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親愛の額合わせ②
しおりを挟む「機嫌なおったかよ、ヤキモチ狐」
「や、ヤキモチだと!?んなみっともねーこと、この俺がするかよ!」
良い雰囲気になったのも束の間、ナツメの一言で顔を赤くしたアサヒは牙を出しながら顔をひくつかせる。
「お前すぐヤキモチ妬くじゃん。ヒイラギには特に?」
「あぁ!?それはアイツがいちいちしょーもねーこと言うからだろうがッ!」
「うわムキになってる」
ナツメがにたーっと意地悪な笑みを浮かべると、アサヒは苛ついた表情を浮かべナツメを睨み付ける。
「チッ……今宵はお前の身を案じて何もしない予定だったが、やっぱナシだ。後で覚えてろ、ぜってー犯すからな」
アサヒはナツメを睨み付けたまま同じように意地悪な笑みを浮かべ指をさすと、ナツメは先程の余裕な表情からうってかわって、焦った様子で固まる。
みるみると顔を赤くするナツメは、アサヒの髪を引っ張りながらぷるぷると震えた。
「や、やだ!犯すな!」
失神するまでされ続けたことを思い出したナツメは、首をぶんぶんと振って訴える。
「やだじゃねぇ。その生意気な口、喘ぎ声しか出せないようにしてやるな。そもそもお前の為でもあるだろーが!」
アサヒはむにっとナツメの頬を引っ張る。
「そ……だけど」
ナツメは顔を真っ赤にさせたままギュッと目を瞑る。アサヒはナツメが何を考えて拒否するかが分からず首を傾げた。
「……そんなに俺とするのが嫌か。確かに最初は失神するまでやったが、今日はもうちっと優しくするぞ」
アサヒは拗ねた声でナツメを見ずに問いかける。
「ち、ちが、う」
ナツメは小さく首を横に振り、人差し指を文字を書くように畳に擦り付ける。
「じゃあなんだよ」
「…………だって、オレ最初から起きてるんだぞ。恥ずかしいじゃんか!何でお前はそんな余裕そうなんだよ」
ナツメは瞳を震わせながら答え、自分が快楽に溺れ豹変する姿を思い出してぎゅっと自らの服を握る。
アサヒは目を細め、どう答えようかと眉を顰め、やがて口を開く。
「……別に俺は、余裕じゃねーよ。お前に俺の匂いを付けたくてたまらねーんだ、今もな」
アサヒはナツメの顎をそっと持ち、無理矢理目線を合わせて鼻をちょんちょんと撫でた。こんな時に限って素直にものを言うアサヒに、ナツメは困惑した表情を浮かべる。
「(それってマーキングじゃんか……)」
ナツメは自分がどんどんアサヒに染まっていくことを想像すると、ぞくっと体を震わせる。それは本能にも似た感情で、ナツメはアサヒに支配されることにマイナスの感情を持ち合わせなかった。
「……ダメか?」
唇が触れそうな距離まで顔を近付けるアサヒに、ナツメは息を飲む。
「っ……」
「返事しろよナツメ。本当に嫌なら今日はしねーよ。でも完全に“回復するためには必要”なことだ」
アサヒの言葉に、ナツメは何かに気付いたようなハッとした表情を浮かべて少し涙を浮かべる。
罪悪感という感情が一気に込み上げたナツメの表情は切なげで、アサヒの心を揺さぶるには十分すぎる程だった。
「おい、泣くほど嫌なら……」
「違う!オレは、回復したいからって理由でアサヒを利用するみたいなの、やだ」
アサヒの言葉を遮ったナツメは、俯いたまま片手でアサヒの服を掴みぎゅっと強く握る。
ナツメはこの魑魅魍魎の世界で、妖力を持たず生きて行かなかればならない。妖怪よりも非力な人間である自分は、こうやって九尾隊に守られている。だからこそ、また黒妖怪が現れれば自分の力を使って瘴気を吸い、自分もまた九尾隊を守る存在になりたい。
でもそれば同時に、アサヒの体を必要としてしまう。自分が生きるためにアサヒを利用しなければならないということに気付いたナツメは、込み上げる複雑な感情を現した。
「利用?お前、何言ってんだ」
アサヒはナツメの言葉に困惑した表情を浮かべると、ナツメは心に漠然とあった不安を漏らすように口を開いた。
「オレはそもそも、自分の意思でこの世界に来たわけじゃなかった。オレがサクナっていう人と同じ力があるから、黒妖怪を倒させるために誰かがオレを呼び寄せたんだと思う。でも、それはお前がいてこそのことだ」
アサヒは静かにナツメの話を聞く。
「オレはお前がいないと生きられない体だけど……お前は、そうじゃない。これからオレが瘴気を吸い続けて、お前はオレの命を救うためにオレを抱き続けなきゃいけないなんてっ……そんなの、お前がっ」
ナツメはそこまで言いかけて口を噤む。
「俺が何だよ。可哀想とでもいいたいのか」
ナツメは頷きはしないが否定もしなかったため、肯定と捉えたアサヒは顔を顰めながらナツメを睨んだ。狐耳の毛が逆立ち、少し感情が昂っている様子だったため、ナツメ俯いて黙りこくる。
「お前がオレを哀れむのか?じゃあお前はどうなんだナツメ」
アサヒはナツメの顔を持ち無理矢理目を見て怒鳴りつける。
「全く知らない世界に勝手に連れてこられて、お前にとっちゃ関係の無い黒妖怪倒す羽目になって、命の危機に遭ったんだぞ!?
魑魅魍魎しかいない世界で、お前を理解できる同じニンゲンなんておそらくいねぇ。元の世界に帰る術も分からねぇお前は、使命を果たすにも俺という妖怪と番う必要があるんだ。嫌でもな!」
アサヒはナツメの顔から手を離し、真剣な表情で言葉を紡ぐ。
「お前が俺を“可哀想”だと表現するなら、俺からすればお前の方がよっぽど可哀想だナツメ!知らねぇ世界を救うために命を賭ける使命を課せられ、お前にとっちゃ化け物だらけのこの世界で生きていかなきゃならない。お前はもう少し、他の心配じゃなくて自分の置かれた立場に文句を言えよ!」
アサヒはそう言い終えると、ナツメはやがて大粒の涙を流して袖で涙を拭う。悔しいからでも、悲しいからでも、怒っているからでもない。
元いた人間の世界であれば、一人でも生きていけたはずだった。けどこの世界ではそれが出来ない。その情けなさと、特別な存在であるアサヒに一生自分を救わせなければならない事実に、ナツメはただ罪悪感を感じていたのだ。
アサヒはナツメの涙を見ると冷静になったのか、溜息を吐いてナツメを抱き上げ、胡座をかく自分の脚に向かい合わせになるように乗せる。
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