星流国の狐族〜池に落ちたら、妖怪しかいない異世界にワープした!?〜

みるくくらうん

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ナツメと串肉の宴①

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「さあ食え、ご馳走じゃ!」

「うおおおおおおおお!!!!」


 黒狼隊闊歩を終えたツクヨミは、黒狼御殿に戻り中庭で隊員達と宴を始めた。その中には客人としてアサヒとナツメも混ざっており、二人はジロジロと見られながらもその輪に加わる。


「何で狐がいるんだ?」
「おい馬鹿、翠緑の長だぞ。知らないのか?九尾隊のアサヒさんだよ!」
「えー!?初めて生で見たぜ」
「ヨルさんとカゲロウさんの友達らしい」
「その横のちっこいのは?」
「しらん。だが羽織を見るに上位だろ」


 ひそひそと遠巻きに噂をされる二人。
 ツクヨミは二人の元へ近付くと、ニコッと笑みを浮かべた。


「本来なら、隊員全員で礼をしなければならぬところを……あの力は確かに、無闇に広めるべきではないな。懸命な判断だアサヒ」


 ツクヨミは眉を下げ、小さな声でそう話しながら申し訳なさそうな笑みを浮かべナツメを見下ろす。


「いえ……お気遣いありがとうございます」


 アサヒは小さく笑って軽くお辞儀をすると、ナツメはニコっと笑った。


「元気になって良かったな!」

「ナツメ、敬語」


 ナツメはアサヒの指摘に「あ」と自分の口を手で押さえると、ツクヨミは可笑しそうに笑う。


「良い良い。命の恩人だからな」

「あまりコイツを甘やかさないでくださいよ」


 アサヒはハァッと溜息を吐くも、ツクヨミは首を左右に振って眉を下げ微笑む。


「なんにせよ、ナツメ。お前には世話をかけた。公にはできないのは百も承知だが、何もお礼をしないのは私の矜持に反する。とりあえず今日はたくさん御馳走を用意したから好きなだけ食らうがよい!」


 ツクヨミはそう言って二人を中心まで誘い、網の上で焼かれた串刺しの肉を指差す。煙が天に向かってたちこみ、周囲には見に覚えのあるいい匂いが立ち込めた。


「うわあー、何の匂いかと思ったらバーベキューじゃん!」


 ナツメは仮面の下で目を輝かせながらはしゃいだ笑みを見せる。ナツメがはしゃいでいる姿を見たアサヒは少し目を見開いた。
 ツクヨミは聞き慣れない言葉に首を傾げる。


「ば、ばーべ、……?なんじゃそれ」


 ツクヨミは目を丸くすると、アサヒはナツメの後頭部を軽く叩いてじとっと見下ろした。


「串肉だバカ」


 アサヒはボソッとナツメに耳打ちをする。


「あ、えーと、間違ったー!串肉串肉!(バーベキューなんて言葉あるわけないよなー)」


 ナツメは手を前に出して慌てた様子で誤魔化した。


「なんじゃ可笑しな子よの」


 ツクヨミはケラケラと笑う。


「ね、こんな御馳走、食べていいの!?」


 ナツメは串に刺さって丁寧に焼かれた赤身の牛肉を指差すと、よだれを垂らしながらツクヨミを見て目を輝かせる。


「もちろんじゃ!!そなたは命の恩人、いくらでも食べるがよい」


 ツクヨミがそう言って満面の笑みでナツメに串焼きを手渡すと、ナツメはそれを掴み、「いただきます!」と声高らかに言ってから美味しそうに頬張る。


「う、うまー!!!!」


 人間界にいたときでさえ、こういった焼き肉の類は御馳走だったため滅多に食べなかったナツメ。いつも以上に美味しそうに食事をするナツメの姿に、アサヒは驚きを隠せなかった。


「良かった良かった。男の子はたーんと食べるのがよい!」


 ツクヨミが嬉しそうに笑う横で、ナツメは黙々と肉を頬張り二本目の串肉を食べ始める。


「(こいつ、牛肉が好きだったのか?いや、串肉が好きなのか?)」


 アサヒはナツメの食べっぷりを見ながら眉を顰め、自分も串肉を取って「いただきます」とボソッと言ってから肉を牙で引きちぎりながら食べた。
 すると、どうやら少し離れた場所でナツメの食べっぷりを見ていたカゲロウがやってくる。


「アサヒ、もしかしてお前ナツメにご飯食べさせてないの?めちゃくちゃがっついてるけど」


 カゲロウはじとっとした顔でアサヒを見てナツメを指差すと、アサヒは顔を引きつらせた。


「なっ……そんな訳あるか。コイツはいっっつも美味そうに飯何回もおかわりして食ってるっつーの。お前も見てただろ」


 アサヒは普段のナツメの食事姿を思い浮かべながらそう返す。


「まあ……好き嫌いとかないの?」

「そんな話してねーな。出されたもん何でも食うから気にしてなかった」


 アサヒは串肉を噛みながらそう言うと、カゲロウはナツメの方を向いて名前を呼んだ。
 食事に夢中なナツメは、口いっぱいに肉を頬張りながらカゲロウを見て首を傾げる。


「んー?」

「ナツメ、好きな食べ物はなに?」


 カゲロウが笑みを浮かべそう問いかけると、肉を飲み込んだナツメが口を開く。


「えー何だよ急に。肉かなー?俺こういうの大好きだよ、いかにも肉って感じのやつ(アメリカのバーベキューみたいな感じ!)」


 ナツメは笑みを浮かべてそう答えると、カゲロウはニヤッと笑いアサヒを見る。串肉という外で炭火を使い網で焼く文化は闇夜の地が発祥。頻繁に食べられている食べ物だが、翠緑では牛肉を串焼きにする文化は無い。
 アサヒはぐぬぬと悔しそうな表情を浮かべた。


「翠緑はどっちかというと魚が多いもんねー?」


 カゲロウの問いかけに、ナツメは首を傾げながらも頷く。


「あー、そうかも。あと果物も多いよ!豚肉とか鶏肉もでるし」


 ナツメは九尾御殿のご飯を思い出しながら嬉しそうにそう語る。


「牛肉は翠緑じゃあんまり出てこない?」

「うん。翠緑は牛肉ないのかなーって勝手に思ってたけど。アサヒ、なんで?」


 ナツメはそう言ってアサヒを見上げると、アサヒは眉を顰めた。


「……お前、こう言うのが好物だったなら言えよ。確かに牛肉は翠緑じゃあまり流通してないが、取り寄せるのは簡単だ」

「だって聞かれなかったし。それに気にしたことなかった。オレ、九尾隊のみんなで食べることが好きだから、別に食べ物なんて何でもいいもん」


 ナツメはさり気なくそう言って笑みを浮かべると、二人を残し串肉を取りに行く。


「……やっぱり、思った通りいい子だね」


 カゲロウはナツメの背を見て小さく呟く。


「……そんなの俺が一番分かってんだよアホ」


 アサヒはカゲロウを横目で見ながら誇らしげに笑った。


「あーあ。にしても可哀想だなーナツメ。こっちに住めば毎日串焼なんてたらふく食べさせてやれるのに。勧誘しようかな」


 カゲロウはそう言って笑うとその場を離れる。


「余計なお世話だアホ。勧誘したら殺すぞ」


 アサヒはカゲロウの背中に暴言を吐くと、カゲロウは少し振り返り楽しそうに笑った。






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