星流国の狐族〜池に落ちたら、妖怪しかいない異世界にワープした!?〜

みるくくらうん

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いただきますっ!

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「ナツメ君、回復して本当に良かった。そうだ、お腹は空いてないかい?今から丁度ご飯なんだよ」


 シキは相変わらずの優しい雰囲気でナツメに問いかけると、ナツメのお腹が空腹を思い出したように鳴り始める。


「あ、そういえば空いた……!(妖怪の飯ってオレにも食えんのかな?)」


 妖力が体から抜けた影響からか、一気に空腹感に襲われたナツメ。一体どんな夕飯が出るのかと緊張した面持ちで待っていると、同じ着物を着た二足歩行の狐達が食べ物を運んできた。
 サイカはうきうきした顔で体を揺らす。


「今日は白米と豚の塩釜焼き、山菜のきんぴらに、大根の味噌汁じゃあ!」


 テーブルには所狭しと食べ物が並び、ナツメは目を見開いた。
 人間が食べる物と大差がなく、むしろ一人で暮らしていた時より健康的だとナツメは口をぽかんと開ける。面倒な時はカップラーメンで済ませることも多く、あまり食事に対しての頓着が無かったため適当だったナツメは、目の前に運ばれる温かな食事を見ると目を輝かせた。


「えぇー!?美味そうじゃん!人間が食うもんと一緒だよなこれ」


 博識のエンジュは、笑顔で口を開く。


「そう。伝説の九尾・クオンは、ニンゲンの作るご飯に甚く感動したそうだ。我々が人型になって生活するようになったのも、こうやって美味しいご飯を食べるためかもしれないね。単純にでかい体だと家なんて持てないし、ニンゲンの文明って本当に面白くて楽しいよね~」

「へぇー!この世界の過ごし方って、人間の影響なのか。とにかく、オレはこっちの世界で餓死はせずに済むんだな」


 ナツメは安心した表情を浮かべる。


「沢山あるからいっぱいお食べ」


 シキはニコッと笑みを浮かべた。ナツメは箸を持って頷くと、満面の笑みで口を開く。


「じゃ、いただきまーす!」

「?」


 胸の前で手を合わせて“いただきます”をするナツメに、一同は首を傾げる。


「なんだその呪文」


 アサヒは首を傾げながらもぐもぐと白米を口にする。


「あ、こっちではしないのか……?俺の元いた国では、ご飯を食べる前に“いただきます”って言うんだよ」


 ナツメはそう言いながら味噌汁を口にすると「うめーじゃん!」と声をあげる。


「ちなみどうして“いただきます”と言うんだい?」


 知識への欲が湧いたエンジュは、身を乗り出してナツメに問いかける。


「んん?んー、作ってくれた人に対しての感謝の意味と、食材への感謝だろーな。例えば、この豚は俺たちの腹を満たすために死んだんだろ?だから食べる前に感謝するんだ」


 ナツメの説明に、エンジュは急に涙を流す。


「な、なんと……!妖怪には持っていない感謝の念!素晴らしい!素晴らしいよニンゲン!」

「そ、そーか……?大袈裟だろ」


 ナツメは困り顔を浮かべてそう言った後、綺麗な箸遣いで上品に食べ進めていく。その姿を見ていたクレナイは、感心したように口を開いた。


「ナツメ、アンタ綺麗にご飯を食べるんだねぇ。上品に見えるよ」

「ん?」
 

 ナツメは首を傾げながら、噛んでいた食べ物を飲み込んで口を開く。


「箸の持ち方のこと?じーちゃんが厳しかったからなー」

「そう!それさね」


 クレナイがナツメの持ち方を真似し始めると、影響を受けた全員が無言で練習し始める。シュラは一人乗り遅れ慌てて真似をし出した。


「アサヒ、こうだよ」


 ナツメは箸を置くと、アサヒの手を触って矯正する。元々器用なアサヒは、すぐに難なくやって退けた。


「おお!綺麗だな。お前指も長くて綺麗だし、サマになるじゃん」


 ナツメが笑顔で褒めると、アサヒは真顔だが耳をピクピクさせ内心喜ぶ。


「簡単だろ、こんなの」


 アサヒはそのまま矯正した持ち方で食事を続ける。シュラも見様見真似で練習していたが、上手く出来ず苛ついたのか諦めていつもの握り箸で白米を掻き込んだ。


「兄上が諦めたのじゃ」


 サイカがクスクス笑いながら揶揄う。


「けっ、飯の食い方なんてどーでも良いだろぉが!誰も気にしねェっての」

「ま、お前はそっちの方がお似合いだよ」


 ナツメが鼻で笑ってそう言うと、シュラは茶碗を置きナツメの方を見て睨みつける。

 始まった、と苦笑するシキ。


「んだとゴラァ!なんつった今ァ!」

「なんだよ!?本当のことだろ!」

「そんなもんやろうと思えばいつでもできるんだよ!調子のんなァ!」

「だったら今やれよ!出来ねーのか!?このガサツ野郎!」


 二人は睨み合いながら徐々に距離を詰めて言い合いを始めると、ナツメは勢い余ってシュラの額に自らの額をぶつけてしまう。


「なっ……」


 シュラは慌てて後ろに仰け反って顔をひくつかせ、周囲は呆然とした表情を浮かべた。


「……ナツメ」


 アサヒは素早くナツメの首根っこを掴み自身の方へ引き摺ると、苛ついた表情でナツメを見る。


「な、なに……?」

「事故とはいえ気を付けろ。俺以外の奴と簡単に額を合わせるんじゃねぇ、この馬鹿」


 アサヒはいつもよりももっと低い声でそう言うと、ナツメの額を指で弾く。
 シュラは気まずそうに顔を顰め、他の狐達はひっそりと色めき立った。


「……なんで?」


 ナツメは額を抑えて眉を顰めながら首を傾げるが、アサヒはツーンと不機嫌そうな表情のまま何も答えず白米を掻き込む。


「やっぱりあの時、意味分かってないでやってたのか。クレナイ、教えとけ」


 アサヒはいつの間にかご飯を食べ終え、「やり残した仕事がある」と言い残し団欒室を後にした。


「……?何怒ってんだアイツ。しかも食うの早」


 ナツメは首を傾げながらアサヒの背を見送り、クレナイの方へ目を向ける。
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