笑ってカゲロウを見上げると、ヨウの方を見て何かに気付く。
「あれ、なんかお前、ヨルに似てる」
整った容姿がそっくりで、黒髪を後ろに括っているかいないかの違い。ナツメはヨルを見て確信すると、ヨウは楽しそうに笑った。
「ヨルは俺の兄貴だよ!やっと気づいたかー」
「今気付いた!めちゃくちゃ似てるー!」
「だろー?でも兄貴の方が強いよ、俺はまだまだだ」
ヨウは兄であるヨルを尊敬しているのか、得意気にそう語って酒をグイッと飲んだ。ナツメも同じペースでお酒をのんでいると、カゲロウは赤くなったナツメの頬を見て首を傾げる。
「ねぇナツメ、顔赤いけど大丈夫?お面でよく見えないけど」
心配するカゲロウは、すりすりとナツメの首を触って体温を確認する。確かにぼーっとしてきたなーとナツメは思いつつも、「大丈夫」と言って笑みを浮かべた。
「ナツメ、お前何でお面してんのー?」
ヨウはナツメのお面を指差し不思議そうに首を傾げた。
「こらヨウ、あんまり詮索するなよ。黒狼隊にも顔半分隠してる奴とかいるだろう」
カゲロウは苦笑しながらヨウの頭を撫でると、ナツメを見る。
「それよりヨウ、あの酔っぱらいをどうにかして」
カゲロウはすっかり酔いが回って暴れているヨルを指差した。
「うわー!兄貴いつのまにあんなに酔ってんだよもー」
ヨウが困ったようにヨルの方を見ると、ヨルがそれに気付き走ってこちらにやってくる。
「わおーん!」
ヨルは完全に狼化し、大型犬ぐらいのサイズになるとナツメの方目掛け走った。
「ナツメー!飲んでるかー!」
「うああぁお!?狼になってんじゃんヨル!ていうかすげー勢いでくる!怖!」
ナツメからすれば、まるで大型犬がかなりの勢いで近付くような展開だったため、驚いて手を前に出す。
「ちょ、ちょ、ちょっと“待て”!!!!」
ナツメの数珠が光る。
ナツメに飛びかかろうとジャンプをしていたヨルはピタッと動きを止めそのまま動けず、一瞬で酔いが醒めたのか驚きの表情を浮かべた。
間近で見ていたヨウは思わずナツメを見て口をあんぐりと開ける。
「あ」
無意識に魂縛呪を使ってしまったナツメは動揺し、カゲロウとヨルは目を見開く。
「(これは……この間のひったくりに使ってたやつ)」
カゲロウはそう言ってナツメを見る。
「やべ」
ナツメはヨルに手を翳し魂縛呪を解くと、ヨルはそのまま地面に転がって「きゃん」と鳴いた。
「大丈夫?ごめんなヨル。オレびっくりしちゃって」
ナツメは地面に転がったヨルの頭を撫でながら謝ると、ヨルは驚きつつも狼化したまま立ち上がり尻尾を振った。
「悪ィ、俺もなんか酔ってはしゃぎすぎた。にしてもなんだぁ?今の。時間が止まったみてぇに動けなかった」
ナツメはツヤツヤのヨルの毛並みを撫でながら困った表情を浮かべる。
「ま、まあオレの能力ってやつ……あんまり言うなよ」
「すげーナツメ!今のすげーよ!そんな凄い力隠してたのかー!」
ヨウは目を輝かせてナツメを見ると、ナツメは首を横に振った。
「そんなずっとは使えないぞ。内緒な!(ちょっと疲れるんだよなこれ)」
ナツメはカゲロウの方を見ると、カゲロウも頷き唇に指を当てて軽く笑った。幸いお酒に酔った黒狼隊は各々騒いでいたため今の状況が注目されることなく、とりあえずナツメは安堵の溜息を吐く。
「(この力自体、人間のサクナしか使えなかったって聞いたし。オレが人間ってバレると良くないから、広めないようにしてもらわないとな)」
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一方ツクヨミは、アサヒと二人で騒がしい宴から離れ縁側に座り月を見上げながら会話をしていた。
「アサヒ、あの子は妖怪じゃないな」
ツクヨミは唐突に質問をすると、酒を飲んでいたアサヒはむせてしまう。
「っそれはどういう……」
どう誤魔化そうか考えていたアサヒだが、ツクヨミは苦笑した。
「隠さずとも良いのじゃ。妾は“ニンゲン”の匂いを知っている。ナツメはそれと似た匂いを感じた。おそらくアスカも気付き始めているだろうが、大丈夫、あの男は無闇にそれを言いふらしたりなどせぬからな」
「っ」
アサヒは何も言わず、ツクヨミの方を見て狼狽える。
「妾が元いた家は知っているだろう?そこの蔵には、かつての大妖怪、九尾のクオンに連れ添った“ニンゲン”サクナが使っていた“神降明嵐珠“という神器が保管されている。妾はその珠を触ったことがあるし、匂いを覚えているのだ。不思議で、どこか温かい、この世のものでは無いような香り。
それは我々妖怪が持ったところで何の意味もない物ではあるが、もしアサヒ。ナツメがニンゲンだというのなら神器を渡してやると良い」
ツクヨミの提案に、アサヒは目を見開く。
「……一体それはどんな神器なんです。いくらこの状況でも、そんな大切な物をナツメに渡すと言うのですか」
「ふふ。せめてものお礼じゃ。ナツメが悪いニンゲンなら渡さないさ。あれはこちらで持っていても宝の持ち腐れ。
かつて最恐と謳われた”ヤマタノオロチ“の討伐に使われた神器だからな、何かあればナツメを守ってくれるかも知れぬ」
ツクヨミはそう言って立ち上がると、式神の小さな狼を召喚して使いを出させた。
「少し遠いが、場所は分かるだろう。先に話は通しておくから、明日“夜帳屋敷”へ出向いて爺やから受け取れ」
「……分かり、ました。お気遣い頂きありがとうございます」
アサヒは伏し目がちでお礼を言うと、ツクヨミは豪快に笑った。
「何ですか急に」
「お前、ナツメには出来るだけ危ないことはさせたくないから複雑なのであろう。本当に好きなのだな」
ツクヨミはニマァっと笑みを浮かべてから扇子で口元を隠す。
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