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黒狼隊の四天王①
しおりを挟むアサヒを引っ張り回し(ついでにヨルも)、夕方ごろまで散々妖怪の街を遊んだナツメ。少し疲れたのか、ナツメは飴細工を舐めながらアサヒを見上げ袖を引っ張った。
「なー、足疲れた」
「そろそろ日も暮れるし帰るか。乗せてやる」
体調は万全とは言え、一度生死を彷徨ったほどの熱を出していたナツメの体はまだ疲労が溜まりやすく、それを察したアサヒはナツメを肩に抱える。
「この乗せ方荷物みたいでやだ」
ナツメがそう言うと、アサヒは少し考えた後お姫様抱っこに変える。
「これでいーか?」
アサヒは少し恥ずかしそうにナツメを見下ろしそう問いかけると、ナツメはニカッと笑う。
「おー良い感じ!すげー楽!」
ナツメがそう言うと、アサヒは小さく笑ってから振り向きヨルを見た。
「ヨル。そろそろ御殿に戻る。カゲロウは着いたのか?」
「あぁ、もしかしたらもういるかもしれねぇーなぁ」
「そうか。なら街を抜けたら空から行くが」
「あぁ、俺も走って追いかけるから気にすんな」
アサヒは街から出て広い場所に出ると、狐姿に変化しナツメを背に乗せて飛び立つ。ヨルもそれに続くように狼に変化するが、空を飛ぶことは出来ないため、地上を物凄い速さで駆け九尾御殿を目指した。
「なぁ、アサヒ」
アサヒの背に乗っている間、ナツメはお面を外して口を開く。
「なんだ」
ナツメは、狐の形をしたべっこう味の飴細工を舐めながら笑みを浮かべた。
「楽しかった」
ナツメは屈託のない声色で心からそう言うと、アサヒは少し目を見開く。
早くに両親を亡くしたナツメは、こうして心ゆくままに出店を楽しむことが無かった。アサヒに我儘を言ったり、何かを買ってもらったりしたことに、ナツメは相当嬉しかったのか目を細め笑みを浮かべた。
それが少し儚く思えたアサヒは口を開く。
「街は毎日あんな感じだ。俺が空いている時は……いや、お前が行きたい時は予定を空けてやるから言え」
「え……いいの?」
アサヒの申し出に、ナツメは目を見開き、アサヒの光り輝く綺麗な毛並みを撫でながら問いかけた。夕陽に向かってくように飛ぶアサヒは美しく、ナツメの目にそれは神々しく映る。
「当たり前だろ。俺はお前の……」
アサヒはそう言いかけて恥ずかしくなったのか口籠る。
「お前の、なに?」
ナツメが小さく笑ってそう問いかけると、アサヒは自分だけ照れているのが馬鹿らしくなったのか勢いで口を開いた。
「……お前は特別だ。だから俺はお前の言うことぐらい聞いてやるって言ってんだよ」
アサヒは慣れない言葉を言ったため少しぎこちない雰囲気だが、ナツメは嬉しそうにアサヒの銀色の毛並みに顔を埋めた。
「そんなにオレが特別なんだ」
「当たり前だろ馬鹿……お前な、急にどっかに行く癖はやめろよ?何があるか分かんねーだろうが」
「分かったってば(……魂縛呪を使ったなんて言えない)」
ナツメは偶然ひったくりの現場に居合わせたことはアサヒには言わず、いつのまにか九尾御殿についた頃にはその出来事も忘れていた。
アサヒの部屋の前に降り立った二人は、そのまま団欒室へ向かう。
「(この気配……)」
九尾隊ではない別の者の気配を感じたアサヒは、ナツメの顔にお面をつけてから扉を開いた。
「おかえり!アサヒ、ナツメ。カゲロウが来てるよ。街の盗人を捕まえてくれたんだ」
優しい声色で二人を迎えるシキ。そしてその横には見覚えのある狼妖怪が座っており、ナツメは思わず指をさした。
「えっ!?あ!お前!お前がカゲロウって奴だったの!?」
ナツメがそう言うと、カゲロウはぼーっとした表情から一変し、嬉しそうに立ち上がってナツメの目の前に飛ぶ勢いで近付く。
「君はあの時のお面の子!九尾隊の子だったんだね、良かった。もう二度と会えないと思ったから……」
カゲロウはそう言ってナツメの手を握って笑みを浮かべると、アサヒは顔を引き攣らせる。
「やっぱりこれは運命だと思う。さっきも言ったけど、僕と結婚して!」
カゲロウがそう言い放つと、ナツメは顔を赤くし目を見開いた。アサヒは更に顔を引き攣らせて拳を握り目をひくつかせる。
「……なっ!?また変なこと言ってる!」
ナツメは慌ててその手を振り解くと、動揺した表情を浮かべて狼狽えた。
「(また?)おいカゲロウ。お前ナツメを知ってるのか?」
アサヒはあくまでも冷静にそう問いかけるが、ナツメの前に立ちナツメを隠すような態度をとったため、シキはそれを見て微笑む。
「うん」
カゲロウはアサヒの問いかけに頷くと、体を横に傾けてナツメの様子を伺った。
「君、ナツメって言うんだ」
「う、うん」
ナツメは困ったように返事を返すと、丁度そこにヨルが現れる。
「よぉー。着いたぜー。おお、カゲロウもういるじゃねーか……って、なんだこの空気」
苛ついた表情を浮かべカゲロウを睨むアサヒと、普段大人しく感情をあまり表に出さないカゲロウがナツメを愛おしそうに見つめる姿に、ヨルは首を傾げた。
「ナツメ、お前カゲロウとどっかで会ったのか」
アサヒがそう問いかけると、ナツメはビクッと体を震わせ小さく頷く。
「さっきはぐれたときに……少しだけ」
ナツメはアサヒと目を合わせずそう答えると、カゲロウは懐から金魚を三匹取り出してナツメに見せる。袋の中の水で泳ぐ金魚が、落ちかけの夕陽の光で輝いた。
「これ、ありがとう」
カゲロウは小さくお礼を言ってナツメを見下ろすと、アサヒはナツメを守るようにして片腕を広げそれ以上近寄らせないようのする。
「カゲロウ……コイツは俺のだ。何があったか知らねーが、いきなり求婚してんじゃねーよ馬鹿」
アサヒは独占欲を全面に出して牙を出しながらそう言い放つと、カゲロウはじとっとした目でアサヒを見る。
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