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ナツメと串肉の宴②
しおりを挟む「アサヒ様ッ!」
次にアサヒの元にやってきたのは、黒狼隊四天王のカリンだった。アサヒは首を傾げながら何も言わず真顔で首を傾げる。
「(コイツ、四天王の……黒狼隊唯一の“白狼”だな)」
名前が思い出せないアサヒに、カリンは照れた様子で目を逸らしながら口を開く。
「アサヒ様、お久しぶりですぅっ!今日は遠いところからお越しいただいてありがとうございます。カリンの晴れ姿見てくれましたぁ?」
会合の時とはうってかわって可愛らしい話し方をするカリン。
「(ああそうだ、“カリン”だ。スッキリした)」
名前を聞いたことでスッキリしたアサヒ。そこにヨルが酒を飲みながら登場する。
「おいカリン。てめぇなーにぶりっ子してんだよ気色悪りぃなー」
串肉を持ったヨルがゲラゲラと笑いながら横入りをすると、カリンは舌打ちをしてヨルの串肉をぶん取り頬張り始める。
「うっさいわねぇ。黒狼隊がアンタみたいな下品な男ばっかりだから、上品なアサヒ様に態度を変えるのはフツーッしょ!?
見なさいよアサヒ様のこの美しい銀髪に整った顔、おまけに無駄なことはぜーんぜん喋らない!黒狼隊の男どもにも見習って欲しいわ~」
「何だと~!?好き勝手言いやがって!だからお前は可愛くねぇんだよ!」
「何よ~!図星っしょ~?」
カリンはそう言ってヨルを見て鼻で笑うと、戻ってきたナツメは会話を聞いていたのか笑い始める。
「えー、アサヒのどこが上品なんだよ。コイツすげー口悪いし、意地悪ばっかしてくるぜー?」
「え?アサヒ様が?」
カリンはキョトンとした顔でナツメを見る。
「おい。お前は黙ってろチビ」
アサヒは平然と暴言を吐きナツメの串肉をぶん取った。
「あー!オレのなのにー!」
「うるせぇ、弱肉強食だバーカ」
アサヒはそう言って肉を一つかじって頬張ると、ナツメはぶすーっと頬を膨らませる。
「返せよー!バーカ!」
「お前は肉ばっか食ってないで野菜も食え」
アサヒは野菜串も差し出しナツメに寄越すと、ナツメはそれを渋々受け取った。
「野菜も好きだからいいけど」
ナツメは不貞腐れながらも野菜を頬張り始めた。
カリンは二人のやりとりを呆然と眺めていると、ヨルにこそっと耳打ちをする。
「ねーヨル、あのお面の坊やは誰なの?アサヒ様のこと呼び捨てにしてるけど」
「あー、最近九尾隊に入隊した上位らしい」
「上位?ふーん、なんか弱そう……」
「そ、そうか?」
「そう言えばあのお面の子がツクヨミ様の部屋から出るの見たって聞いたけど、なんか関係あんの?」
「え」
ヨルが言葉に詰まると、カゲロウが割って入る。
「あれはナツメっていう子なんだ。入ったばかりだからアサヒにくっついて行動して色々学んでるらしいよ」
カゲロウはスムーズに説明をし、言葉に詰まったヨルの背中をバシッと叩いた。
「ふぅーん?にしても随分と仲良いのね。アサヒ様ってあんな表情豊かになるんだ。なんか新鮮♡」
カリンはナツメと戯れ合うアサヒを見てうっとりとした表情を浮かべる。
「まあ馬鹿騒ぎするタイプじゃないけど、僕達からすればアサヒはそんな大人しい奴だとは思ってないよ。家柄は良いくせに、口は悪いし、結構庶民的なところがある奴だ」
カゲロウはそう言ってお酒をクイっと飲み苦笑した。
「そうなの!?意外。でもそれもいいな~」
少し酔っているカリンはふわふわとした様子でそう言うと、ヨルが眉を顰める。
「釣り合わね~からやめとけブス」
「ハァ!?私がブスとかありえないっしょ!!」
睨み合う二人。
「(痴話喧嘩始まった……)」
カゲロウは溜息を吐きながら二人の喧嘩の様子を眺めていたのであった。
「アサヒ様」
黒狼隊四天王のアスカは、ナツメと戯れ合うアサヒに近付くと礼儀正しくお辞儀をした。
「アスカ様、お邪魔してます」
別の隊の四天王とはいえども、かなり年齢が離れているのかアサヒは礼儀正しくお辞儀をする。その横でナツメもペコっとお辞儀をした。
「ヨルとカゲロウが世話になって。黒狼隊闊歩を見に来てくれたと聞いてます。ま、むさ苦しいでしょうが楽しんでくださいや、九尾の若き首領さん!」
「ありがとうございます(声がでけぇ……)」
アスカは豪快に笑うとアサヒの肩をポンポンと叩き、その後ナツメを見下ろす。
「おや、おちびさん。なんか君……」
「ナツメです」
「ああすまないナツメ君。ちょっと良いか?」
アスカは大きな図体でナツメに近付くとくんくん匂いを嗅ぎ首を傾げる。
「な、なにっ……!?(すげーでかい狼妖怪に匂い嗅がれてる!)」
ナツメはビクッと少し驚きながら仮面の下で目を泳がせた。
「この世界じゃ嗅いだことない匂いだな。不思議だ」
アスカは目を丸くしながら匂いを嗅ぐのをやめ、物珍しそうにナツメを見下ろす。
「……」
アサヒは少し警戒したような表情を浮かべた。
「妖怪なんてたくさんいるんだから、みんな匂いなんて違うだろー?」
ナツメはそう言って笑うと、アスカも笑みを浮かべる。
「それもそうか!アッハッハ!どれ、酒を飲めナツメ!」
単純なアスカはすぐ納得しナツメに盃を渡すと、ナツメはとりあえずそれを受け取り、アスカは持っていたお猪口で清酒を注いだ。
「オレお酒飲んだことないけど大丈夫かな?」
ナツメがボソッと呟くと、アスカは目を見開く。
「なにぃ!?酒を飲んだことがない!?珍しい妖怪だな」
「う、うん(いや未成年だし……この世界ってお酒誰でも飲んで良いの?ま、異世界だし関係ないか)」
ナツメは少し迷ってから、そっと盃に口を付けて飲んだ。初めて飲むお酒だったが、口当たりが良くほんのり甘い清酒だったため飲みやすい。ナツメはにぱっと笑った。
「おいしいー!!!」
「だろう?姫様が好きなお酒さ!たくさんあるから好きなだけ飲めよ~」
アスカはまた豪快に笑うとその場を離れる。
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