星流国の狐族〜池に落ちたら、妖怪しかいない異世界にワープした!?〜

みるくくらうん

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九尾御殿の三つ子②

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「いま、ナツメって言わなかったか?」


 アオはこそっとリョクとシロにそう問いかけると、二人は青ざめたまま頷く。


「そういえば名前を聞くのを忘れていた……センリ様が頭を垂れていると言うことは、あれが噂のナツメ様、なのか!?」


 リョクは慌てた様子でそう告げると、シロはガタガタと震え始める。


「おれっち達は、最近上位狐として九尾隊に入隊したという、噂のナツメ様に雑巾掛けをさせてしまったのかぁ……!?」


 シロの言葉に、三人はガタガタと震えが止まらない。


「ナツメ様、下まで降りて一体何を?それに手に雑巾を持っているようですが」


 センリは片膝をついたままナツメを見上げて問いかける。


「ん?暇だったから掃除してた!働かざる者食うべからずだろ?オレだって掃除くらいはできるし」


 ナツメは得意げに笑みを浮かべてそう言うと、センリは全て察したように三つ子を睨み付け立ち上がった。


「どういうことですか、アオ、リョク、シロ」


 三つ子は静かに怒る様子のセンリを見て、慌てて立ち上がり涙目で弁解をする。


「こここれは違うのですセンリ様ぁぁ!!」

「ふらっと現れた新人かと思い、まずは基本の掃除を教えていたのです!!」

「まさか上位のナツメ様とは知らず、とんだご無礼を」


 三つ子は再び土下座をするとナツメに向かって謝罪をする。


「申し訳ありませんでした!!!!」

「ご無礼をお許しくだされぇ!!」

「命だけはー!!!」


 すっかり態度が変わりナツメに怯える三つ子。その変わりように、ナツメは少し寂しそうな表情を浮かべる。


「おいおい、顔をあげろよ……んな大袈裟な、お前ら何も悪くないって」


 ナツメは片膝をついて三つ子の頭を優しく撫でると、三つ子は涙を浮かべたまま顔をあげる。


「ナツメ様……」

「オレだって名前言ってなかったし、お前らもオレのこと知らなかったもんな。それに、こんな風に気軽に話してくれたの嬉しかったんだ。掃除だって嫌いじゃねぇし」


 ナツメの優しい声色と屈託の無い笑みに、三つ子は温かい涙を浮かべる。
 上位がみんな任務で出かけていたことに、少し心細い気持ちはあったのか、こうして気軽に接してくれる誰かがいることがナツメにとっては嬉しい様子だった。
 センリはそれを察してか、何も言わずそれを見守る。


「よかったら、またオレに色々教えてよ。オレなんて上位とは言いつつ、アサヒ達と比べたら大したヤツでもないし。
土下座なんていいから、普通にオレと変わらず接してくれよ」


 ナツメは三つ子にそう言い放つと、三つ子はおそるおそる立ち上がり顔を見合わせる。それから小さな身体でナツメを見上げる三つ子に、ナツメは笑みを浮かべたまま首を傾げ返事を待った。


「なんとお優しいナツメさま……で、ですが」


 妖怪の序列は厳しく、力のある妖怪に無礼を働くことは許されない世界なのか、三つ子は返答に困り俯く。内心はナツメともっと仲良くしたいのだが、下位の者が気軽に上位に接していいものかと躊躇している様子だった。
 ナツメは溜息を吐いて口を開く。


「センリなんて、会ってすぐオレに怪我させてんだよ。コイツの方がよっぽど無礼だぞ」


 ナツメはにへらっと笑いながらセンリを指差す。センリは何も言い返せず、気まずそうに表情を歪めた。


「(私を利用しましたね……)」


 センリが眉を顰めナツメをみると、ナツメは手を合わせてごめんのポーズをし舌を出す。


「あああああのセンリ様が……!?」


 品行方正で上位に絶対服従を誓う存在であるセンリが、ナツメに怪我をさせたているという事実を知ったアオは驚いた様子でそう呟く。
 ちなみに昔、センリがシュラに怪我を負わせた時は、シュラは上位として入隊していたわけでは無かったため、全く問題にはなっていなかった。


「そーそ。だからさー、こんなこと大したことないだろ?でさ、またオレに色々教えてよ。モモちゃんにも会いたいしさ、気軽にオレと話してくれないか?」


 ナツメが優しい声色と表情でそう言うと、三つ子は顔を赤くして目を見合わせる。寝ていたモモもいつの間にか起きてキャッキャと笑っていた。
 三つ子はセンリへ目を向け様子を伺う。下位では判断できないのか、センリに権限を委ねた。


「……まったく、困ったお方ですね」


 センリはナツメを見て軽く息を吐いて口を開く。


「上位というのは、下から崇められ、尊敬される存在です。しかしナツメ様は確かに色々と疎いところがありますので、三つ子に何かを教わるのは良しとしましょう」


 センリの言葉に三つ子とナツメは目を輝かせる。


「しかし三つ子。ナツメ様には敬意を払いなさい。気付いているとは思うが、この通りナツメ様は普段、上位の威厳はなく、人懐っこい性格も相まって接しやすい。だが紛れもなく上位なのだから、最低限の振る舞いは欠かさぬことだ」

「はい!勿論です!」


 センリがビシッとそう言い放つと、三つ子達は大きく頷いて大きな声で返事をした。


「そしてナツメ様。貴方ももっと上位としての自覚をお持ちになって下位の者と接することです。そういう態度で過ごしていると、九尾御殿の上位は生温いと外から舐められますからね、……って、ナツメ様聞いてますか」


 センリがナツメに説教をするも、ナツメはモモを抱き抱え楽しそうに体を揺らしており、全くもって聞いてない様子だった。


「かんわいぃーなーお前!すげぇ元気だし、じゃじゃ馬に育ちそう」

「モモ、ナツメ様に抱っこしてもらえて嬉しいのだな!」

「モモ、お前は大きくなったら自慢できるぞ!ナツメ様に抱っこしてもらえたのだからなぁ」


 三つ子はモモを抱き抱えるナツメを囲うようにしてぴょんぴょんと飛び嬉しそうに笑みを浮かべる。


「んな大袈裟な……どんだけ上位って敷居が高いんだよ」


 ナツメは苦笑しながらも、モモの頬をふわふわと撫でた。モモはナツメの指を両手で持つと、甘噛みしながら笑ってみせた。
 ナツメもそれにつられて楽しそうに笑うと、センリはやれやれと軽く溜息を吐きながらも、小さく笑ってそれを見守っていたのであった。
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