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中位隊長・センリ③
しおりを挟む「おいナツメ、耳大丈夫かよ。血が止まんねーじゃねぇか!」
焦るシュラを他所に、ナツメはズキズキとした痛みに耐えつつ、一度耳から手を離して手に付いた血を見る。
サイカはわなわなと震えどうしたら良いものかと目を潤ませていた。
「だ、大丈夫だけど、いってぇー!」
ナツメは大きな溜息を吐いてどう手当てするか考えていると、突然シュラは何かに気付き耳をビクッと動かす。
「来る」
シュラがそう呟いた瞬間、センリの部屋の扉が乱暴に開けられ、血相を変えたアサヒが慌てて入室し一同は目を見開いた。
「アサヒ様、ナツメの血が止まらないのじゃ~!」
心配するサイカの言葉を聞いたアサヒは、すぐさまナツメに目を向けると、耳から血を流していることを確認し一瞬目を見開く。
「やっぱりお前だったか、ナツメ」
アサヒは焦った様子で素早くナツメの側に駆け寄り、怪我の様子を確認するため耳を押さえる手を掴んだ。耳輪と耳たぶの部分が二箇所裂けているのを確認してから、懐にあった薬と当て布で素早く手当する。
「アサヒ……、様」
ナツメはアサヒの突然の登場と手際の良さに驚き、思わず名前を呼んだ。その際、センリの様子を伺うようにぎこちなく“様”を付けるナツメを、アサヒは訝しげに見下ろしながら手当てを続ける。
「なんだお前……今更“様“なんてつけんな気持ち悪い。普通に呼べ馬鹿」
アサヒは急に距離感を感じてしまったのか、ムスッとした表情を浮かべた。
「いや、それのせいで耳切られたんだけど……。てか手際いいな、なんで?」
随分と準備のいいアサヒに、ナツメは感心したようにアサヒを見上げた。
「あったりめーだろ!お前のために覚えた。薬もわざわざ調合して保管してやってんだ、有り難く使え」
実はナツメのために文献を見た際に得た知識で薬草を集め薬を作っていたアサヒは、それを常に持ち歩いていた様子。
アサヒが自分のために準備をしていたことを知ったナツメは、一瞬目を見開くも、小さく微笑んでアサヒを見た。
「……そっか、ありがと」
ナツメがお礼を言うと、アサヒはその声色の心地良さに目を細め何も言わずに頭を撫でる。センリはそんな二人の関係性をじっと眺めていた。
「……とりあえず、これで押さえておけ」
ナツメは言われた通り布で傷口を抑えると、不思議と痛さが和らいでいくのを感じ安心した表情を浮かべる。手当が落ち着いたところで、アサヒはギロっとセンリを睨みつけた。
「で、お前の仕業だなセンリ。昔来たばかりだったシュラにも、しょーもねー理由で怪我させただろ。その悪癖まだ治ってなかったのか」
アサヒは呆れ顔で溜息を吐きセンリに問いかける。
「弁解するつもりはありません。どんな罰でも受けます。しかしアサヒ様、ナツメ様を信頼する理由を私にも与えてください。貴方のような高貴な狐が、流浪の小妖怪に呼び捨てさせるなんて。ほかの狐が混乱しますよ」
センリは凛とした表情でアサヒを見ると、言い訳をすることもなく潔くそう言った。
「(小どころかそもそも妖怪じゃねーんだけど)」
ナツメはうーんと表情を曇らせながら耳を布で押さえる。
「センリ、お前はこのちんちくりんが実はアホを装った諜報員かも知れねぇって思ってるんだな。確かに昔そんな事件が九尾隊であったが、今回は事情が事情だ。コイツに限ってはまずあり得ない」
アサヒがそう言って退けると、さらに続ける。
「そもそもコイツは正真正銘のアホだ。九尾隊を陥落させるほどの実力も頭もねぇ。呼び捨てなのは、言っても聞かない馬鹿だからだよ」
ナツメはアサヒの悪口にもとれる発言にイラッとした表情を浮かべ、思わずアサヒを睨み付けた。
「(好き勝手言いやがってこの馬鹿狐……)」
ナツメの視線に気付いたアサヒはべっと舌を出して挑発する。
「ですから、信頼できる理由はなんですか。聞くところ実力不足で頭も悪いとのことですが、アサヒ様はナツメ様を上位として迎えています
肝心なその理由が聞けてません。それに、あの程度の怪我で大慌てするのも不可解ですが」
センリは納得いかない様子でそう言い放ち、眉を顰めナツメを睨んだ。ナツメは困った表情を浮かべながらずれたお面を直す。
アサヒ少し考えた後、小さく口を開いた。
「……センリ。このアホのことちゃんと説明してやるから部屋まで来い。
シュラ、もうすぐでエンジュが帰ってくるだろうから、お前はナツメの傷を見せてこい。いいな?」
「分かった、任せてくれ」
アサヒはシュラの返事を聞いてから先に部屋を出ると、センリは一度頭を下げ、ナツメを見ることなくアサヒの後ろをついていき部屋を出た。
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