星流国の狐族〜池に落ちたら、妖怪しかいない異世界にワープした!?〜

みるくくらうん

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翠緑の地・緑王街

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「アサヒ、そろそろナツメを外に出してやるさね。このままこの御殿に閉じ込めて過ごさせていたら、まるで箱入り娘みたいじゃないか。それじゃあいつまで経ってもこの世界に慣れないさね」


 夕食後に晩酌をするクレナイは、過保護なアサヒに対して溜息を吐きながら頬杖を突いて説教をすると、アサヒはお酒を口にしながら答える。


「言われなくても、ちょうど明日に街へ連れて行く予定だ。つーかアイツが箱入りって柄かよ」

「おや、なんだ逢引きするのかい。早く言ってくれればいいじゃないか」


 クレナイばからかうように笑いながらアサヒに酒を注いだ。


「逢引きとか言うんじゃねぇ。とりあえず九尾御殿も慣れてきたところだし、センリがある程度は外についての知識をナツメにつけた。明るいうちなら外に出ても大丈夫だろう」


 アサヒは再び一気に酒を飲みほしたところに、ナツメが偶然現れる。


「あー風呂きもちかったー!あれすごいよなー、温泉ひいてるって知らなかったぜーっ」


 ナツメは湯上がりの状態で団欒室に足を運び、手拭いを肩にかけながらご機嫌な様子でアサヒの横に座った。
 自然と寄り添うように座って蜜柑を剥き始めるナツメに、クレナイは微笑ましそうに笑みを浮かべる。
 アサヒも満更ではないのか、少し嬉しそうなのをグッと堪えて真顔のまま頬杖をつきナツメを見た。


「ったくお前は、ちゃんと髪を拭け」


 少し濡れた髪が気になったアサヒは、手拭いを掴んでナツメの髪を丁寧に拭き始めた。


「(アサヒは世話焼きさね)」


 クレナイは緩む口元を隠すように酒を飲み、ナツメの髪を宝物のように丁寧に扱うアサヒを眺めた。


「なーアサヒ、明日楽しみだな」


 ナツメは髪を拭かれながら、笑顔を浮かべて蜜柑を食べる。よっぽど外の世界が気になっていたのか、ワクワクした様子だった。


「……大袈裟だろ。いいか、迷子になるんじゃねーぞ。街はお前の想像してる何倍も賑わってるからな」


 アサヒはナツメの髪を拭き終わると、小さく愛らしい鼻を摘んで忠告する。


「子供扱いすんなってー!そんなに心配なら手でも繋げばいーだろ!」


 ナツメがそう言って退けると、アサヒは顔を赤くし狼狽える。


「は、はぁ?手?ガキじゃねーんだから、ちゃんとお前がついて来たらいーだろうが」


 本当は繋ぎたいくせに、とクレナイは内心思いながらやれやれと溜息を吐く。


「だからついてくって言ってんじゃん!それなのにお前何回もはぐれるなーとか、よそ見すんなよーとか!オレは赤ちゃんかよ」


 ナツメはむくれながらアサヒの口に蜜柑を放り込んでベーッと舌を出す。


「……」


 アサヒはもぐもぐと蜜柑を食べながらナツメから目を逸らし眉を顰めた。


「(ほんっと不器用さね)」


 クレナイは苦笑しながら喧嘩をする二人を見守った。



--------------------------------


 そして迎えた次の日、アサヒとナツメは翠緑の地最大の街、”緑王街“へとやってきた。
 隊服で行くと目立ってしまうため、アサヒもナツメも普段着の着物で街を散策する。ナツメはお約束の、目だけを覆う特殊な狐のお面をつけてアサヒの横をピッタリとくっついて歩いた。
 

「うわー、何だよこれぇ、翠緑の地ってこんな都会だったのか!?」


 まるで縁日のように盛り上がる街を見たナツメは驚愕の表情を浮かべる。
 翠緑の地は狐妖怪が多いが、センリから聞いた通り、この街は様々な種族の妖怪が商売をしたり遊びに来ているようだった。
 人型の妖怪もいれば、動物そのものの見た目をした妖怪もいる。多様化している光景を目にしたナツメはきょろきょろと見回しながら、無意識にアサヒの袖を掴み歩いた。
 アサヒは少し照れながらも口を開く。


「ああ、想像以上だろう?九尾御殿は田舎にあるから想像つかなかったか。都ほどじゃねぇけど、この街に限っては夜も賑やかだぞ」


 飛び交う活気のある声と、楽しそうに闊歩する妖怪達。ナツメはお面の力もあり、奇異な目で見られることなくそこに溶けこんでいた。


「すげー……祭りみたい……あ、わたあめある!こっちの世界にもあるんだな!」


 ナツメはわたあめの屋台を見つけるとそちらの方へ走っていこうとし、横から現れた妖怪に丁度ぶつかりそうになったため、アサヒは思わずナツメの手を握って引き寄せた。


「おいコラ、言ったそばから危ねぇだろうが。わたあめぐらいで興奮すんなガキ」


 アサヒはナツメの頬をむにっと掴む。


「ご、ごめん……お祭りみたいでつい」

「……行きたいところは全部寄ってやるから、慌てるな」


 アサヒはナツメの手を握ったままわたあめの屋台までナツメをリードし、店員に声をかけた。


「おい、蛙。ひとつくれ」


 背中を向けてわたあめを作っていた蛙妖怪の店員は、客が来たかと振り返る。
 ナツメは大きな蛙がわたあめを作っている奇妙な光景をただ大人しく見つめていた。


「あいよ!……って、こりゃたまげた、アサヒ様じゃないですか!街まで降りてくるなんて珍しいこともあるもんだ」


 隊服を着ていなくても、アサヒは九尾隊の首領。もちろんその容貌は知れ渡っている。

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