星流国の狐族〜池に落ちたら、妖怪しかいない異世界にワープした!?〜

みるくくらうん

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黒狼隊闊歩②

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「あーいいよいいよ。無理に聞かない。姐さんが無事なら私はそれでいいし、そういう契りなら守らないとだめっしょ」


 カリンはそう言ってツクヨミの元へ嬉しそうに歩いて行った。ヨルがホッと胸を撫で下ろしたところで、今度はアスカが自身の顎を触りながら首を傾げる。


「カゲロウ、それはそうと九尾隊のアサヒさんはなんで御殿にきたんだ?なんかちっこいお面の子も連れてたが」


 ヨルはギクリと肩を震わせたが、カゲロウは至って普通に笑みを浮かべて答え始める。


「(秘密裏に連れてきたのに、バレてたのかー)そりゃあ黒狼隊闊歩を見にこいって言ったからですよ、アスカさん」

「あーなるほど。そう言えばアサヒさんとお前らは仲が良いもんなぁ~」


 ハッハッハッと豪快に笑うアスカは、そのままカリン同様ツクヨミの方へ向かっていった。それを確認したカゲロウはヨルを横目に溜息を吐く。


「ヨル、そわそわしないでくれよ。挙動不審すぎる」

「悪ィ……隠さなきゃって思えば思うほど変な感じに」


 ヨルは頭を掻き気まずそうに笑い、客間のある層塔を見た。


「あの二人はとりあえず客間に通してる。アサヒは俺達と仲が良いし、黒狼隊の結成日を祝いに来たって設定にしてるから不自然じゃないよ。黒狼隊闊歩を見に来た設定は二人にも伝えたし、祭りの時間になったら街に来る」

「それならいいけどよ……そういうのは俺にも共有してくれって」


 ヨルは大きな溜息をついて心臓を抑えると、カゲロウはクスッと楽しそうに笑い、隊員達に囲まれ艶やかな笑みを浮かべるツクヨミを眺めた。


「姫様が元気になってよかった」


 カゲロウは心底安心した声色でそう言うと、ヨルも目を細めた小さく笑みを浮かべる。


「ああ。違いねぇ……あの二人には感謝してもしきれないな」


 二人は目を合わせ笑みを浮かべると、ツクヨミの方へ足を歩める。


「テメーらぁ!!!時間だ!!!!」


 ヨルが大声で叫ぶと、一同はしんと静まり返った。


「姫様。闊歩の合図を」


 カゲロウがそう言うと、ツクヨミは艶やかな装いにぴったりの麗しい表情で前を向き歩き始める。
 そして空を仰ぎスゥッと思い切り息を吸うと、大きく澄んだ遠吠えを始めた。隊員達もそれに続き遠吠えをすると、街にいた者達はその遠吠えを聞き一斉に目を見開き黒狼御殿の方向を見る。


「これは……」

「そうか、今日は」

「黒狼隊の結成日……」


 街の妖怪達は、黒狼隊闊歩で使う道を開けるようにそそくさと端に寄って期待に満ちた眼差しを浮かべた。


「ツクヨミ姐さんが出てくるのか?」

「まさか……」


 隻眼のアズマは雀荘から様子を伺うように出ると、眉を顰め耳を立てて聞き覚えのある遠吠えを聞く。


「ふん、あの死にかけ……完全復活しやがったか」


 アズマは苛立った声色でそう言うも、その表情は少し安堵した様子だった。


「アズマの旦那ァ、やっぱりツクヨミ姐さんが心配だったんじゃねぇですかい?素直じゃないなぁ」


 雀荘の店主である蛙妖怪はゲロゲロと鳴きながら飛び跳ねると、アズマは青筋を立ててギロリと見下ろす。


「アァ“?調子乗るなよクソガエル!」

「ひぃ!じょじょじょ冗談ですよぉ」


 蛙妖怪は冷や汗をかきながら固まり、アズマは顔を近付け牙を見せながら脅していると、遠くからツクヨミ率いる黒狼隊が街を闊歩しに現れる。
 隊員はみな黒狼隊のお揃いの刺青を見せつけるような格好をしている中、ツクヨミも豪奢な着物を着崩し刺青を見せる形で片腕を出しつつ、花魁道中下駄を履いた足で優雅に歩いていた。
 鮮やかな紅を引き妖艶な瞳で街を歩く美しき犬妖怪ツクヨミに、周囲は息を飲む。


「……」


 アズマは少し顔を赤らめ見惚れていると、ふとツクヨミと目が合った。


「アズマじゃないか」


 ツクヨミは勝ち誇った笑みを浮かべアズマを見て鼻で笑うと、アズマは舌打ちをした。


「くたばってねぇのか、クソ女」


 ツクヨミはアズマの言葉に立ち止まってニヤッと笑う。


「残念だな。くたばってお前の泣き顔を墓から眺めるのも一興だったが、三途の川に行く前に舞い戻ったのさ。嬉しいだろう?」


 ツクヨミは意地悪な笑みを浮かべ、アズマの頬を少し撫でてから、そのまま言い逃げする形でスッと離れ闊歩を続ける。


「ツクヨミ姐さんだ!!!」

「うおおおおお!黒狼隊!黒狼隊!」


 周囲が盛り上がる中、アズマは言い逃げされたことに顔を引き攣らせながらも頭を掻いて鼻で笑った。

 一方、アサヒとナツメは黒狼隊闊歩を見るため街に降りており、黒狼隊達が楽しそうに闊歩している様子を眺めていた。


「うわーすげえな、これが黒狼隊闊歩?ヤクザが刺青見せつけて歩くとか怖すぎるんだけど!」


 いつもの顔上部分を覆う狐の仮面をつけたナツメは、見やすいようにアサヒに肩車をしてもらいながら眺めており、アサヒはナツメの足を掴んで落ちないように支えている。


「この土地の伝統だ。土地を治める隊はこうやって年に一回闊歩するんだよ。とくに、花魁道中下駄を履いたツクヨミ様の闊歩はかなり人気だ」

「へー……確かにツクヨミすげー綺麗!最初会った時は顔真っ青だったけど、元気になって良かったな」


 ナツメはそう言って嬉しそうに笑う。


「呼び捨てにするな馬鹿」

「あ、そうだった。あはは」

「ところでお前、具合は?」


 アサヒは確かめるようにナツメの足で体温を確認するが、あまり変化がないように思える。


「んー?全然元気。なんか、ダイダラボッチの時と違うんだよなぁー……なんか、完全じゃないというか」

「お前はあの時、恐らく瘴気の核を吸ってるんだろうが、今回は違うのかもな」


 アサヒは思考を巡らせ、とある仮説を立てる。


「(猫又を操った瘴気の核はどこかに潜んでいるのか……?)」


 アサヒは、ふと祠の方向を眺め眉を顰めた。


 
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