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中位隊長・センリ②
しおりを挟む「何にせよ、思慮深いクレナイ様がナツメ様にご立派な隊服を用意している。そして上位以上の者だけが許される羽織りを持っているとも聞きました。羽織を渡される事は大変名誉なこと。貴方が認められ信頼されたという意味を持ちます。」
センリがそう言うと、ナツメは黙って話を聞く。
「しかし私は、心からの信頼は出来ません」
センリの突き放すような言い方と冷ややかな声色に、ナツメはお面の下で目を細めた。
「分かった」
そもそもセンリは間違ったことは言っていない。一朝一夕で信頼を得ることは難しいと理解しているナツメは、素直に首を縦に振った。
今すぐにでも全てを説明出来れば、と悔しそうに顔を歪めるシュラとサイカは、互いに目を見合わせてからナツメを見る。
「失礼ですが、私にさえお面の下を見せることは難しいのでしょうか。瞳を隠す理由は何です?
それか能力の一つでもお見せいただければ納得はいきます。上位になれるのは様々な条件があり、圧倒的強さ、個体の持つ特殊な才能。どれかが無ければ上位にはなれない。しかしナツメ様からは妖怪としての強さを感じられない」
センリはナツメを見つめ問いかけると、ナツメは腕につけた数珠に一瞬目を向ける。おそらく念じれば、センリを魂縛呪で動けないようにすることは出来るかもしれない。
しかし、ナツメは首を横に振る。
「そうしたいのは山々だけど……アサヒに緊急時以外はダメって言われてんだよ」
ナツメがそう答えると、何か琴線に触れたのか、センリの表情が突然怒りの表情に一変し、爪を長く伸ばしてナツメに飛びかかった。
「!?」
「貴様如きがアサヒ様を呼び捨てにしないで頂きたい」
センリは人が変わったように酷く冷たい声でそう言うと、伸ばした爪をナツメに振り翳す。
「!?」
反射的にそれを避けようとしたナツメだが、間に合わずセンリの爪が左耳を掠めた。
耳輪が裂けたナツメは、耳を手で押さえながら驚きの表情を浮かべる。
「オイテメェ、センリ!!!」
激昂したシュラは牙を剥き出しにしてセンリに飛びかかると、センリは床にうつ伏せで押し付けられた状態で特に抵抗せず、血を流すナツメをただ睨み続ける。
「ナツメ殿、血が……!」
サイカは慌ててナツメに駆け寄り様子を伺うと、ナツメは驚きつつもやがて笑みを見せ、「へーきだ」と小さく笑った。
そしてナツメは怪我をした耳を押さえながらセンリに向かって口を開く。
「おいセンリ!てめっ、クレナイが折角作った隊服が血で汚れちゃうじゃねーかよ!こんなくだらない汚し方させんな……!」
自分に対して攻撃をしたことではなく、あくまでクレナイが自分のために作った服が汚れる事を懸念したナツメの発言に、センリは眉を顰める。
「このような状況でも、お力は使わないのですね。私が“緊急時”を作ったというのに(何故あの程度の血を止めることが出来ない……?)」
未だに耳を押さえるナツメの手からは血が垂れており、センリはその不可解さに目を細め怪しむように見つめた。
そもそも上位であれば、自分の攻撃など簡単に避けたはず。それをしないのか、あるいは出来ないのか、センリのナツメに対する不信感はさらに募った。
ナツメはぴょんっと立ち上がり、センリに向かって口を開く。
「お前がオレを気に食わないのは分かってるし、それをどうこう言うつもりもねぇ。で、オレがアサヒって呼ぶのが相当ムカツいたんだったら、お前の前では様を付けてやる。だから急に襲ったりすんな!命がいくつあっても足りねぇっての」
ナツメは堂々とした態度でそう言うと、センリの頭に軽くゲンコツをして「仕返しだ!」と怒鳴り鼻を鳴らした。
センリは特に痛がる様子もなく、納得いかないと言いたげな表情を浮かべる。
「あー、痛ぇ……」
ナツメは耳がズキズキと痛むのを堪え、隊服がそれ以上汚れないように、袖から手を抜いて替えのきく白単を出すように脱いだ。
シュラは眉を顰め、申し訳無さそうな表情を浮かべながら口を開く。
「悪いナツメ。コイツ、俺と同じでアサヒ様に拾われてんだ。普段はボーッとしたやつだが、アサヒ様の事になると途端にこうなることがある。……俺の説明不足だな」
シュラはセンリの頭を引っ叩く。
「いいって、お前は悪くねぇよ。オレも迂闊だったというか……それに、オレがみんなを騙してるって可能性を考えてるんだろ。オレはアサヒにしつこくして入隊した身からな」
ナツメは納得いかない設定に嫌々ながらも話を合わせ、軽く溜息を吐く。
「あ、ごめん。アサヒ様、か」
慣れないなー、と文句を言いながら耳を押さえるナツメ。
「おいセンリ、確かに俺達はお前に情報を出してないから仕方ねぇけどな……コイツはお前が思うような危険な奴じゃねぇよ。見ろこの無害そうなちんちくりんを」
シュラはセンリの頭を思い切り引っ叩くと、床に押さえつけるのをやめて無理矢理体を起こし目を見て話す。
「……だから怖いんですよ。一体ナツメ様の何が貴方達をそうさせるのですか。そこまで庇う理由が分かりません。
それに、シュラ様がこちらにやってきた時も、私は同じことをしたではありませんか」
センリは真顔でそう答えると、シュラは大きく溜息を吐きながら立ち上がる。
センリもゆらりと立ち上がって、真顔でシュラを見つめた。
「俺は良いんだよ強ェから。でもコイツは弱ェからダメだ。見ろ、爪掠めただけでこのザマだぞ」
シュラは腕を組み反論すると、ナツメの怪我を指差しセンリを睨みつける。
「言ってる意味が分かりません。弱いなら上位にいる意味がないですけど。正直言って下位以下です」
センリは思ったままを口にする。
「(当たり前だろ妖怪じゃねーもん)」
ナツメは不服そうに下唇を噛んでむーっと拗ねたように唇を尖らせる。
「アァ!?よ、弱ェけどな、やるときゃやるんだよ。ダイダラボッチの時はコイツがいて助かったんだ!」
シュラは血管を浮き上がらせながらセンリを怒鳴るも、当の本人は真顔のままだった。
サイカはセンリにゆっくり近付き見上げる。
「センリ。ナツメ殿は……とても強い代わりに、代償として傷を上手く治せないのじゃ」
サイカは俯き加減で小さくそう呟く。
兄よりもその場を凌ぐのが上手いな、とナツメは感心していた。
「……」
センリはナツメを見て、未だに血が止まらない姿を見て目を細める。
「今はナツメ殿のために、それしか言えないのじゃ。アサヒ様はセンリを信頼していない訳ではない。ナツメの具合が戻って落ち着けばきちんとお前にも事情を話すと言っておったぞ」
センリはピクッと耳を動かし、四本の尻尾を小さく揺らしながらしばらく俯く。
「その程度の血を止められないというのが、強さ故の枷と言うのであれば一旦は信じますが」
センリは顔を顰め、謝罪をすることなく訝しげにナツメを見ている。
「あーうん、そういう体質だと思ってくれ。あんまり力を使うと具合悪くなんの(本当のことだけどな)」
ナツメは“人間だから”とは言えないためサイカの話に合わせる。
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