星流国の狐族〜池に落ちたら、妖怪しかいない異世界にワープした!?〜

みるくくらうん

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闇夜の地・黒狼御殿②

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「あぁ?赤狼隊に心配される筋合いはねーなァ!」


 ヨルはドスの効いた声で相手を睨み付ける。


「うおぁ、ヨルが一気にヤクザになった」


 ナツメは口をあんぐりと開けて驚いた表情を浮かべると、カゲロウがくすくすと笑った。


「あれは赤狼隊の四天王、隻眼のアズマだよ。昔から黒狼隊とは折りが合わなくてね。アズマとヨルは昔から仲が悪いんだ」


 カゲロウはアサヒに説明すると、アサヒは特に興味が無さそうな表情でアズマを見た。


「へぇ。狼族の中でも血気盛んな“赤狼せきろう隊か」


 アサヒは見定めるように眺めるが、特に興味を持った様子はなく黙ってその様子を見ていた。
 アズマはヨルに対し馬鹿にしたような目で見下ろすと、大きな犬歯を見せながら口を開いた。


「最近じゃ全然姫さんの姿が見えないじゃねーか。いつもは雀荘に通ってるっつーのによぉ?とうとうあの世行きかー?アハハハ」


 アズマはニヤニヤと馬鹿にしたように笑いそう言うと、横にいたカゲロウが真顔で口を開く。


「おいアズマ。お前がその雀荘で姫様に挑んでコテンパンにやられたの、この街のみんな知ってるよ。八つ当たりはやめてくれないか?」

「なっ」

「こっちは急いでいる。相手をしている暇はないからいくね」

「なんだとっ」


 狼狽えるアズマ。カゲロウはそのままアズマを避けて歩き始める。


「行こうかみんな」


 ナツメとアサヒはその後ろをついていくが、喧嘩っ早いヨルはしばらく赤狼隊を睨み付けてからその場を去る。


「覚えてろよクソアズマァ」

「テメェこそな!」


 アズマとヨルはお互いに姿が見えなくなるまで睨み合いながら歩いた。


「アズマって奴、ヤクザ中のヤクザだった……」


 ナツメはアズマの風貌を思い出し顔を引き攣らせる。


「さっきからその”やくざ“って、荒くれ者のことか?」


 アサヒはナツメの言葉の意味を汲み取り首を傾げる。


「うん。たぶん」

「ごめんねナツメ。ここは気性の悪い奴が多い土地なんだ。いい奴も多いから、そんなに怖がらなくていいよ。僕達もいるし」


 カゲロウは振り返りナツメに笑みを浮かべた。


「こ、怖がってないけどな!オレだって結構強いし?」


 ナツメはカゲロウから視線を外し笑みを浮かべるが、アサヒの裾を掴む力は強まる。


「ビビってんじゃねーか。変に強がってたら損するぞ」


 アサヒがフッと笑うと、ナツメは顔を顰める。


「アサヒは意地悪なことを言うね。ナツメ、僕と手を繋ぐ?」


 カゲロウはナツメに手を差し出すと、アサヒは目の色を変えその手を払う。


「カゲロウ!舐めたこと言うなぶっ殺すぞ!」

「おっと。ここにも荒くれ者がいた」


 カゲロウはそう言って笑いながら前を向き、ナツメは「落ち着けよアサヒ」と声をかけた。
 ぶすっとしたアサヒは「けっ」と悪態をつきナツメの手を握った。


「……」


 ナツメは小さく笑いアサヒを見上げると、アサヒは一瞬ナツメを見た後機嫌を直して前を向く。
 しばらくすると、大きな門の前に到着する四人。そこには警備をしている狼族が数名立っていた。
 ヨルとカゲロウに気付いた警備隊は、ズラッと並び頭を下げる。


「ご苦労様でございます!ヨル様!カゲロウ様!」

「おう」


 列はすぐに縦となり、通路ができる。ヨルとカゲロウはその通路を歩きながら門を抜けた。


「えぇっ!やっぱヤクザじゃん!テレビでよく見たやつ!」


 ドラマなどで見たような景色に、ナツメは顔を引き攣らせながら歩く。この土地では珍しい狐族、それも九尾隊隊長のアサヒがいるとなると、警備隊の者達はジロジロとアサヒとナツメを見た。


「(怖っ!)」

「気にすんな」


 アサヒは特に気にした様子もなく、ナツメの手を引き颯爽と歩く。
 塔型の九尾御殿とは真逆で、一度中に入れば迷いそうなくらいな広い寝殿造りの黒狼御殿。行燈が並べられた橋の向こうに入り口があった。


「なんかむちゃくちゃ高級な旅館みたい……でもすげー幻想的」


 ナツメはきょろきょろと辺りを見回しながら歩き、簡単の溜息を漏らしてお面の下の目を輝かせた。


「ツクヨミ様は風情を大事にする方だ。こういうのはうるさいらしい。そういうところはクレナイに似てる」

「へぇー!キレー!確かにクレナイもセンスいいもんなぁー」


 四人はツクヨミのいる本丸に着くと、ツクヨミが休む部屋の前に立つ。
 ヨル、カゲロウは膝をついて頭を下げると、アサヒもその後ろで片膝をつく。ナツメはそれに倣った。


「姫様。カゲロウ、ヨルが只今帰りました。話の通り、九尾隊首領・アサヒ殿と上位のナツメ殿を連れてきております」


 カゲロウがそう言うと、襖が勝手に横に開く。


「入れ」


 顔を上げたナツメは、上段の間で沢山の単を重ねた着物を着た女性が扇子で口元を隠しながら寛ぐツクヨミを見る。
 黒髪で、前髪は眉上で水平に一直線に切られており、目元は紫の化粧が施されている。赤色の瞳から放たれる只ならぬオーラに、ナツメは息を飲んだ。
 しかしそれよりも、ツクヨミの背後から漏れる瘴気を確認したナツメはアサヒを見る。
 アサヒは察したのか、小さく頷いた。

 四人はツクヨミの前まで行くと、ツクヨミは扇子を閉じる。赤い紅を引いた薄い唇は、うっすらと笑みを浮かべていた。
 はだけた胸元からは溢れそうなくらいの大きな胸と谷間。おそらく背中には、黒狼隊の入れ墨が施されているのだろうと想像できた。


「よく参ったな、アサヒとナツメ」

「お久しぶりですツクヨミ様」

「はじめまして(姫様っていうより姐さんって感じだな)」


 ナツメはじっとツクヨミを見て瘴気の様子を確認する。ダイダラボッチの時とは違い、なんだか色が薄いと感じた。





 




 


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