星流国の狐族〜池に落ちたら、妖怪しかいない異世界にワープした!?〜

みるくくらうん

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黒狼隊の四天王④

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「そうと決まれば早速出発だな!」


 ナツメはそう言って張り切るが、アサヒはぺしっとナツメの頭を叩く。


「いって、なんだよ」


 ナツメは頭を抑えながらアサヒを見上げた。


「バーカ。夜に移動するのは危険だ。黒妖怪も活発になる時間なんだぞ。明るい街ならまだしも、夜闇の地までお前を運ぶなら朝に出たほうがいいに決まってる」

「でも、姫様は一刻も争うんだよなっ?」


 ナツメが心配そうに振り向いてヨルとカゲロウを見ると、二人は目を瞑りうーんと唸る。


「寝込むことが多いが、意思はまだ姫様のものだ。話すことも出来る。俺達は夜闇の住人だから慣れてるが、もし慣れてないなら朝の方がいい」


 ヨルは冷静にそう言ってアサヒに賛同すると、カゲロウも頷いた。


「姫様はあれだけの力を持っているから、簡単に瘴気に侵されはしないかと思うよ。きっと、押さえ込むのに必死ではあるんだけどね。念のため連絡してみようか」


 カゲロウは一枚の狼の形に型取られた黒い紙を取り出すと、指で印をつくりトンッと紙を触って念を送る。


「式神よ」


 すると一枚の紙は意志を持ったようにふわりと浮き始めほんのりと青白く光った。


「姫様、聞こえますか。カゲロウです」


 カゲロウが紙にそう問いかけると、やがて紙は左右に動き反応を示す。


『おお、カゲロウ。聞こえるぞ。全くお前ら二人は、わらわの言う事を聞かずにずに飛び出しおって』

「うわ、紙が喋った!?」


 ナツメは、目の前の妖術に驚いたのか目を見開き思わずそう呟く。アサヒは慌ててナツメの口を塞ぐと二人に聞こえないようにナツメに耳打ちをした。


式神通言しきがみつうごんだ。対となる紙を持てば離れていても会話ができる。俺らの世界じゃ常識だから覚えておけ」

「っそ、そうなんだ。電話みたいなもんか!ごめんごめん」

「ったく気をつけろ(デンワ?)」


 ナツメは申し訳無さそうにそう言うと、アサヒはナツメの少しズレたお面を直しつつ注意した。
 ヨルはナツメの反応を不思議がり訝しげにナツメを見る。


「(式神通言しきがみつうごんを知らないなんてことがあるのか?)」


 その視線に気付いたアサヒは誤魔化すように口を開いた。


「ツクヨミ様、お久しぶりです」


 ツクヨミに敬意を払い、いつもより低く落ち着いた声色で話すアサヒ。ナツメは普段見るアサヒの様子とは違うことにすぐ気付いて目を見開く。


『おぉ、その声はアサヒか?最後に会ったのは三十年前ぐらいか。噂はかねがね聞いておるぞ。ずいぶん立派にやってるみたいだな。一瞬枯れかけた翠緑を繁栄させたお前は一人前だな』


 ツクヨミは明るい声でアサヒにそう話すと、アサヒは小さく笑う。


「俺なんかまだまだです。それより、お加減は」

『良くはないが、こうして話をするぐらいなら簡単だ。心配をかけたな。ヨルとカゲロウはわらわの身を大袈裟に案じてお前の元へ行った。世話をかけてすまんな』

「いえ。四天王二人がこちらに来るなんて驚きですが、事情は伺いました」

『黒狼隊は頭の出来が悪い奴が多くてな。体が先に動くのじゃ。そんなに大したことはないぞ』


 ツクヨミはそう言って大笑いすると、カゲロウとヨルはばつが悪そうな表情を浮かべた。


「……ツクヨミ様。明日、そちらに伺おうかと思います」


 アサヒがそう言うと、ツクヨミは一瞬動きを止めたような雰囲気で呼吸をする。


『お前が夜闇に?はて、何故。時間も経てばきっと収まる、心配はいらないぞ』


 ツクヨミの少し驚いた声が部屋に響いた。


「ツクヨミ様。その様子、俺の予想ですが猫又の核がツクヨミ様の魂を穢そうとしているかもしれません。真相を確かめるためにも、ツクヨミ様に謁見を申し入れさせてください」


 アサヒがそう言うと、ツクヨミは一瞬何かを考えてから話し始めた。


『……昔にエンジュからとある話を聞いたことがある。黒妖怪から出た瘴気の核に魂を侵された場合、助かる手段はおそらくないと。……サクナヒメ、とやらがいない限りはな』


 サクナヒメ。その単語が出た時、アサヒは目を見開いた。


『……確かに妾の中は黒の気配が漂っているが、自分の妖力で抑えこめる。だが一向に出て行きやしない。これは何か裏があると思わないか、アサヒ』


 何かを察したような雰囲気でそう問いかけるツクヨミに、アサヒは目を細め口を開く。


「……ヨルとカゲロウが予想する通りかもしれませんし、この緩やかな侵略は何らかの意図があるかもしれません」


 アサヒは横目でナツメを見ると、再度口を開く。


「しかし、お役に立てるかもしれません。どうか謁見を受け入れてください。そのための条件は既にヨルとカゲロウが飲みました」


 強い口調ではっきりとそう言ったアサヒ。少し間が出来たあと、ツクヨミは笑い声をあげた。


『アサヒ、本当にお前は立派になったな。どれ、久しぶりに顔を見せにこい』


 ツクヨミはそう言った後咳き込み始め、ヨルとカゲロウは目を見開く。


「(咳?アサヒの時は出ていなかったよなぁ……)」


 黒妖怪の核が侵食しかけていた時のアサヒは、気力を奪われただ静かに闇に侵されていた。しかし今回の侵され方は少し違うとナツメは首を傾げる。

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