星流国の狐族〜池に落ちたら、妖怪しかいない異世界にワープした!?〜

みるくくらうん

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狐と狼の朝ごはん

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「ん……」


 陽の光で目覚めたナツメは、寝ぼけ眼でゆっくりと体を起こすと、ぼーっとした表情のまま立ち上がり襖を開ける。


「起きたか」


 アサヒは起きてきたナツメに声をかけると、読んでいた本を閉じて立ち上がる。
 ナツメは目を擦りながらアサヒを見上げると、そのままアサヒの胸に飛び込んだ。


「っ……驚くじゃねーか、なんだ急に」


 ナツメの予想出来ない動きに驚いたアサヒだが、しっかりとナツメを受け止め背中をぽんぽんと撫でる。


「さむい!」


 ナツメはそう言ってアサヒの胸元に顔を押し付けてぐりぐりと左右に動かす。


「冬が近いからな……仕方ねぇから少し暖めてやる」


 アサヒはナツメの髪を撫でてからそっと抱き締めると、しばらくナツメの体を暖める。


「起きた」


 徐々に体温が上がったナツメが顔をぱっと上げたため、アサヒはすりすりとナツメの頬を撫でてから鼻をちょんちょんと撫でる。


「なら着替えろ、そこに隊服置いといた」


 アサヒは部屋の隅にかけていたナツメの隊服を指差すと、ナツメは目を輝かせそれに飛び付きその場で着替え始める。


「うわっは!久しぶりにちゃんと隊服着る!任務って感じだー!」

「いきなりデケー声出すな……」


 ナツメははしゃぎながら着替えていくが、途中から着方が曖昧になり動きが鈍る。


「あれ……こう結ぶんだっけ?」
「あ、違うこうか」
「そんでこれはこう?いや違うな」


 ナツメが間違った結び方をすると、アサヒが額を突いて舌打ちをした。


「……おい。そーじゃねぇだろ。こうだ!」

「わっ、あー、そうだっけ?」

「それでここはこーやんだよ」

「あーなるほど」


 見てられなかったアサヒは素早くナツメの着替えを終わらせると、ナツメは感心したように自身の姿を鏡で見ながら笑みを浮かべる。少し重量感のある羽織を見て、得意げな表情をした後アサヒを見上げた。


「何だその顔……」


 アサヒはぽんぽんとナツメの頭を撫でた後、部屋の扉を開く。


「ほら、行くぞ。朝飯食ってから出発だ」

「おうよっ」


 下に降りると、団欒室からヨルとカゲロウの気配を感じたアサヒは、ナツメにお面を渡す。


「目ぇ隠せ。アイツら此処で飯食ってやがる」

「うん、わかった」


 ナツメがお面を装着したのを確認したアサヒは、団欒室の扉を開けた。
 そこには、予想通りカゲロウとヨルが座っており、先に朝飯を食べているヨルと、食べずに待っていたカゲロウの姿があった。


「おぉ!アサヒ、やっぱ九尾御殿の飯はうめぇーわ!」


 ヨルは口にご飯粒をつけながらそう言って二人を迎える。


「お前ら何で此処で飯食ってんだ?」


 ヨルとカゲロウは客人のため、食事を摂る部屋も用意されていたはずだぞとアサヒは顔を顰めながらも座ると、ナツメはアサヒの横に座った。
 

「ナツメと朝飯が食べたいってカゲロウがごねるからよぉ」

「ナツメーおはよう」


 カゲロウはひらひらとナツメに手を振ってアピールすると、ナツメは笑みを浮かべた。
 アサヒはじとーっとした目でカゲロウを睨むが、カゲロウはすました表情でそれを受け流す。


「おはよー。わー、今日の朝ごはん、卵焼きと焼き魚かー!お味噌汁は油揚げー!狐は油揚げ好きだもんな~」


 ナツメは二人が食べる朝食を眺めそう言うと、アサヒに笑いかける。


「ああ。翠緑は腕のいい職人も多いからな」


 アサヒとナツメの前にも朝ごはんが運ばれると、ナツメは手を合わせた。その横でアサヒも手を合わせると、二人は同時に口を開く。


「「いただきます」」


 もはや九尾御殿では“いただきます”や“ごちそうさま”が慣習として根付き始めており、アサヒは何の躊躇もなく使っていた。
 アサヒは片手でお椀を掴むと味噌汁をずずっと啜り、ナツメは両手でお椀を持ちふーふーと味噌汁を冷ましてから啜る。
 

「え、いただきますって何?暗号?」


 ヨルは首を傾げながら問いかける。


「コイツがそう言うから馴染んじまった。飯を食う前に“いただきます”って言って、命の糧になってくれた奴らと、飯を作ってくれた奴らに対しての感謝の気持ちを表す言葉らしい。
 食べた後は“ごちそうさま”っつって、また感謝の言葉を言うんだ。今じゃ上位は全員言うようになった」


 アサヒが解説をすると、ナツメはその横で嬉しそうに笑みを浮かべる。ヨルは魚を頬張りながら「変わってんなー」と呟いた。


「シュラ以外は結構みんな箸も綺麗に持つようになったよなあー」

「こんなもん簡単だ。アイツは不器用だからな」


 アサヒは得意げに箸を綺麗に持ちながら食事をすると、カゲロウはそれをじーっと見る。


「確かに綺麗な持ち方だねー。ナツメ、僕にも教えて?」

「え、難しいかもよ?」

「うん。やってみたい」


 カゲロウがそう言うと、ナツメはカゲロウの後ろに回って箸の持ち方を教え始める。
 アサヒはイライラした様子でそれを見ながらご飯を頬張ると、ヨルは顔を顰め気まずそうに味噌汁を啜った。


「こう?」

「んー、もうちょっとこう、指はここ」


 ナツメはカゲロウの手に触れながら教え始めると、カゲロウは得意げな表情でアサヒを見る。


「……」


 アサヒは顔を引き攣らせながらもなんとか耐えて魚を頭ごと頬張った。


「こうかな?」

「お!そうそう!上手じゃん、気が向いたらやってみてー」


 ナツメはそんなアサヒに気付くことなく、上達したカゲロウを誉めた後自分の場所に戻る。


「難しいけど、頑張ってみようかな」


 カゲロウはへらへらと笑ってナツメにそう言うと、ナツメは屈託のない笑みを浮かべて頷いた。


「まあ俺の方がうまいがな」


 アサヒはカゲロウを鼻で笑いながら食事を進める。


「お前器用だもん、教えたらなんでもすぐできるじゃん」


 ナツメが何気なくアサヒを褒めると、今度はアサヒが得意げな表情を浮かべカゲロウを見た。


「「……」」


 二人の間に火花が散ったのを、ナツメは気付くことなく美味しそうに朝食を摂り続ける。


「(勘弁してくれ……)」


 そんな三人をみたヨルは、人知れず溜息を吐くのであった。


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