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鼻をちょんちょん②
しおりを挟むある昼間のこと。
団欒室でサイカを膝に乗せていたシュラは、サイカの手元をじーっとみながら干し芋を食べていた。
「兄上~!できたのだ~!」
サイカはシュラのためにお揃いのカラフルな糸で編み込んだ腕輪を作っていたらしく、それが出来上がるとシュラに付けてあげていた。
「(ミサンガ的なやつか?この世界にもあるんだ……懐かしい)」
ナツメも同じように干し芋を齧りながらその様子を見つめる。
「……ふん、ちったぁマシなもん作れるじゃねぇか。派手な色合いで俺様好みだな」
相変わらず素直じゃないシュラは、その腕輪を眺めてから満足げに笑うとサイカの鼻をちょんちょんっと撫でた。
サイカは嬉しそうに笑みを浮かべている。
「(あ!鼻ちょんちょんしてる!)」
ナツメはその光景を見て目を見開き、側にいたクレナイに耳打ちをした。
「ねぇークレナイ、あの鼻ちょんちょんって触るの、なんか意味あんの?」
昼間からお酒を飲んでいたクレナイは、ナツメの問いかけにニヤッと口角をあげる。
「アハハッ、狐妖怪の独特の表現さね。“君が可愛らしい“、”愛らしい”って意味だよ。赤子や幼児にもやるし、家族同士でもやるし、もちろん、恋人同士でもやるさね」
「えっ……」
ナツメは驚愕し、顔を赤くしながら干し芋をポロッと落とす。
「アサヒにでもされたのかい?」
クレナイは察したように顔を近付けにんまり顔でナツメに問いかけると、ナツメはぷいっと顔を背け「ちげーもん」と小さく否定をしたが、クレナイはお見通しなようでニマニマと笑みを浮かべながら微笑ましそうにナツメを見つめた。
---------------------------------
その日の夜。
寝室で横になっていたナツメの側に、仕事を終え寝巻きに着替えたアサヒがやってきた。
「まだ起きてたのか」
アサヒは、寝室で本を読むナツメを見て目を見開き、覆い被さるようにしてナツメを見下ろす。お風呂に入ったばかりなのか、アサヒの髪は少ししっとりと濡れていた。
「うん。全然眠くない」
ナツメは本を閉じてアサヒの目をじっと見つめると、アサヒは一度ナツメの唇をぺろっと舐めてからナツメの横に寝て抱きしめる。
あまりにも自然にやって退けるアサヒに、ナツメは少し顔を赤らめ動揺した。
「今日は何してた」
「なんにも?すげー暇。俺もなんか仕事ちょーだいよ。それか外に出してー」
ナツメはアサヒにそう訴えるも、アサヒは何も答えずただナツメを見つめて頬を撫でた。ナツメはアサヒの言いつけで九尾御殿から出ることを禁じられており、意外にもナツメはそれを律儀に守って過ごしている。
エンジュにナツメへの妖怪の世界についての教育もさせているため、アサヒ自身も内心、そろそろナツメを外に出してもいいかと考えていたところだった。
しかしながら、外に出して万が一にでも怪我をしたらどうしようと過保護な気持ちが入ってしまい、なかなか首を縦に触れないアサヒはそのまま黙りこくる。
「……なんか言えよ」
ナツメは黙りこくるアサヒ不満げに頬を膨らませると、アサヒは突然ナツメの鼻をちょんちょんと撫でた。
その表情は穏やかで、愛おしそうで、美形なアサヒの顔を引き立てるような綺麗な表情だったため、ナツメは思わず息を飲む。そんな表情を自分に向けてもらえるという嬉しさも相まってか、ナツメは目を細めて微かに微笑んだ。
鼻を触られる理由を知ってるナツメは、自らも人差し指でアサヒの鼻をちょんちょんと撫でる。
「……」
アサヒはキョトンとした顔になり口を開いた。
「……また意味も分からずやってんだろ、どうせ」
アサヒの問いかけに、ナツメはプイッと顔を逸らす。
「お前、そんなにオレが可愛いの?毎日飽きもせずちょんちょーんって鼻触ってさっ」
ナツメの一言に一瞬固まったアサヒは、みるみるうちに顔を赤くして仰向けになり目を腕で覆った。
「……知ってたのかよ」
「そりゃあんだけされたら気になるだろ……さっきクレナイが教えてくれた」
ナツメはアサヒの髪をくいっと引っ張って自分の方へ向かせると、二人は見つめ合う。
「……」
アサヒは余計なこと教えやがって、と言いたげな表情を浮かべ、とりあえずナツメを引き寄せると、髪の匂いを嗅いで目を細めた。
「なぁ、どこがそんな可愛いの。いっつも“可愛くねー”とか“色気ない”とか文句ばっか言うくせに」
「……黙ってりゃ可愛い。発情した時は人は変わったように蕩けるしな」
アサヒは平然とした表情でそう言って退けると、ナツメはカァーッと顔を真っ赤にして狼狽える。
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