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九尾御殿
しおりを挟む「うああぁー!!!オレの部屋ぁー!!!」
完全復活したナツメは、初めて自分の部屋に入って目を輝かせ、嬉しそうな声を上げた。
アサヒの部屋と比べれば狭く風呂場がある訳ではないが、簡易的な洗面台もあり、部屋が分かれており物も全て揃っているため、快適に暮らすには十分だった。
「あははっ、ナツメ殿がはしゃいでおる!」
「だってさぁー、箪笥とか、このかわいい提灯とか、机とか、全部いい感じじゃん。思ったんだけど、この世界って想像より暮らしやすいよなぁ……」
ナツメは嬉しそうに家具を見て回る。
「れとろ?良くわからん言葉じゃの。この部屋はな、ぜーぇんぶ兄上がナツメ殿に合いそうな物を調達して作ったのじゃ。喜んでくれてよかったのお兄上」
サイカの発言に、シュラは特に笑みを見せず涼しい顔でナツメを見る。
「ふん、文句言われちゃ溜まったもんじゃねーからな。そこは真剣にやらせてもらったぜ」
「へー、お前のセンスかー。意外だな」
ナツメはポカンと口を開けたあと、ニッと歯を見せ笑う。
「ありがとうな!」
ナツメが素直に感謝を示すと、シュラは目を逸らし鼻を鳴らす。
「ふん。とりあえず何か困ったら俺様とサイカがこの階にいるから聞け。
いいかァ?あまりアサヒ様に迷惑かけんじゃねーぞ。土地を治める隊の首領ってのは、どこも忙しいんだ。特にうちの隊は上位層が薄いから四天王も大忙し。俺らがしっかりしねぇとダメだぞ」
今日はシュラとサイカ以外の上位はおらず、今九尾御殿にいる妖狐の中でナツメが知っているのはこの二人だけ。
ナツメはまだ九尾御殿の全貌を知らず、また九尾隊の他のメンバーにも顔合わせをしていなかった。
「わ、分かってる、俺も色々勉強する。アサヒがさ、上位の誰かが一緒だったら好きに動いていいって。お前暇だろ?色々案内しろよ」
「暇だけどその言い方腹立つぜ」
シュラは顔を顰めている間、ナツメはあるお面を取り出す。
「んで、基本的にうろうろするときはこれを付けてろって言われた。狐の半分お面。俺の目の色、珍しくて目立つからって」
ナツメは、狐の目から上が象られた白いお面を手に取り、それを装着して見せた。そのお面は目に穴が空いていないにも関わらず視界が良好で、付けたままで行動するのに支障は無い。
ナツメの夜明け前の澄んだ藍色の瞳はこの世界では珍しいらしく、興味を持つ妖怪を減らすためという意味も込められたそのお面は、うっすらと純粋な妖力が込められていた。
「妖狐の面か。目を隠せるのもそうだが、妖力の無ェお前が怪しまれねーように、アサヒ様が時間をかけて翡翠山の妖力を込めたんだろうな」
「そんな事もできんのか?」
首を傾げるナツメに、サイカは笑顔で口を開き間に割って入る。
「妖怪にも色々おってな、上手く人型に化られない者が不完全な顔を隠すために使ったり、弱い子供に面を持たせる親もおるのじゃぞ。
種類も色々あって、魔除けの効果を発揮したりする物もあるのじゃ」
サイカは得意げに説明を終えると、次はシュラが深刻そうに口を開く。
「……アサヒ様から聞いたかもしれねーけど、お前は“ニンゲン”ってだけで目立つし、基本は弱ェーから、周りにバレない方がいい。お前を利用して悪いことを企む奴がいたら厄介だしな。妖狐の面は持ってるだけで効果はあるが、お前はあんま顔を広めない方がいいし、顔に付けておいた方がいい」
ナツメはシュラの言葉に息を飲む。
アサヒからも、単独で行動したり無闇に“魂縛呪”を使うなと言われた。瘴気が見えたらまず上位に伝えるようにも言われており、ナツメは慎重に動かなければならない。
九尾隊の中では、中位以下はナツメの存在を聞かされてはいるが、“ニンゲン”という情報や能力は伏せられており、新しく入った上位の妖狐ということになっていた。
「だけどいつまでも引き籠らせるのも可哀想だから、アサヒ様がテメェを気遣って最大限に努力してくれてる。いいか、くれぐれも言うことを聞けよ」
シュラは脅すようにナツメに指をさして念をおすと、ナツメはコクリと頷いた。
「分かった。気を付けるから、色々教えてくれ」
「ま、とりあえず九尾御殿を案内してやるよ」
~大浴場~
「ここが上位専用の風呂場だ。上位だけが使っていい所だから、使う時は面は外してもいいぞ」
「広っ」
日本の古き良き銭湯のような雰囲気の大浴場。思ったよりも広かったため、ナツメは驚いた表情を浮かべた。
「この階は他にも、客間や外から来た妖怪をもてなす宴会場も備えてる。そういう時は、お前はアサヒ様の部屋の風呂を使え」
「おう」
ナツメは真剣な表情で頷く。本気で九尾隊に迷惑をかけないようにしたいという気持ちが前面に出ており、シュラはその気持ちに応えるようにナツメに案内を続けていった。
「で、ここから下の階は普段は行くことのない場所だ。まず中層階は、九尾隊の”中位“が生活する場所でもある。お前には中位を取り仕切る中位隊長”センリ“を紹介するから、ついてこい」
シュラはスタスタと階段を降りて行き、ナツメはサイカと手を繋ぎながらその後ろを付いていく。
「分かった。てかオレってどんな設定になってんの?お前らは事情を知ってるからまだしも、他の奴らって急に現れたオレのこと警戒すんじゃねぇのかー?」
ナツメは不安げに首を傾げながら中層階に足を踏み入れいた。
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