36 / 113
親愛の額合わせ②
しおりを挟む「機嫌なおったかよ、ヤキモチ狐」
「や、ヤキモチだと!?んなみっともねーこと、この俺がするかよ!」
良い雰囲気になったのも束の間、ナツメの一言で顔を赤くしたアサヒは牙を出しながら顔をひくつかせる。
「お前すぐヤキモチ妬くじゃん。ヒイラギには特に?」
「あぁ!?それはアイツがいちいちしょーもねーこと言うからだろうがッ!」
「うわムキになってる」
ナツメがにたーっと意地悪な笑みを浮かべると、アサヒは苛ついた表情を浮かべナツメを睨み付ける。
「チッ……今宵はお前の身を案じて何もしない予定だったが、やっぱナシだ。後で覚えてろ、ぜってー犯すからな」
アサヒはナツメを睨み付けたまま同じように意地悪な笑みを浮かべ指をさすと、ナツメは先程の余裕な表情からうってかわって、焦った様子で固まる。
みるみると顔を赤くするナツメは、アサヒの髪を引っ張りながらぷるぷると震えた。
「や、やだ!犯すな!」
失神するまでされ続けたことを思い出したナツメは、首をぶんぶんと振って訴える。
「やだじゃねぇ。その生意気な口、喘ぎ声しか出せないようにしてやるな。そもそもお前の為でもあるだろーが!」
アサヒはむにっとナツメの頬を引っ張る。
「そ……だけど」
ナツメは顔を真っ赤にさせたままギュッと目を瞑る。アサヒはナツメが何を考えて拒否するかが分からず首を傾げた。
「……そんなに俺とするのが嫌か。確かに最初は失神するまでやったが、今日はもうちっと優しくするぞ」
アサヒは拗ねた声でナツメを見ずに問いかける。
「ち、ちが、う」
ナツメは小さく首を横に振り、人差し指を文字を書くように畳に擦り付ける。
「じゃあなんだよ」
「…………だって、オレ最初から起きてるんだぞ。恥ずかしいじゃんか!何でお前はそんな余裕そうなんだよ」
ナツメは瞳を震わせながら答え、自分が快楽に溺れ豹変する姿を思い出してぎゅっと自らの服を握る。
アサヒは目を細め、どう答えようかと眉を顰め、やがて口を開く。
「……別に俺は、余裕じゃねーよ。お前に俺の匂いを付けたくてたまらねーんだ、今もな」
アサヒはナツメの顎をそっと持ち、無理矢理目線を合わせて鼻をちょんちょんと撫でた。こんな時に限って素直にものを言うアサヒに、ナツメは困惑した表情を浮かべる。
「(それってマーキングじゃんか……)」
ナツメは自分がどんどんアサヒに染まっていくことを想像すると、ぞくっと体を震わせる。それは本能にも似た感情で、ナツメはアサヒに支配されることにマイナスの感情を持ち合わせなかった。
「……ダメか?」
唇が触れそうな距離まで顔を近付けるアサヒに、ナツメは息を飲む。
「っ……」
「返事しろよナツメ。本当に嫌なら今日はしねーよ。でも完全に“回復するためには必要”なことだ」
アサヒの言葉に、ナツメは何かに気付いたようなハッとした表情を浮かべて少し涙を浮かべる。
罪悪感という感情が一気に込み上げたナツメの表情は切なげで、アサヒの心を揺さぶるには十分すぎる程だった。
「おい、泣くほど嫌なら……」
「違う!オレは、回復したいからって理由でアサヒを利用するみたいなの、やだ」
アサヒの言葉を遮ったナツメは、俯いたまま片手でアサヒの服を掴みぎゅっと強く握る。
ナツメはこの魑魅魍魎の世界で、妖力を持たず生きて行かなかればならない。妖怪よりも非力な人間である自分は、こうやって九尾隊に守られている。だからこそ、また黒妖怪が現れれば自分の力を使って瘴気を吸い、自分もまた九尾隊を守る存在になりたい。
でもそれば同時に、アサヒの体を必要としてしまう。自分が生きるためにアサヒを利用しなければならないということに気付いたナツメは、込み上げる複雑な感情を現した。
「利用?お前、何言ってんだ」
アサヒはナツメの言葉に困惑した表情を浮かべると、ナツメは心に漠然とあった不安を漏らすように口を開いた。
「オレはそもそも、自分の意思でこの世界に来たわけじゃなかった。オレがサクナっていう人と同じ力があるから、黒妖怪を倒させるために誰かがオレを呼び寄せたんだと思う。でも、それはお前がいてこそのことだ」
アサヒは静かにナツメの話を聞く。
「オレはお前がいないと生きられない体だけど……お前は、そうじゃない。これからオレが瘴気を吸い続けて、お前はオレの命を救うためにオレを抱き続けなきゃいけないなんてっ……そんなの、お前がっ」
ナツメはそこまで言いかけて口を噤む。
「俺が何だよ。可哀想とでもいいたいのか」
ナツメは頷きはしないが否定もしなかったため、肯定と捉えたアサヒは顔を顰めながらナツメを睨んだ。狐耳の毛が逆立ち、少し感情が昂っている様子だったため、ナツメ俯いて黙りこくる。
「お前がオレを哀れむのか?じゃあお前はどうなんだナツメ」
アサヒはナツメの顔を持ち無理矢理目を見て怒鳴りつける。
「全く知らない世界に勝手に連れてこられて、お前にとっちゃ関係の無い黒妖怪倒す羽目になって、命の危機に遭ったんだぞ!?
魑魅魍魎しかいない世界で、お前を理解できる同じニンゲンなんておそらくいねぇ。元の世界に帰る術も分からねぇお前は、使命を果たすにも俺という妖怪と番う必要があるんだ。嫌でもな!」
アサヒはナツメの顔から手を離し、真剣な表情で言葉を紡ぐ。
「お前が俺を“可哀想”だと表現するなら、俺からすればお前の方がよっぽど可哀想だナツメ!知らねぇ世界を救うために命を賭ける使命を課せられ、お前にとっちゃ化け物だらけのこの世界で生きていかなきゃならない。お前はもう少し、他の心配じゃなくて自分の置かれた立場に文句を言えよ!」
アサヒはそう言い終えると、ナツメはやがて大粒の涙を流して袖で涙を拭う。悔しいからでも、悲しいからでも、怒っているからでもない。
元いた人間の世界であれば、一人でも生きていけたはずだった。けどこの世界ではそれが出来ない。その情けなさと、特別な存在であるアサヒに一生自分を救わせなければならない事実に、ナツメはただ罪悪感を感じていたのだ。
アサヒはナツメの涙を見ると冷静になったのか、溜息を吐いてナツメを抱き上げ、胡座をかく自分の脚に向かい合わせになるように乗せる。
3
お気に入りに追加
790
あなたにおすすめの小説

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

宰相閣下の絢爛たる日常
猫宮乾
BL
クロックストーン王国の若き宰相フェルは、眉目秀麗で卓越した頭脳を持っている――と評判だったが、それは全て努力の結果だった! 完璧主義である僕は、魔術の腕も超一流。ということでそれなりに平穏だったはずが、王道勇者が召喚されたことで、大変な事態に……というファンタジーで、宰相総受け方向です。
転生したら召喚獣になったらしい
獅月 クロ
BL
友人と遊びに行った海にて溺れ死んだ平凡な大学生
彼が目を覚ました先は、" 聖獣 "を従える世界だった。
どうやら俺はその召喚されてパートナーの傍にいる" 召喚獣 "らしい。
自称子育て好きな見た目が怖すぎるフェンリルに溺愛されたり、
召喚師や勇者の一生を見たり、
出逢う妖精や獣人達…。案外、聖獣なのも悪くない?
召喚師や勇者の為に、影で頑張って強くなろうとしてる
" 召喚獣視点 "のストーリー
貴方の役に立ちたくて聖獣達は日々努力をしていた
お気に入り、しおり等ありがとうございます☆
※登場人物はその場の雰囲気で、攻め受けが代わるリバです
苦手な方は飛ばして読んでください!
朔羽ゆきさんに、表紙を描いて頂きました!
本当にありがとうございます
※表紙(イラスト)の著作権は全て朔羽ゆきさんのものです
保存、無断転載、自作発言は控えて下さいm(__)m

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる