星流国の狐族〜池に落ちたら、妖怪しかいない異世界にワープした!?〜

みるくくらうん

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猫又の思惑②

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「ナツメの中に猫又の瘴気が……!アサヒ、ナツメは大丈夫なんだろうね」


 カゲロウはアサヒの肩を乱暴に掴むと、低い声色でアサヒに問いかける。
 アサヒは動じることなくナツメを見守りながら口を開く。
 

「……アレはわざとああやってんだ。アイツは俺達みたいに瘴気に侵されないし、瘴気を吸い取れる。ダイダラボッチは真の黒妖怪になっちまったから全部取り込んでたが、今回の猫又は救えそうなんだよ。
 見てみろ、本体が綺麗になっていく」


 アサヒが説明すると、ヨルとカゲロウは信じられないと言いたげな表情でナツメを見た。
 猫又の手足が白くなっていることに気づいた二人は、信じざるを得ない状況となる。


「そんなことができるなんて……何者何だよアイツ!」


 ヨルは狼狽えた表情を浮かべ猫又を抱きしめるナツメを見守る。


「特殊能力だよ。うちのサイカみたいな予知夢と一緒だと思っておけ。
 もうこれ以上の詮索はナシだ。約束通り秘密は守ってもらうぞ」

「けどこんなのって……」


 狼狽えるヨルに、アサヒは一瞬殺気だった妖力を放ち脅す。


「っ」


 ヨルはアサヒのあまりの気迫に本能的に後退りをすると、カゲロウがヨルを庇うように口を開く。


「やめなよアサヒ。こんなの見て平常心でいられる方がおかしいんだ、ヨルをそんな風に脅さないでくれ。友達だろ」


 カゲロウは目を細め真剣な表情でアサヒに言い放つと、アサヒは一呼吸置いてからヨルを見る。


「……悪かった」


 アサヒはすぐに威嚇をやめると、ヨルは少し動揺しつつも「俺の方こそ悪かった」と言って頭を掻く。
 三人は昔からの仲の良い妖怪だが、アサヒは別格の妖力を持ち、九尾という狐妖怪の中でも最も強力な族種。圧倒的な差があるため、本気を出されれば全力で潰されることはヨルもカゲロウも分かっていた。


「随分と本気なんだ」


 カゲロウがそう問いかけると、アサヒは目を細め浄化をしているナツメを見つめながら口を開く。


「魂の色が同じだからとか、そんなことどうでもいい。俺はアイツを守るためなら何だってするぞ」


 静かに、されどその声色には確固たる自信と気迫が込められていた。カゲロウはその様子を察して一度目を瞑ると、ナツメを見ながら諦めたように溜息を吐く。
 

「約束は守る。ツクヨミ様を救う条件だったからね」


 カゲロウはそう言って頷くと、それ以上は何も言わずにナツメを見守った。


「ぎにゃあああああ!!!」

「わっ!?」


 激しく暴れる猫又の所為で、ナツメのお面は蹴り飛ばされ床に落ちる。


「うお、お面……」


 初めてナツメの顔を見たヨル。
 ナツメの淡い紫色の大きな瞳と長いまつ毛に、豆鉄砲を食らったような表情をする。


「なんだよ、頑なに隠すからどんな顔をしてると思ったら、遊郭で高値で売れそうなくらい上玉じゃねーか」


 何気ないヨルの感想を聞いたアサヒは、鋭い目でヨルを睨む。


「いや、悪い……そーゆーつもりじゃねえから。例えだから」

「ならいい」


 一方猫又は、体がほぼ真っ白になっていき激しい抵抗を見せなくなったため、ナツメは猫又を優しく抱いて様子をみる。
 濁った真っ黒な瞳が金色に戻ったのを確認すると、ナツメは笑みを浮かべた。


「よし、あばれ猫。お前は黒妖怪になりきってなかったんだな、間に合った」

「にゃ……?」


 ナツメの優しい声に、猫又はハッとした表情を浮かべナツメを見る。よく見ると、袖から出ているか細い腕は猫又の引っ掻き傷でいっぱいになっていた。


「おまえ……我のせいで傷だらけだにゃん」


 正気を取り戻した猫又は、丸々と太った体で左右に動かしながら自分の意志で動けるようになった事を確認し、ナツメを見上げて目を潤ませる。


「え?あぁ、ほんとだ。こんなのすぐ治るって」


 ナツメは特に気にした素振りを見せず笑みを浮かべると、猫又は申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「我としたことが、黒妖怪になりかけてしまったにゃん」


 やはり自分の意思で黒妖怪になった訳じゃないのか悟った一同。ヨルとカゲロウはとりあえず眠るツクヨミの元へ駆け寄り、布団へ寝かす。
 アサヒはナツメに駆け寄り、心配そうな表情ですぐさま額に手を当てた。


「ん……?」


 ナツメは首を傾げアサヒを見上げる。


「まだ熱は上がってねぇな。気分はどーだ」


 アサヒの問いかけに、ナツメは歯を見せて笑った。


「大丈夫!ダイダラボッチの時とは比べものにならねー」


 アサヒはほっとした表情を浮かべると、ナツメの腕で抱かれる猫又の首を掴んだ。


「話を聞かせてもらうぞ猫又」

「にゃーん……」

「先にナツメの腕を手当てか」


 アサヒは猫又をポイーっと床に投げる。


「あ!おい!猫又が可哀想だろ!!投げるなよなっ」


 ナツメは猫又を庇うようにして再び抱き上げてすりすりと頬擦りをしたため、アサヒは苛ついた表情を浮かべた。


「あぁ!?てめっ、せっかく手当てしてやろうと思ったのに」

「こんぐらいいいって!大袈裟だっつーの!」


 ナツメは猫又を抱き締めながら舌を出し反抗的な態度を取ったため、アサヒは顔を顰め舌打ちをする。


「そーかよ、勝手にしろ」

「まさか猫に嫉妬してんじゃねーだろうな?」


 ナツメは火に油を注ぐような発言をし、アサヒは顔を引きつらせた。


「んなわけねぇだろ!こんな餅みてぇに丸々太った猫に嫉妬なんかすっかよ」


 アサヒは半分八つ当たりで猫又を指差し鼻で笑うと、猫又はショックを受けた表情を浮かべた。


「にゃに!?この愛らしい見た目を愚弄するのかにゃ~!?」

「ふつーの猫じゃん。可愛いーよ」


 ナツメは猫又の顎をふわふわと撫でながら笑みを浮かべると、猫又はゴロゴロ言いながらナツメに甘える。
 アサヒは面白くなさそうな表情でその光景から目を逸らした。


「けっ」

「痴話喧嘩はいーけどよ、とりあえず猫又ァ、話を聞かせろってんだ」


 割り込むように会話に入ったヨル。
 場を整え落ち着いたところで、四人と一匹は会話を始めた。

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