80 / 113
黒狼隊闊歩②
しおりを挟む「あーいいよいいよ。無理に聞かない。姐さんが無事なら私はそれでいいし、そういう契りなら守らないとだめっしょ」
カリンはそう言ってツクヨミの元へ嬉しそうに歩いて行った。ヨルがホッと胸を撫で下ろしたところで、今度はアスカが自身の顎を触りながら首を傾げる。
「カゲロウ、それはそうと九尾隊のアサヒさんはなんで御殿にきたんだ?なんかちっこいお面の子も連れてたが」
ヨルはギクリと肩を震わせたが、カゲロウは至って普通に笑みを浮かべて答え始める。
「(秘密裏に連れてきたのに、バレてたのかー)そりゃあ黒狼隊闊歩を見にこいって言ったからですよ、アスカさん」
「あーなるほど。そう言えばアサヒさんとお前らは仲が良いもんなぁ~」
ハッハッハッと豪快に笑うアスカは、そのままカリン同様ツクヨミの方へ向かっていった。それを確認したカゲロウはヨルを横目に溜息を吐く。
「ヨル、そわそわしないでくれよ。挙動不審すぎる」
「悪ィ……隠さなきゃって思えば思うほど変な感じに」
ヨルは頭を掻き気まずそうに笑い、客間のある層塔を見た。
「あの二人はとりあえず客間に通してる。アサヒは俺達と仲が良いし、黒狼隊の結成日を祝いに来たって設定にしてるから不自然じゃないよ。黒狼隊闊歩を見に来た設定は二人にも伝えたし、祭りの時間になったら街に来る」
「それならいいけどよ……そういうのは俺にも共有してくれって」
ヨルは大きな溜息をついて心臓を抑えると、カゲロウはクスッと楽しそうに笑い、隊員達に囲まれ艶やかな笑みを浮かべるツクヨミを眺めた。
「姫様が元気になってよかった」
カゲロウは心底安心した声色でそう言うと、ヨルも目を細めた小さく笑みを浮かべる。
「ああ。違いねぇ……あの二人には感謝してもしきれないな」
二人は目を合わせ笑みを浮かべると、ツクヨミの方へ足を歩める。
「テメーらぁ!!!時間だ!!!!」
ヨルが大声で叫ぶと、一同はしんと静まり返った。
「姫様。闊歩の合図を」
カゲロウがそう言うと、ツクヨミは艶やかな装いにぴったりの麗しい表情で前を向き歩き始める。
そして空を仰ぎスゥッと思い切り息を吸うと、大きく澄んだ遠吠えを始めた。隊員達もそれに続き遠吠えをすると、街にいた者達はその遠吠えを聞き一斉に目を見開き黒狼御殿の方向を見る。
「これは……」
「そうか、今日は」
「黒狼隊の結成日……」
街の妖怪達は、黒狼隊闊歩で使う道を開けるようにそそくさと端に寄って期待に満ちた眼差しを浮かべた。
「ツクヨミ姐さんが出てくるのか?」
「まさか……」
隻眼のアズマは雀荘から様子を伺うように出ると、眉を顰め耳を立てて聞き覚えのある遠吠えを聞く。
「ふん、あの死にかけ……完全復活しやがったか」
アズマは苛立った声色でそう言うも、その表情は少し安堵した様子だった。
「アズマの旦那ァ、やっぱりツクヨミ姐さんが心配だったんじゃねぇですかい?素直じゃないなぁ」
雀荘の店主である蛙妖怪はゲロゲロと鳴きながら飛び跳ねると、アズマは青筋を立ててギロリと見下ろす。
「アァ“?調子乗るなよクソガエル!」
「ひぃ!じょじょじょ冗談ですよぉ」
蛙妖怪は冷や汗をかきながら固まり、アズマは顔を近付け牙を見せながら脅していると、遠くからツクヨミ率いる黒狼隊が街を闊歩しに現れる。
隊員はみな黒狼隊のお揃いの刺青を見せつけるような格好をしている中、ツクヨミも豪奢な着物を着崩し刺青を見せる形で片腕を出しつつ、花魁道中下駄を履いた足で優雅に歩いていた。
鮮やかな紅を引き妖艶な瞳で街を歩く美しき犬妖怪ツクヨミに、周囲は息を飲む。
「……」
アズマは少し顔を赤らめ見惚れていると、ふとツクヨミと目が合った。
「アズマじゃないか」
ツクヨミは勝ち誇った笑みを浮かべアズマを見て鼻で笑うと、アズマは舌打ちをした。
「くたばってねぇのか、クソ女」
ツクヨミはアズマの言葉に立ち止まってニヤッと笑う。
「残念だな。くたばってお前の泣き顔を墓から眺めるのも一興だったが、三途の川に行く前に舞い戻ったのさ。嬉しいだろう?」
ツクヨミは意地悪な笑みを浮かべ、アズマの頬を少し撫でてから、そのまま言い逃げする形でスッと離れ闊歩を続ける。
「ツクヨミ姐さんだ!!!」
「うおおおおお!黒狼隊!黒狼隊!」
周囲が盛り上がる中、アズマは言い逃げされたことに顔を引き攣らせながらも頭を掻いて鼻で笑った。
一方、アサヒとナツメは黒狼隊闊歩を見るため街に降りており、黒狼隊達が楽しそうに闊歩している様子を眺めていた。
「うわーすげえな、これが黒狼隊闊歩?ヤクザが刺青見せつけて歩くとか怖すぎるんだけど!」
いつもの顔上部分を覆う狐の仮面をつけたナツメは、見やすいようにアサヒに肩車をしてもらいながら眺めており、アサヒはナツメの足を掴んで落ちないように支えている。
「この土地の伝統だ。土地を治める隊はこうやって年に一回闊歩するんだよ。とくに、花魁道中下駄を履いたツクヨミ様の闊歩はかなり人気だ」
「へー……確かにツクヨミすげー綺麗!最初会った時は顔真っ青だったけど、元気になって良かったな」
ナツメはそう言って嬉しそうに笑う。
「呼び捨てにするな馬鹿」
「あ、そうだった。あはは」
「ところでお前、具合は?」
アサヒは確かめるようにナツメの足で体温を確認するが、あまり変化がないように思える。
「んー?全然元気。なんか、ダイダラボッチの時と違うんだよなぁー……なんか、完全じゃないというか」
「お前はあの時、恐らく瘴気の核を吸ってるんだろうが、今回は違うのかもな」
アサヒは思考を巡らせ、とある仮説を立てる。
「(猫又を操った瘴気の核はどこかに潜んでいるのか……?)」
アサヒは、ふと祠の方向を眺め眉を顰めた。
3
お気に入りに追加
788
あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。


Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる