星流国の狐族〜池に落ちたら、妖怪しかいない異世界にワープした!?〜

みるくくらうん

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中位隊長・センリ④

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 アサヒは自室の座布団で胡座をかきながらセンリを見る。


「……ニンゲン?」


 アサヒから全貌を聞いたセンリは、珍しく動揺した様子で俯いていた。
 センリは感情の起伏が基本的にはあまりないが、真面目で、能力も高く頭の切れる優秀な狐。そんなセンリでも、流石にナツメの話にが平常心を保つことが出来ない様子だったため、アサヒはとりあえずセンリの頭の中が落ち着くのを待ってから口を開いた。


「……そーだ。妖力は無いが、アイツは特殊な力を使って俺を救い、サイカの予言通りこの土地も救った。そしてナツメは、その力の反動でしばらく目を覚さなかった。この世界のことをよくも知らず、出会ったばかりの九尾隊の為に命を賭けたんだ」


 アサヒは袖に手を入れながら真顔でそう言うと、センリは顔を上げて真っ直ぐにアサヒを見た。


「だから箝口令を出したのですね。こんなことを公言すれば、ナツメ様を求めて戦争を起こす隊が出てこないとは言い切れない」

「そうだ。……ニンゲンは怪我を妖力で治すことが出来ない。だから血もすぐに止まらなかった」


 アサヒの命の恩人に爪を向け、さらには怪我を負わせてしまったことを激しく後悔したセンリは、少し冷や汗を垂らしながら瞳を震わせた。


「なんてことをしてしまったんでしょうね、私は……」


 ナツメはあの状況でも言いつけを守り真実を言わず耐え、弱々しいゲンコツ一発で済ませたことを思い出すセンリ。
 人間は妖怪よりも体が弱く怪我をしやすい。後悔しても遅いと目を細め自責の念に駆られるセンリに、アサヒは慰めるように口を開いた。


「アイツは自分の命を顧みないで俺を助け、得もねぇのに瘴気を全部吸っちまったアホだ。そんなアホだから、お前のことも怒っちゃいねぇよ。
それに俺も悪かった。いくらナツメが心配でも、お前にはすぐ話すべきだったな」

「…………いえ、こうして話して頂けただけでも嬉しく思います」


 センリは目を細め、頭を下げた。
 長く中位隊長を務める自分よりも、出会ったばかりの流浪の狐を庇うのかと最初は憤りが無かったと言えば嘘になる。しかし、事情を知ってしまった今、これからはナツメを守らねばという気持ちになり、センリは素早く立ち上がった。


「謝罪をしに行かせてください」


 センリは真っ直ぐにアサヒを見る。


「……ついて来い。今頃自分の部屋にいるだろ」


 アサヒはそう言って立ち上がると扉を開ける。センリはその後ろを歩きながら、先程の出来事を思い出し口を開いた。


「……ナツメ様は怪我したことよりも、血で隊服が汚れることの方がよっぽど嫌そうでした。変わってる方ですね」

「あぁ。アイツは自分より他人の心配をするたちだ。心配になるぐらいにな」


 アサヒはナツメの部屋の前に立つと、口を開く。


「ナツメ、いるか」


 障子の向こうに人影が二つあることに気づいたナツメ。長髪のアサヒの影と、肩ほどまである髪の毛のシルエットはセンリだと理解したナツメは、慌ててお面を手に取って装着し口を開いた。


「どーぞ」


 部屋から聞こえるナツメの声に、センリは少し緊張した表情を浮かべた。
 アサヒはゆっくり扉を開けると、学ランに着替えていたナツメがお面をつけ出迎える。


「どしたの?」


 二人を見たナツメは、何事もなかったかのように首を傾げる。エンジュに手当てしてもらったであろう耳は、血は止まり白い布に覆われていた。


「お前その格好」


 初めて見た時に着ていた姿を見たアサヒは、目を見開き指をさす。まさかこの怪我がきっかけで妖怪と暮らすことに嫌気がさしたのかと勘繰ったアサヒは、思わずナツメに詰め寄った。


「おい、まさか元の世界に帰るとか言い出すんじゃねぇだろうな!?」


 アサヒは顔を歪めナツメの肩を掴み激しく揺らすと、ナツメは目を見開きアサヒの髪を掴んで引っ張る。


「はぁ!?ちげぇーって馬鹿!!俺、隊服と寝間着とこの学ランしかないんだよ。隊服は血ついてるから、米の研ぎ汁もらってつけおきしてんだ」


 ナツメはそう言ってアサヒの眉間を指で弾くと、アサヒは落ち着きを取り戻し真顔に戻って眉間を抑えながら口を開いた。


「んだよ、替えの服がないならもっと早く言え。既に用意してもらってるのかと思ってたじゃねーか。
なら、ちょっと待ってろ。すぐ持ってくるから、そんな意味わかんない服でうろちょろすんなよ馬鹿」


 アサヒは念を押すようにナツメの胸元に指を突き立ててそう言うと、ナツメは「学ランがそんなにおかしいかよ」と小さく呟き不服ながらも頷いた。


「それと、センリには全部お前の事話したからな。お前に話があるらしいから聞いてやれ」


 アサヒはそう言い残して、一度その場を去る。


「「……」」


 残された二人は少し気まずい雰囲気だったが、ナツメが座布団を用意してセンリの近くに置いた。


「とりあえず座れば?」


 ナツメは座椅子を動かしてセンリの前に座ると、センリは綺麗な背筋で座布団に正座をし真っ直ぐとナツメを見つめた。
 “ニンゲン”が持つ独特の不思議な雰囲気は、妖怪のそれとは違う。お面でなんとか妖力のが出来ているが、やはり空気感は誤魔化せない。この謎の感覚がセンリを不安にさせていたが、ナツメがニンゲンだからという理由が判明した今、センリから不信感が消え失せている。
 
 やがて、センリは意を決したように口を開いた。



「申し訳ありませんナツメ様」


 センリはしっかりとした声色で謝罪をすると、ナツメの怪我をした耳を見てから土下座をする。


「え!?」


 ナツメは突然のセンリの謝罪に、素っ頓狂な声をあげた。


「なんだよ急に!さっきのことなら気にしてねーから土下座なんてやめろっ!」


 ナツメはとりあえず前のめりになってセンリの肩を掴むと、慌てて頭を上げさせた。
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