81 / 113
ナツメと串肉の宴①
しおりを挟む「さあ食え、ご馳走じゃ!」
「うおおおおおおおお!!!!」
黒狼隊闊歩を終えたツクヨミは、黒狼御殿に戻り中庭で隊員達と宴を始めた。その中には客人としてアサヒとナツメも混ざっており、二人はジロジロと見られながらもその輪に加わる。
「何で狐がいるんだ?」
「おい馬鹿、翠緑の長だぞ。知らないのか?九尾隊のアサヒさんだよ!」
「えー!?初めて生で見たぜ」
「ヨルさんとカゲロウさんの友達らしい」
「その横のちっこいのは?」
「しらん。だが羽織を見るに上位だろ」
ひそひそと遠巻きに噂をされる二人。
ツクヨミは二人の元へ近付くと、ニコッと笑みを浮かべた。
「本来なら、隊員全員で礼をしなければならぬところを……あの力は確かに、無闇に広めるべきではないな。懸命な判断だアサヒ」
ツクヨミは眉を下げ、小さな声でそう話しながら申し訳なさそうな笑みを浮かべナツメを見下ろす。
「いえ……お気遣いありがとうございます」
アサヒは小さく笑って軽くお辞儀をすると、ナツメはニコっと笑った。
「元気になって良かったな!」
「ナツメ、敬語」
ナツメはアサヒの指摘に「あ」と自分の口を手で押さえると、ツクヨミは可笑しそうに笑う。
「良い良い。命の恩人だからな」
「あまりコイツを甘やかさないでくださいよ」
アサヒはハァッと溜息を吐くも、ツクヨミは首を左右に振って眉を下げ微笑む。
「なんにせよ、ナツメ。お前には世話をかけた。公にはできないのは百も承知だが、何もお礼をしないのは私の矜持に反する。とりあえず今日はたくさん御馳走を用意したから好きなだけ食らうがよい!」
ツクヨミはそう言って二人を中心まで誘い、網の上で焼かれた串刺しの肉を指差す。煙が天に向かってたちこみ、周囲には見に覚えのあるいい匂いが立ち込めた。
「うわあー、何の匂いかと思ったらバーベキューじゃん!」
ナツメは仮面の下で目を輝かせながらはしゃいだ笑みを見せる。ナツメがはしゃいでいる姿を見たアサヒは少し目を見開いた。
ツクヨミは聞き慣れない言葉に首を傾げる。
「ば、ばーべ、……?なんじゃそれ」
ツクヨミは目を丸くすると、アサヒはナツメの後頭部を軽く叩いてじとっと見下ろした。
「串肉だバカ」
アサヒはボソッとナツメに耳打ちをする。
「あ、えーと、間違ったー!串肉串肉!(バーベキューなんて言葉あるわけないよなー)」
ナツメは手を前に出して慌てた様子で誤魔化した。
「なんじゃ可笑しな子よの」
ツクヨミはケラケラと笑う。
「ね、こんな御馳走、食べていいの!?」
ナツメは串に刺さって丁寧に焼かれた赤身の牛肉を指差すと、よだれを垂らしながらツクヨミを見て目を輝かせる。
「もちろんじゃ!!そなたは命の恩人、いくらでも食べるがよい」
ツクヨミがそう言って満面の笑みでナツメに串焼きを手渡すと、ナツメはそれを掴み、「いただきます!」と声高らかに言ってから美味しそうに頬張る。
「う、うまー!!!!」
人間界にいたときでさえ、こういった焼き肉の類は御馳走だったため滅多に食べなかったナツメ。いつも以上に美味しそうに食事をするナツメの姿に、アサヒは驚きを隠せなかった。
「良かった良かった。男の子はたーんと食べるのがよい!」
ツクヨミが嬉しそうに笑う横で、ナツメは黙々と肉を頬張り二本目の串肉を食べ始める。
「(こいつ、牛肉が好きだったのか?いや、串肉が好きなのか?)」
アサヒはナツメの食べっぷりを見ながら眉を顰め、自分も串肉を取って「いただきます」とボソッと言ってから肉を牙で引きちぎりながら食べた。
すると、どうやら少し離れた場所でナツメの食べっぷりを見ていたカゲロウがやってくる。
「アサヒ、もしかしてお前ナツメにご飯食べさせてないの?めちゃくちゃがっついてるけど」
カゲロウはじとっとした顔でアサヒを見てナツメを指差すと、アサヒは顔を引きつらせた。
「なっ……そんな訳あるか。コイツはいっっつも美味そうに飯何回もおかわりして食ってるっつーの。お前も見てただろ」
アサヒは普段のナツメの食事姿を思い浮かべながらそう返す。
「まあ……好き嫌いとかないの?」
「そんな話してねーな。出されたもん何でも食うから気にしてなかった」
アサヒは串肉を噛みながらそう言うと、カゲロウはナツメの方を向いて名前を呼んだ。
食事に夢中なナツメは、口いっぱいに肉を頬張りながらカゲロウを見て首を傾げる。
「んー?」
「ナツメ、好きな食べ物はなに?」
カゲロウが笑みを浮かべそう問いかけると、肉を飲み込んだナツメが口を開く。
「えー何だよ急に。肉かなー?俺こういうの大好きだよ、いかにも肉って感じのやつ(アメリカのバーベキューみたいな感じ!)」
ナツメは笑みを浮かべてそう答えると、カゲロウはニヤッと笑いアサヒを見る。串肉という外で炭火を使い網で焼く文化は闇夜の地が発祥。頻繁に食べられている食べ物だが、翠緑では牛肉を串焼きにする文化は無い。
アサヒはぐぬぬと悔しそうな表情を浮かべた。
「翠緑はどっちかというと魚が多いもんねー?」
カゲロウの問いかけに、ナツメは首を傾げながらも頷く。
「あー、そうかも。あと果物も多いよ!豚肉とか鶏肉もでるし」
ナツメは九尾御殿のご飯を思い出しながら嬉しそうにそう語る。
「牛肉は翠緑じゃあんまり出てこない?」
「うん。翠緑は牛肉ないのかなーって勝手に思ってたけど。アサヒ、なんで?」
ナツメはそう言ってアサヒを見上げると、アサヒは眉を顰めた。
「……お前、こう言うのが好物だったなら言えよ。確かに牛肉は翠緑じゃあまり流通してないが、取り寄せるのは簡単だ」
「だって聞かれなかったし。それに気にしたことなかった。オレ、九尾隊のみんなで食べることが好きだから、別に食べ物なんて何でもいいもん」
ナツメはさり気なくそう言って笑みを浮かべると、二人を残し串肉を取りに行く。
「……やっぱり、思った通りいい子だね」
カゲロウはナツメの背を見て小さく呟く。
「……そんなの俺が一番分かってんだよアホ」
アサヒはカゲロウを横目で見ながら誇らしげに笑った。
「あーあ。にしても可哀想だなーナツメ。こっちに住めば毎日串焼なんてたらふく食べさせてやれるのに。勧誘しようかな」
カゲロウはそう言って笑うとその場を離れる。
「余計なお世話だアホ。勧誘したら殺すぞ」
アサヒはカゲロウの背中に暴言を吐くと、カゲロウは少し振り返り楽しそうに笑った。
4
お気に入りに追加
789
あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

兄たちが弟を可愛がりすぎです
クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!?
メイド、王子って、俺も王子!?
おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?!
涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。
1日の話しが長い物語です。
誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
良縁全部ブチ壊してくる鬼武者vs俺
青野イワシ
BL
《あらすじ》昔々ある寒村に暮らす百姓の長治郎は、成り行きで鬼を助けてしまう。その後鬼と友人関係になったはずだったが、どうも鬼はそう思っていなかったらしい。
鬼は長治郎が得るであろう良縁に繋がる“赤い糸”が結ばれるのを全力で邪魔し、長治郎を“娶る”と言い出した。
長治郎は無事祝言をあげることが出来るのか!?
という感じのガチムチ鬼武者終着系人外×ノンケ百姓の話です
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる