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中位隊長・センリ
しおりを挟む「一応お前は、元々どこの隊にも所属していなかった流浪の無名妖狐ってことになってるぜ。たまたま翡翠山に現れて、ダイダラボッチを倒すのに一役買い、怪我を療養するために九尾御殿に留まってたって言う設定だ。
そんで、アサヒ様のお役に立ちたいとしつこく言って上位として入隊したって流れだから、話合わせろよな」
シュラは淡々とナツメの設定を説明するが、ナツメは納得いかない表情を浮かべる。
「いや、途中まではいいけど、最後の何だよ……オレがめちゃくちゃアサヒのために入隊した、みたいなことになってんじゃんか」
「知るかよ、アサヒ様が考えた設定だ。ついでに俺様に憧れたっつーのも広めておくかァ?」
シュラがニヤッと意地の悪い笑みを浮かべると、ナツメはシュラの背中を軽く蹴る。
「ハッ!?貴様ァ!誰の背中蹴ってやがる!」
シュラはナツメの胸ぐらを掴み顔を引き攣らせながら怒鳴るも、ナツメは顔を横に向けて知らん顔をした。
「オレとお前は同じ上位だろ?対等じゃねーかバァァカ」
お面を少しずらして舌を出すナツメ。サイカは「喧嘩が始まるのじゃ……」と呟いて困り顔でその様子を見ていた。
「シュラ様、何事です」
すると、騒ぎを聞きつけたのか、ナツメの背後から落ち着いた声でシュラに話しかける者が近付いてきたため、二人はピタッと動きが止まる。その声に付随し、自身の背に突き刺すような視線を浴びたナツメは、ずれたお面を直しながら控えめに振り返った。
薄紫色のセミロングヘアーで、瞳は深い紫色で切長の一重が涼しげな印象。表情を一切崩さない物静かそうな妖狐がナツメの前に立つ。
背はナツメより遥かに高く、ナツメはその妖狐を見上げて呆けた表情を浮かべた。
「(す、すげぇ美少年って感じの妖狐……)」
ナツメは体ごとセンリの方へ向けて見上げ続ける。
「おぉセンリ、丁度いいじゃねぇか。お前にナツメを紹介しに来た」
シュラの言葉に、センリは表情崩さず「そうですか」と呟いてナツメをじっと見下ろす。センリの表情が変わらないため、感情が読み取りづらいナツメは首を傾げながらも「よろしくなー」と手をひらひらさせた。
センリは特に何も言わず小さく一礼して口を開く。
「ここでは何ですから、部屋へどうぞ」
「(わークール系キャラだ)」
一同はセンリの部屋に通され、座布団に座る。
「皆様、ダイダラボッチの討伐お疲れ様でした」
センリはまず、正座をして礼儀正しく深々と頭を下げ労いを見せた。
「あぁ。お前こそご苦労だったな。上位以上がいない間、ずっとここを守ってくれただろ。聞いたぜ?俺らの留守を狙って、悪名高い鳥族“黒翼隊”の集団が飛んできたのを、ほぼお前で片付けたってな」
シュラは片膝を立てながら座りセンリを労い、顔を上げたセンリは表情一つ崩さず口を開いた。
「あれは偵察レベルの下位の集団です。私一人で十分だっただけのこと」
「相変わらず自信のねーやつだな」
「センリは頼れる中位隊長なのじゃ!」
サイカがにこーっと笑みを浮かべても、センリの表情はびくともしない。
「勿体無いお言葉です」
「で、こいつが最近上位として隊に入ったナツメだ。訳あって面は外せねぇけど、このナリを覚えておけ」
シュラが端に座るナツメを指差すと、センリはナツメを再びじっと見つめる。
「承知しました。しかしながら、噂が噂を呼び、ナツメ様について不信感を抱く狐もいるようですが」
センリはシュラの目を見てそう告げると、シュラは軽く溜息を吐く。
「なんか悪ぃ噂でも流れてんのか?」
シュラはじとっとした目でセンリを見、ナツメはお面の下で動揺した表情を浮かべた。
「ナツメ様は突如上位として入隊した謎多き狐です。無論、圧倒的力があるということが分かれば問題ありませんが、ナツメ様は流浪の妖狐。下の者達がナツメ様の能力を知らないため、実は何処かの隊の諜報員では?と疑う者もいる始末です」
センリの報告に、シュラは眉を顰めた。
「アサヒ様が認めてるのに疑うつもりか?」
シュラはそう言ってセンリを睨む。
「いえ、アサヒ様を疑う狐はこの御殿にいませんよ。ですがナツメ様が信頼に値するかは別です。私たちは貴方を知りませんから」
センリはナツメを見ながら淡々とそう述べる。鋭く、疑いを向けるような痛い視線。気圧されそうになるナツメだが、ある事に気付く。
センリは、ナツメが九尾隊を危険に晒す敵ではないのかを本気で見極めており、それはつまり、心から九尾隊を守りたいと思う気持ちから来ている行動だった。
「……まあ、真っ当な意見だよな。オレもそー思う」
ナツメはキョトン顔でそう言うと、サイカが慌てて口を開く。
「ナツメ殿は悪い子ではないのじゃ!」
「ですがどの方も、ナツメ様が何をしたかは言いません。素性を知る者もいない。だから下の者は、ナツメ様を急に慕い敬う事は難しいのです」
センリの返しに、サイカは瞳を震わせ口籠る。ナツメの情報を無闇に話すことができないため、どんな活躍をしたか言いたくても言えず、サイカは悔しそうに自身の隊服である御引直衣をぎゅっと握った。
「チッ……」
シュラは舌打ちをし苛ついた表情を浮かべる。
「二人とも、そんな顔すんなって。仕方ねーことだろ。特にシュラ、お前がセンリの立場だったら俺を信用したか?」
ナツメは胡座をかいて鼻で笑いながらシュラに視線を向けると、シュラは気まずそうに表情を歪める。
「しねぇな。お前みたいな態度のデケェ弱そうな奴」
「わっちはナツメ殿をきっと気にいるのじゃあ~」
「サイカは本当いい子だなぁ。お前ら本当に兄妹なのか?似てねーよなぁ」
「テメェ!」
上位のやり取りをじっと見ていたセンリは、ナツメが着ている隊服に目を向けると、やがて小さく口を開く。
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