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親愛の額合わせ③
しおりを挟む「悪い……言いすぎた。泣かせるつもりはなかった。お前が一番辛いっつーのに……俺が泣かせてどうするんだよ」
アサヒは宝物に触れるようにナツメの背中を優しく撫でて抱き締めると、後悔した表情を浮かべ溜息を吐く。
自分のことを全く意に介さないナツメの姿がどうしても放っておけず、つい感情的になってしまったと反省をした。
「そもそも、“回復するため”、なんてただの方便だ。お前に触れたいだけなのに」
アサヒはそう言って耳を少し前に倒し、素直じゃなかった自分に対して眉を顰め許しを乞うようにナツメの首に顔を埋める。
ナツメはアサヒを小さく抱き締め返すと、ぐすっと鼻を啜り首を横に振った。
「ごめん、オレ、分かってたのに、変な風に捉えちゃってお前に失礼なこと言った。自分のことも儘ならないのに、お前のことばっか余計な心配してっ……」
ナツメは赤くなった目でアサヒを見つめ、涙声で辿々しく返す。ぽろぽろと宝石のように溢れる涙が、アサヒのナツメに対する愛執を大きくさせ、酷く切ない気持ちを生み出した。
アサヒは自責の念に駆られつつ、ナツメを愛おしそうに見つめる。
「おい、ナツメ」
アサヒは優しく名前を呼んでナツメの額をすりすりと長い指でさすった後、とんとんと優しく叩く。
「俺はこれまでお前に、何度も額を重ねてきた。それが俺の気持ちだ。今更難しいこと考えるな。俺はお前を好いている」
アサヒは同情でナツメを抱いたわけじゃない。ナツメはアサヒの真意をようやく理解し、ぎゅっと目を瞑った。
眠り続ける自分を救うために必死になるアサヒの姿を、ナツメは見えずとも感じ、聞き取っていた。
自分を初めて抱く時の宝物のように触れるアサヒの優しい手や、眠る自分に低く甘い声をかけながら体に触れていく気遣い、そして愛おしそうにキスをする唇の温度を思い出すナツメ。
「…………っ」
ナツメはさらに熱のある涙を流し、堪らなくなって思い切りアサヒを抱き締めた。
アサヒは優しくナツメを抱き締め返すと、涙をぺろぺろと舐めとって頬にキスをし、目を合わせ口を開く。
「俺はお前に惚れてるから、お前に触れたい。苦しんでいたら助けたいし、妖力関係無しに抱きたいとも思う。
だから、もう可哀想なんてこれっぽっちも思うんじゃねーぞ。あの晩、俺はお前を心から求めていたことを思い出せ」
アサヒは、ナツメの胸の辺りからヘソの下辺りまでを優しく二本指でなぞる。
何度もナツメを呼び求め、中に欲望を吐き出していくアサヒの姿を思い出すナツメは、顔を赤らめ体に熱を持ちながらコクリと頷いた。
そのしおらしさを愛おしく思い、アサヒはナツメの耳たぶを優しく噛んでから耳元に唇を寄せる。
「ちゃんと分かったか?」
耳元で囁かれ、ビクッと体を震わせるナツメは、そのまま素直に返事をする。
「うん……もうあんなこと言わない」
素直に謝罪をし俯きがちで自分を見るナツメに、アサヒがさらに口を開いた。
「なら今日も朝までさせろよ。俺がどれだけお前を欲してるか、身体で分からせてやる」
「はっ……あ、いや、や、やだよばか!」
一瞬流れで了承しそうになったナツメだが、アサヒが言った内容をもう一度脳内で反復させると、目が覚めたように必死に拒否するナツメ。
チッと舌打ちをしたアサヒは、ダメかと呟き唇を尖らせた。
「お前な、どさくさ紛れに変な要求するんじゃねー!この絶倫馬鹿狐が!」
ナツメはいつもの調子でアサヒの髪を強く引っ張り文句を言う。
いつの間にか涙は乾いており、先ほどまで涙を流していたとは思えないほどいつもの調子でアサヒに悪態を吐いた。
「ぜっ……てめ、俺がたくさん出来なきゃ困るくせに何抜かしやがる!」
「はぁ!?だからって失神するまでやるか普通!俺のこと好きって言うなら、もうちょっと優しくしろよなぁ!」
「お前だって喜んでたじゃねーかよ!中に出す度あんな嬉しそうな顔しやがって。蕩けた顔であんあん喘いで、そんなに中に出されて気持ちいいのか?あ?」
「はっ、はぁ!?そんな顔したかよオレ!別に全然気持ちよくねぇし!」
ナツメは恥ずかしさに震えながらアサヒを睨み付ける。
「お前よくそんな嘘つけるな。中に出されて何回射精したんだよ」
「しゃっ……しゃせいとかゆうな!アサヒのばか!あほ!」
二人はしばらくいつものように喧嘩を始めていると、アサヒの部屋の扉を叩く音が聞こえたためピタッと言い合いを止める二人。
「アサヒ、ボクだよー!」
扉の外にいたエンジュは、いつもの呆けたようなふわっとした声を発する。
「ああ、入れ」
エンジュは了承を得るとアサヒの部屋に大荷物を抱えて入室する。入るとすぐに、アサヒの上に座るナツメを見て嬉しそうに口角を上げた。
「おやおや、仲がいいね~。やっぱ一回愛し合うとより睦まじくな」
エンジュがそう言いかけると、アサヒが妖力を放出しそれ以上言わせないように怒りのオーラを放つ。
エンジュは小さな丸メガネがずるずると下がっていくのを感じながら、「ひっ」と声をあげ恐怖に慄いた。
「……あ、アサヒぃ~、そ、そんな怒らなくてもぉ。ねぇナツメ君」
エンジュは潤んだ目でナツメに助けを求めると、ナツメはアサヒから離れエンジュの元へ行く。
ナツメはエンジュが何やら大きな荷物を抱えていたため、それを中に運ぶのを手伝いながら口を開いた。
「こいつ短気だからな、すぐ怒るんだよ。で、これ何の荷物?重っ」
「あぁ、ありがとうナツメ君、優しいなぁ!これは甘露蜜だよ。近々この地に遊郭を作ることになったから、大量に仕入れておいたんだよねぇ。
あ、偽物が出回ってるから、ちゃんとしたところで買わないとって思って都の信頼できる筋から仕入れたよ」
エンジュが風呂敷を解くと、透明の液体が入った小瓶が大量に姿を現す。
「へ、へぇー。なんでアサヒの部屋に持ってきたの?(アサヒがオレに使ったやつだよな?コレ……)」
「仕入れた分を少しアサヒに分けようと思って持ってきたんだ。気が利くでしょお~!?君たちにはどれだけあっても困らないからね!ねっ!?」
エンジュは蕩けた顔でアサヒとナツメを交互に見て、褒めて欲しそうに笑みを浮かべる。
「別に俺は頼んでねぇぞ色狂い」
アサヒはそっけなく頬杖をつきながら言い放つと、エンジュは目に涙を溜めてその場に崩れるように膝をつく。
「ひどいっ……ボクは君たちの愛の手助けをしようと思ったのにっ……」
「え、エンジュ」
ナツメは困り顔でエンジュを見下ろし、振り返ってアサヒを睨む。
「おいアサヒ泣かすなよなぁ!しかもエンジュってお前より年上だろぉ?ヤな奴だなお前、もっと優しくしてやればいいのに」
「あぁ!?」
アサヒはエンジュを庇うナツメに対し、大口を開けて牙を見せながら狼狽える。
「ナツメ君……本当に優しいね……」
エンジュはナツメを縋るような目で見上げ、細い足に抱きついてさめざめと涙を流した。
「よしよし」
ナツメはまるで犬を可愛がるように、ふわふわとエンジュの癖のある栗色の髪を耳ごと撫でる。それを見たアサヒはむすーっとした顔でそれを睨み付けた。
「エンジュ、分かったからそれ置いてとっとと任務行け。クレナイは待たされると怒るぞ」
エンジュはハッとした顔で立ち上がると、泣き顔から満面の笑みに変わる。
「ああ、そうだそうだ~っ麗しきクレナイちゅわんとの任務だった!じゃあねー!」
エンジュは颯爽と部屋を飛び出してまるで嵐のように去っていくと、ナツメはポカンとした顔で立ち尽くした。
「え、嘘泣き?」
「たりめーだろ、騙されてんじゃねーよ。アイツはタラシだ、ああやって同情を誘うのが得意なんだよ」
「えー……」
「それ、引きずっていいから寝室運べ」
アサヒは甘露蜜を指さす。
「うん」
ナツメは風呂敷を持ってずるずると引き摺りながら寝室に運ぶと、それを枕元に置いた。ナツメは甘い匂いに誘われ、興味本位で小瓶を一つ手に取ると、蓋を開けて指に一滴垂らす。
ぺろっと舌を出し舐めると、「あまっ」と小さく呟いた。
「催淫効果がある。あんま舐めると興奮するぞ、いいのか?」
後ろから声がし、ナツメはビクッと肩を震わせて振り返る。いつの間にか、袖に手を入れながら寝室の扉に背を預けて立つアサヒがいた。
「ちょっとしか舐めてねーし……」
ナツメは慌てて甘露蜜を元の場所に戻そうとすると、アサヒはその手を掴んで後ろから抱き締める。
「で、嘘つきのナツメ。今日は何回、中に出して欲しい?」
色気を含んだアサヒの声色が、突然ナツメの耳に入り込む。全身に熱を帯びた感覚になったナツメは、一気に顔を赤くして体を震わせた。
「あ、アサヒ……」
アサヒはナツメの持っていた甘露蜜を奪うと、きゅぽんっと音を立てて歯で蓋を開ける。その音が聞こえたナツメは目を見開き瞳を小さく震わせた。
そして抵抗する間もなく、アサヒに袴の紐を解かれ押し倒されたのであった。
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