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翠緑の地・緑王街③
しおりを挟む「あ、いた」
アサヒの登場に、ナツメはあっけらかんとして指を差しながらそう言うと、アサヒはぺちっとナツメの頭を軽く叩いた。
「このドアホ、これだけうじゃうじゃ妖怪がいると匂いで追えないんだから気をつけろって言っただろ!」
「いってっ……そもそも迷子になったのはお前だろバカアサヒ!ちゃんとついてこいよな!どんくせー!」
「鈍臭いだと!?この俺に向かってなんつーことを」
アサヒはむにっとナツメの両頬を引っ張ってみせると、ナツメはじたばたと暴れるアサヒの髪を引っ張りやり返す。
そのやり取りを見たヨルは、キョトンとした表情を浮かべた。
「アサヒ、そんな小さいやつにムキになるなよ。引くわー」
ヨルがじとっとした目でそう言い放つと、アサヒは我に返り顔を引き攣らせる。
「べ、別に……ムキにはなってねーよ」
「ほんとガキだな」
ナツメの追い討ちをかける一言で、アサヒは再び顔を引き攣らせ今度は鼻を摘んだ。
「お前は一言多いんだよ!つーかヨル、お前何で翠緑にいるんだ」
アサヒはヨルが翠緑の地にいることを疑問に思い問いかけると、ヨルは少し神妙な面持ちで口を開く。
「……実はお前に用事があって来た。夜までにはカゲロウも翠緑に到着するから、その時になったら時間をくれるか?」
ヨルがそう言うと、アサヒはその雰囲気にただならぬことが起こったのだろうと察して頷いた。
「あぁ、分かった」
「ま、カゲロウが来るまでは久しぶりに緑王街を満喫するぜ」
ヨルはすぐに雰囲気を戻し、いつの間にか入手していたミズトカゲの串焼きをナツメに手渡す。
「ほれ、ナツメ。食いたそうにしてたからやるよ。食べたことないんだろ?」
ナツメは少し嬉しそうに笑みを浮かべヨルを見上げる。
「え、いいの?」
「あぁ」
ナツメは目を輝かせながらミズトカゲの串焼きをパクッと一口齧ると、美味しそうに咀嚼する。
「うまー!焼鳥みたい!」
「そりゃよかった。ミズトカゲ食ったことない奴なんているんだな」
この世界ではよほど有名な食べ物なのか、ヨルがそう呟くとアサヒが気まずそうな表情を浮かべる。
「ま、まあ……コイツはこういう食べ物には疎いからな」
「へぇ……どうでもいいけどよ、なーんか変わった雰囲気してるよなアイツ」
「気のせいだろ」
二人が会話をしている間、ナツメは別の事に気を取られたのか、その場からふらっと姿を消していたことに気付いた二人は一瞬固まる。
「……ナツメはどこいった」
アサヒは姿を消したナツメに苛ついた表情を浮かべた。
「あーりゃりゃ。いなくなっちゃったな。お前のツレって迷子癖でもあんのか?」
ヨルは軽く笑みを浮かべる。
「あークソッ……チビだから余計探しづらい。探すの手伝えヨル」
「仕方ねぇー」
アサヒとヨルは人混みを掻き分けながらナツメを探すも、どちらも有名人のため声をかけられることが多く、なかなか前に進まなかった。
---------------------------------
一方のナツメは、金魚すくいのような屋台でぼーっとしゃがみながら金魚を眺める男を見つけると、不思議そうな表情を浮かべ近寄った。
「(ヨルとおんなじ狼?)」
男はヨルと同じような狼耳が生えており、ふさふさの尻尾もある。着物は綺麗に着ており、長い前髪と泣き黒子が特徴的だった。
ナツメは自分も金魚すくいがしたくなったのか、そんな男になんとなく声をかけながら近付く。
「見てたって取れないぞ。やんないなら貸せよ」
ナツメの突然の一言に、ボーッとしていた男はナツメをチラッと見ると迷うことなく網を差し出した。
「……取れるの?」
男はナツメに金魚すくいの網を手渡すと、小さくそう問いかけて首を傾げ、長い前髪から覗く赤い瞳でナツメを見つめたあと金魚に視線を戻す。
ナツメは男の横にそっとしゃがむと、網を確認し、自分のいた世界にあった網と大差ないことを確認すると得意げに笑う。
「うん、たぶん取れる。見てろよ」
ナツメは腕まくりをしながら勢いよく金魚を一気に三匹掬い上げると、男は目を見開いた。
「三匹も……」
「はい」
ナツメは取った金魚を銀色の器に入れて男に手渡すと、男はそれを受け取った。
「くれるの」
「うん、やるよ!」
ナツメは屈託のない笑みを見せると、男もやがて小さく笑みを浮かべる。ナツメの明るい雰囲気と人懐っこさに惹かれたのか、狼妖怪は少し顔を赤らめながら口を開いた。
「……もっとあそぶ?(笑顔がかわいい……えくぼ……小さいのに僕のこと全然怖くないんだ)」
ナツメは男の問いかけに頷こうとすると、背後から叫び声が聞こえ二人は反射的に振り向いた。
「きゃー!ひったくりよー!」
ナツメは犯人らしき狐の妖怪を追いかけ、妖怪達の間をすり抜けて走る。金魚を持った狼妖怪は立ち上がって呆然とその様子を見ていたが、それを一旦店員に渡すと慌ててナツメの後ろを追いかけた。
ナツメは人気のない路地に逸れた犯人を追いかけ、後ろにようやく追いつくが手は届かない。
「おいコラ!“止まれ!”」
ナツメが無我夢中でそう叫ぶと、犯人はピタッと動きを止めた。
ナツメの後ろを走っていた狼妖怪は、その瞬間を目の当たりにして目を見開く。
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