星流国の狐族〜池に落ちたら、妖怪しかいない異世界にワープした!?〜

みるくくらうん

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黒狼隊の四天王⑤

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「なあ……姫様、大丈夫?」


 ナツメは遠慮がちにツクヨミに声をかけると、アサヒがむにゅとナツメの頬を引っ張る。


「おい、別の隊の首領に気安く話しかけんなバカ」

「んだよ心配しただけじゃんか!」


 ナツメはアサヒに噛み付く勢いで顔を近付け歯向かうと、アサヒはナツメの頭を上から掴んでフンっと鼻を鳴らす。カゲロウはその様子を羨ましそうに眺めた。

 ツクヨミは咳が落ちついてから口を開く。


『初めて聞く声だったが……誰だ?』


 ツクヨミは疑問そうな声で投げかけると、そばに居たシキが口を開く。


「ツクヨミ、久しぶり。辛そうだね。少しだけ話せるかい?」

『おぉ!シキか。久しいな』


 よほどシキとは仲が良いのか、ツクヨミの明るく嬉しそうな声が部屋に響きわたる。


「調子が悪いと聞いて心配だよ」

『大したことは無い……ただ、体の違和感はある。しかしなシキ、夜闇で弱みを見せるのはご法度。カゲロウとヨルは細心の注意を払ってそちらに行ったが、妾が不調なのが広まれば我が隊に侵略され戦争が始まるかもな』


 ツクヨミは少し咳き込みつつもそう答ええると、シキは不安げに口を開いた。


「ツクヨミ。黒妖怪を相手にして消耗した君を、他の血気盛んな隊が狙うのは時間の問題だ。さっき君に話しかけた子はうちの新入り、ナツメだ。今回君のことを診るのはアサヒではなくナツメなんだ」


 シキはそう言って説明をするとツクヨミは口を開く。


『新入り……?新入りが妾を治せる力を持っているのか』


 声だけでもツクヨミが少し驚いているのが伝わった一同。シキは再び口を開く。


「アサヒや四天王、上位がみんな認めた存在だよ。彼がいなければ、この間の黒妖怪、ダイダラボッチの襲撃は防げなかったかもしれない」

『ほう、此度のダイダラボッチ、かなり苦戦したと噂で聞いておるぞ。ナツメとやら、よほどの実力者か?』


 ツクヨミは驚いた声のままそう言うと、アサヒが口を開く。


「いや、コイツ自体は弱いです」

「よ、よわ……!?」


 ナツメはアサヒを睨みながら文句を言おうとしたが、アサヒは大きな手でナツメの首を掴み黙ってろと言わんばかりの表情を浮かべる。


『弱い、とな。黒妖怪を滅するには並大抵の妖怪じゃ無理なことは分かっておるだろう?』


 ツクヨミは少し戸惑った声色でアサヒに問いかける。


「ナツメには少し、特殊な能力があります。こちらも訳ありなので深くは話せません。深入りしない条件で、ツクヨミ様、貴方を助ける手助けをしたい」


 アサヒの強い雰囲気を纏った言葉に、ツクヨミは少し間を置いた後口を開く。


『………ふむ。妾も沢山の狼を抱える身だ。このままいつ治るかも分からぬ状態よりは、お前に賭けようナツメとやら。信用していいのだな?アサヒ、シキ』


「もちろんだよ、ツクヨミ」


 シキはナツメを横目に頷きながら即答する。


「九尾隊・首領、アサヒが保証します」


 アサヒは凛とした表情でそう言い放ち、カゲロウとヨルはとりあえずホッとした表情を浮かべ互いの目を見てから少し笑みを浮かべた。


『ナツメとやら』

「!?……な、なに?」


 ナツメはツクヨミに声をかけられると、背筋を伸ばしながら応答する。


『会えるのを楽しみにしておる。夜闇の地までは険しい道だ、弱いのであれば道中は気をつけよ』


 ツクヨミがそう言うと、ナツメはニカッと笑う。


「……へーきだよ!姫様!まっててくれよな」

「敬語を使え馬鹿野郎」


 アサヒはナツメの頭を叩き苛ついた声で言うと、ナツメはむすっとした表情を浮かべた。


「こまけーなー!」

九尾隊ここならまだしも、他所ではもう少しまともに振る舞えないのかぁ!?」

「だったら最初から言えよそうやってー!」


 二人は相変わらずの喧嘩を始めてしまい、シキは困ったように笑みを浮かべる。
 声を聞いていたツクヨミは、二人の喧嘩に割り混むようにして口を開いた。


『なーんだお前達、随分と仲が良いではないか』


 ツクヨミの何気ない言葉に、アサヒとナツメはピタッと固まる。アサヒは少し顔を赤らめ何も答えずにいると、ナツメが口を開いた。


「アサヒはオレにばっかうるせーのー!姫様への態度は演技、本当は口悪いんだぜー?」

「なっ……おいナツメ、いいかげんにしねぇーと」

『はっはっはっ!面白い子じゃないかアサヒ。……ゲホッ』


 ツクヨミは大きな声で笑ったあと、また咳き込み始めヨルは慌てて口を開く。


「姫様。今宵はもうお休みください」


 続けてカゲロウも口を開き、式神通言を担った紙を掴んだ。


「明朝出発します。なるべく急いで二人を連れて行きますからね」

『ふふ。そう急がなくても良い。二人を安全に頼むぞ』

「「はっ」」


 ツクヨミは二人の返事を聞くと式神通言を解いたため、カゲロウが持っていた人型の紙は燃えるように消えていった。


「……下に降りればセンリがいる。客間に通すように言ってあるから、明朝まで好きに過ごせ。飯やなにやらも手配しておく」


 アサヒはカゲロウとヨルにそう言う。


「おう、すまねぇな。ココの飯は絶品だから食わしてもらおうぜカゲロウ」

「そうだね。……ナツメも一緒に食べない?」

 
 カゲロウの誘いにナツメは首を傾げる。
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