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溺愛の兆し①
しおりを挟む「お、オレも?」
ナツメは自身を指差し狼狽えると、アサヒはナツメをヒョイっと片手で抱えカゲロウを見て舌を出す。
「わっ」
ナツメはバランスを取るために、アサヒの首に腕を回した。
「コイツは街で散々食ってきたから腹減ってねぇよ」
アサヒはそう言ってカゲロウをじとっとした目で見ると、カゲロウは不満げな表情を浮かべる。
「えーナツメ、それなら一緒に寝るのはどう?」
「へ!?」
カゲロウの提案にナツメは顔を赤くし、アサヒは苛ついた表情を浮かべナツメを抱えながらカゲロウの胸ぐらを掴んだ。
「おいコラ、カゲロウ……いい加減にこいつにちょっかいかけようとするのはやめろよ」
「結婚してないならいいじゃん」
再び結婚というワードが出たため、ナツメは首を傾げる。
「なぁ、さっきから結婚結婚って、オレ男だよ?」
ナツメがカゲロウにそう言うと、カゲロウは笑みを浮かべたまま首を傾げた。
「ん?知ってるよ?」
「えっ?」
狼狽えるナツメ。
「ん?」
不思議そうに目を丸くするカゲロウ。
「男同士で結婚ってできんの?」
ナツメがそう問いかけると、一同はしばらく沈黙し静寂が流れたため、ナツメは目を見開きアサヒを見上げた。
アサヒは少し顔を赤らめ舌打ちすると、ナツメを抱えたままその場を後にする。
「あー、ナツメまって……」
カゲロウがナツメを諦めきれず手を伸ばそうとすると、シキがそれを静止した。
「ごめんね、カゲロウ。ナツメは諦めてよ。アサヒが大事にしている子なんだ」
「……ちぇ」
カゲロウは背丈に似合わぬ幼い表情で頬を膨らませると、ヨルがやれやれと言いたげに溜め息を吐く。
「お前が他人に興味持つなんて驚きだが、相手が悪かったな。狐族は一度愛してしまうと手強いぞ」
「それは狼だって一緒でしょ」
カゲロウはそう言って笑みを浮かべると、客室へと歩いていく。
「ったく、傷付くのはお前なんだからな。シキ様、お言葉に甘えて寛がせてもらいますね」
「うん。朝もうちの者に起こさせるし、ゆっくりしていってね」
ヨルはカゲロウの背中を追いかけながら、頭を掻きシキに挨拶をしてその場を離れた。
-------------------------------
アサヒの部屋に連れてこられたナツメ。
アサヒはナツメを床にちょこんと下ろすと口を開く。
「お前のいた世界では、男同士は結婚はできないのか?」
「世界というか……オレのいた国ではできないよ。妖怪はできんの?」
「当たり前だ。結婚は呪いにも近い縛りの契約とも言われている強い契り。だから妖怪は簡単に結婚はしない」
アサヒはそう言って座布団の上に胡座をかくと、その上にナツメを横向きに座らせ仮面を取って素顔を見つめた。
「のろい?結婚が?」
ナツメは目を丸くしながらアサヒをみあげる。
「……あぁ。一度契ると、相手が死ぬまでその契約は続く。途中で契約の反故はできない。だが、契約をすることで相手がどこにいるのかがすぐに分かるようになったり、色々と出来るようにはなる」
「反故ができないって、離婚はできないってこと?」
「リコン、という単語は知らねーけど、一度した結婚は取り消せねぇってことだ。相手が死ぬまでな」
「へぇ、こっちの世界の結婚って随分と重いんだな……失敗できねぇってことじゃん」
「あぁ。だから結婚の契約をする妖怪はあまり多くない」
アサヒはそう言ってナツメをじっと見つめる。
「……な、なに?」
ナツメはアサヒに見つめられて少し恥ずかしくなったのか、目を逸らして顔を赤らめる。
「カゲロウが気になるか?」
アサヒはそう言ってナツメの額を指で弾いた。
「っ!?気になってねーしっ!ばかじゃねーの……」
「…………」
アサヒは真剣な表情でナツメを見下ろし、何も言わず抱き締める。
「……お前を結婚で縛れたらどれだけいいか」
「へ……」
アサヒはナツメの頬に唇を滑らせ、愛おしそうにナツメの頭を撫でる。突然の甘い感触に狼狽えるナツメに、アサヒは目を細め耳元で口を開いた。
「結婚は、血と妖力を使ってする契約なんだ」
アサヒの言葉を聞いたナツメは、一瞬で理解し目を見開く。
「……じゃあ、妖力がないオレは」
「……そういうことだ。お前は誰とも結婚できねぇ」
アサヒは真剣な眼差しでナツメを見下ろすと、唇を触り髪の匂いを嗅ぐ。
ナツメは少し動揺しながら目を泳がせた。
「(そっか、オレ、アサヒと結婚は絶対できないんだ…………って、何考えてんだよオレっ)」
ナツメは咄嗟にその考えに至ったことに気付くと顔を赤らめる。
「だが、それはそれで好都合だな」
「え?」
「誰もお前を縛れないってことだ。お前はとろくせーアホだから、騙されて結婚させられるかもしれねぇだろ?その心配が無いのは俺としても安心だ」
アサヒがそう言って意地悪そうに笑うと、ナツメはアサヒの頭にチョップを食らわし眉を顰めた。
「オレをどんだけアホだと思ってんだよ!!!」
「アホだろ」
「っ、なんだよばかっ、!」
ナツメはプイッと顔を背け、しばらくすると俯き加減で小さな声を出す。
「……お、オレは、おまえとなら、したかった……」
ナツメの言葉に、アサヒは大きく心臓を高鳴らせ、全身の血液が沸騰するかのように気持ちが昂り顔を赤くした。
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