星流国の狐族〜池に落ちたら、妖怪しかいない異世界にワープした!?〜

みるくくらうん

文字の大きさ
上 下
65 / 113

黒狼隊の四天王④

しおりを挟む



「そうと決まれば早速出発だな!」


 ナツメはそう言って張り切るが、アサヒはぺしっとナツメの頭を叩く。


「いって、なんだよ」


 ナツメは頭を抑えながらアサヒを見上げた。


「バーカ。夜に移動するのは危険だ。黒妖怪も活発になる時間なんだぞ。明るい街ならまだしも、夜闇の地までお前を運ぶなら朝に出たほうがいいに決まってる」

「でも、姫様は一刻も争うんだよなっ?」


 ナツメが心配そうに振り向いてヨルとカゲロウを見ると、二人は目を瞑りうーんと唸る。


「寝込むことが多いが、意思はまだ姫様のものだ。話すことも出来る。俺達は夜闇の住人だから慣れてるが、もし慣れてないなら朝の方がいい」


 ヨルは冷静にそう言ってアサヒに賛同すると、カゲロウも頷いた。


「姫様はあれだけの力を持っているから、簡単に瘴気に侵されはしないかと思うよ。きっと、押さえ込むのに必死ではあるんだけどね。念のため連絡してみようか」


 カゲロウは一枚の狼の形に型取られた黒い紙を取り出すと、指で印をつくりトンッと紙を触って念を送る。


「式神よ」


 すると一枚の紙は意志を持ったようにふわりと浮き始めほんのりと青白く光った。


「姫様、聞こえますか。カゲロウです」


 カゲロウが紙にそう問いかけると、やがて紙は左右に動き反応を示す。


『おお、カゲロウ。聞こえるぞ。全くお前ら二人は、わらわの言う事を聞かずにずに飛び出しおって』

「うわ、紙が喋った!?」


 ナツメは、目の前の妖術に驚いたのか目を見開き思わずそう呟く。アサヒは慌ててナツメの口を塞ぐと二人に聞こえないようにナツメに耳打ちをした。


式神通言しきがみつうごんだ。対となる紙を持てば離れていても会話ができる。俺らの世界じゃ常識だから覚えておけ」

「っそ、そうなんだ。電話みたいなもんか!ごめんごめん」

「ったく気をつけろ(デンワ?)」


 ナツメは申し訳無さそうにそう言うと、アサヒはナツメの少しズレたお面を直しつつ注意した。
 ヨルはナツメの反応を不思議がり訝しげにナツメを見る。


「(式神通言しきがみつうごんを知らないなんてことがあるのか?)」


 その視線に気付いたアサヒは誤魔化すように口を開いた。


「ツクヨミ様、お久しぶりです」


 ツクヨミに敬意を払い、いつもより低く落ち着いた声色で話すアサヒ。ナツメは普段見るアサヒの様子とは違うことにすぐ気付いて目を見開く。


『おぉ、その声はアサヒか?最後に会ったのは三十年前ぐらいか。噂はかねがね聞いておるぞ。ずいぶん立派にやってるみたいだな。一瞬枯れかけた翠緑を繁栄させたお前は一人前だな』


 ツクヨミは明るい声でアサヒにそう話すと、アサヒは小さく笑う。


「俺なんかまだまだです。それより、お加減は」

『良くはないが、こうして話をするぐらいなら簡単だ。心配をかけたな。ヨルとカゲロウはわらわの身を大袈裟に案じてお前の元へ行った。世話をかけてすまんな』

「いえ。四天王二人がこちらに来るなんて驚きですが、事情は伺いました」

『黒狼隊は頭の出来が悪い奴が多くてな。体が先に動くのじゃ。そんなに大したことはないぞ』


 ツクヨミはそう言って大笑いすると、カゲロウとヨルはばつが悪そうな表情を浮かべた。


「……ツクヨミ様。明日、そちらに伺おうかと思います」


 アサヒがそう言うと、ツクヨミは一瞬動きを止めたような雰囲気で呼吸をする。


『お前が夜闇に?はて、何故。時間も経てばきっと収まる、心配はいらないぞ』


 ツクヨミの少し驚いた声が部屋に響いた。


「ツクヨミ様。その様子、俺の予想ですが猫又の核がツクヨミ様の魂を穢そうとしているかもしれません。真相を確かめるためにも、ツクヨミ様に謁見を申し入れさせてください」


 アサヒがそう言うと、ツクヨミは一瞬何かを考えてから話し始めた。


『……昔にエンジュからとある話を聞いたことがある。黒妖怪から出た瘴気の核に魂を侵された場合、助かる手段はおそらくないと。……サクナヒメ、とやらがいない限りはな』


 サクナヒメ。その単語が出た時、アサヒは目を見開いた。


『……確かに妾の中は黒の気配が漂っているが、自分の妖力で抑えこめる。だが一向に出て行きやしない。これは何か裏があると思わないか、アサヒ』


 何かを察したような雰囲気でそう問いかけるツクヨミに、アサヒは目を細め口を開く。


「……ヨルとカゲロウが予想する通りかもしれませんし、この緩やかな侵略は何らかの意図があるかもしれません」


 アサヒは横目でナツメを見ると、再度口を開く。


「しかし、お役に立てるかもしれません。どうか謁見を受け入れてください。そのための条件は既にヨルとカゲロウが飲みました」


 強い口調ではっきりとそう言ったアサヒ。少し間が出来たあと、ツクヨミは笑い声をあげた。


『アサヒ、本当にお前は立派になったな。どれ、久しぶりに顔を見せにこい』


 ツクヨミはそう言った後咳き込み始め、ヨルとカゲロウは目を見開く。


「(咳?アサヒの時は出ていなかったよなぁ……)」


 黒妖怪の核が侵食しかけていた時のアサヒは、気力を奪われただ静かに闇に侵されていた。しかし今回の侵され方は少し違うとナツメは首を傾げる。

しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。

かとらり。
BL
 セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。  オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。  それは……重度の被虐趣味だ。  虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。  だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?  そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。  ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

処理中です...