星流国の狐族〜池に落ちたら、妖怪しかいない異世界にワープした!?〜

みるくくらうん

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ナツメの隊服

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「ん……」


 しばらくの間眠りについていたナツメは、アサヒの寝室でゆっくりと目を覚ます。窓からは夕陽が溢れており、いつの間に寝たんだろうと顔を顰めるナツメ。
 綺麗に寝間着を着させられ、汗で汚れたはずの布団はまるで何事もなかったかのように新しく変えられていた。

 ナツメは全身が動くことを確認すると、掛け布団を捲り上半身を起こす。


「体、ちゃんと動く……!」


 ナツメは若干の倦怠感と眠気がありながらも、熱も下がり問題なく動けることに喜び布団から出て立ち上がった。


「起きたか」

「ぅおあ!?」


 気配を感じ取ったのか、アサヒは寝室の扉を開けて様子を伺いにきた。急な物音で驚いたナツメは思わず声をあげる。


「……なんだよ、色気ねー声で叫びやがって」


 アサヒは白の単に濃紺の馬乗り袴を合わせ、赤と濃紺と金色のぼかしのある羽織りの出立ちで現れ、背を向けて扉を閉める。そして、袖に手を入れながらナツメに近付いた。
 おそらく隊服なのだろう。九尾隊を表す九つの尻尾の刺繍が羽織の背中にあることが確認できた。


「驚かせんなよ、びっくりした……っていうかオレもしかして失神した?」

「ああ。すまん、やり過ぎた」


 アサヒは悪びれる様子もなくけろっとした顔で目を逸らすも、ナツメはじとっとした目でアサヒの髪を引っ張る。


「あのなぁ……手加減しろよ」

「気持ち良さそうにしてただろ。引っ張んな」

「はっ!?そ、それとこれとは別だろ!お前は慣れてるかもしんねーけど、オレは初めてのことばっかりでワケわかんなくなったんだからな!」


 ナツメは両手でアサヒの両サイドの髪を引っ張りぶんぶんと振って訴える。


「……ふーん。そうなのか」


 ”初めて“というワードに耳をピクッと動かして少し嬉しそうな顔をしたアサヒ。


「だいたいお前はあんな何時間もっ……」


 まだ文句を言おうとしたナツメだったが、突如どろっとした感覚が脚を伝うのを感じ、ナツメは目を見開いて下唇を噛む。


「どうした?」


 表情の変化に気づいたアサヒは、屈んで表情を伺う。


「っ……なんか垂れてきた」


 ナツメは寝間着の着物の下側を捲って脚をアサヒに見せる。脛まで白い液体が大量に流れ出していたため、アサヒは目を見開いた。
 扇情的な光景だが、アサヒは平常心を保ち表情変えず口を開く。


「……悪い。奥に出し過ぎた。俺の部屋には風呂があるから入ってこい」

「うん……」


 アサヒは顔を紅潮させすっかり大人しくなったナツメを抱えて風呂場に案内した。

 しばらくすると、ナツメはお風呂から上がり、アサヒを探す。髪をわしゃわしゃと拭きながら歩いていると、部屋から出ていたアサヒが戻って来た。


「あがったのか。丁度良かった」


 何やら荷物を抱えていたため、ナツメは首を傾げる。


「なにそれ」

「お前の隊服だ、着てみろ。よく出来た直垂ひたたれだ」


 包みを開いたアサヒは、それを広げて見せる。白い単と淡い紫色の直垂に、アサヒと同じ九尾隊の紋章が背に入った羽織。
 ナツメは目を輝かせそれを眺めた。


「うわー!これがクレナイが作った隊服!?すげーかっこいいじゃん!羽織りも貰えるんだ!」


 初めて九尾隊に会った時、中の服は個性があったが、羽織りはみな同じだったことを思い出すナツメ。それを与えられたことに喜び、にかっと笑みを浮かべた。


「当たり前だろ。上位以上は任務の時はみんなこの羽織を着るのが決まりだ」

「俺って上位なの?妖怪じゃないのに?」


 ナツメはアサヒから隊服を受け取りながた問いかける。


「瘴気を吸うなんてこと、お前にしか出来ねえぞ。ダイダラボッチを倒したのはお前だ、分かってんのか?」

「オレは最後に吸い込んだだけだけどなぁ。それまではお前らが必死で戦っただろ?」


 ナツメは自分が偉業を成し遂げたという実感は全くなく、いまいちピンとこない表情を浮かべる。


「(吸い込んだだけだと?それがどれだけすごいか分かってねぇのか……)いいからほら、早く着替えろ」

「え、あのさ、直垂ってどうやって着んの?」


 ナツメはキョトン顔でアサヒを見上げる。


「そんなのも知らねーのか。お前のいた国は一体何を着るんだ?最初に見た時おかしな格好してんなーとは思ったけどよ」

「いや、間違いなくお前らが着てるような服は普段着ねぇよ。お前が着てる袴は、めでたい時に着るもんだし」

「……仕方ねぇ、寝間着を脱げ。俺が直々に教えてやるから、ちゃんと覚えろよ?毎日お前の着替えなんて手伝ってやる暇はねーからな」


 アサヒはナツメから隊服を取り上げると、ナツメは渋々寝間着を脱ぐ。


「もし分かんなくなったら別の奴に聞くからいいよーだ」


 ナツメがべっと舌を出すと、アサヒは舌打ちをして顔を顰めた。


「……ったく生意気だな」


 それからアサヒは丁寧に着方を教授すると、ナツメは何とか自力で着ることができ、鏡の前で一周する。


「うおおー!ぴったりじゃん!かっくいー!」


 ナツメはぴょんぴょんと跳ねて揺れる羽織の美しさに感嘆する。


「……」


 アサヒははしゃぐナツメをじっと真顔で見ていたため、ナツメはピタッと止まり首を傾げる。


「え……なに?変?」

「いや、別に」

「なんだよそれ……」


 アサヒはプイッと視線を逸らし廊下につながる扉を開ける。
 思ったよりもうんと似合ってるとは恥ずかしくて言えなかったアサヒは、少し振り向いて口を開いた。


「行くぞ。みんなに顔を見せろ」

「うん!」


 ナツメは笑顔でアサヒの後ろに続いた。
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