星流国の狐族〜池に落ちたら、妖怪しかいない異世界にワープした!?〜

みるくくらうん

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九尾隊四天王・エンジュ②

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「……悪かった。俺はてっきりお前の都合でそうしたいのかと勘違いしてた」


 アサヒは申し訳なさそうな表情を浮かべエンジュを見る。


「じゃあ、作っていいの!?」


 エンジュはアサヒの肩を掴み嬉しそうな表情で、眼鏡がずり落ちるのを気にすることなく左右にぴょんぴょん飛び跳ねた。


「……許可するから、後日正式な申請を俺に出せ。ただし条件がある」

「なに?なに?」


 エンジュは目を輝かせながらアサヒに詰め寄る。


「クレナイを遊郭の一番上にしろ。廓で働く奴は大半が女性だ、クレナイが指導する方が女たちも安心じゃねーのか?心の支えとかも必要だろ」

「クレナイちゃんにー!?そういうのやってくれるかなぁ」


 エンジュはうーんと首を傾げる。


「知らねーのか?クレナイは元々遊女だったんだぞ」

「えっそうだったっけ?」


 エンジュが目を丸くしている所に、ちょうどクレナイがやってくる。


「アサヒ、随分時間がかかってるようだから来ちまったさね。エンジュ、まだ駄々をこねるつもりかい?」


 クレナイは呆れ顔でエンジュを見た。
 エンジュはこれまでアサヒとしていた話をクレナイに説明すると、クレナイは納得した様子で返事をする。


「ふーん。アタシは客を取らなくていいなら、やってもいいさね」

「本当!?ありがとうクレナイちゃーん」


 エンジュは涙を浮かべながらクレナイに抱き付くと、どさくさ紛れに胸に顔を埋める。


「どさくさ紛れに何するさね」


 クレナイは扇子でエンジュの頭を叩き嗜めると、エンジュはにこやかに叩かれた箇所を撫でた。


「それはそうと、アサヒ。本題は話したのかい?」

「今から話すとこだったんだよ。おいエンジュ、これの続きを教えろ」


 アサヒは本を開き、最も知りたかった掠れた部分を指差して真剣な表情を浮かべる。


「むむ?こりゃまた掠れて……随分と古い本だねー。ああコレ、ボクが書いたんだっけ」


 エンジュは眼鏡をかけ直し、じっと目を凝らして内容を一読すると、ポンと手を叩いて笑みを浮かべた。


「うんうん、これの続きはね、“魂の繋がった者と早急に番うことが先決とされる”だね」


 エンジュはニコッと笑みを浮かべ指をピンっと立てる。


「は?つ、番うだと……?」

 
 アサヒは目を見開き、クレナイは「あらまぁ」と扇子を広げて笑みを浮かべた。


「どういうことだそれ。ふざけて言ってたら殴るぞ」


 アサヒはエンジュに掴みかかり睨み付ける。
 

「ちょっ……説明するから!聞いて!」


 エンジュは困った顔で声を上げると、アサヒは手を離し「言ってみろ」と告げた。



「最強の巫女サクナはね、八岐大蛇と最後まで一緒に戦った九尾、”クオン“と恋愛関係だったんだよ。魂の色が同じな二人は、出会った時から強烈に惹かれあったんだ。サクナが瘴気を変換して溜め込んだ妖力は、魂の色が同じクオンにしか受け取ることが出来なかったらしい。
妖力を相手に移す方法は一つ。魂の色が同じ、つまり魂が繋がったものと番うこと。サクナは、クオンと番うことで妖力を発散出来た。深く何度も体を繋げてお互いに快感を得る事で、お互いの魂が一瞬混じり合う。その時に初めてクオンが妖力を受け取れるんだ」


 アサヒは言葉を失い、少し頬を赤らめて狼狽えた。


「あ、もちろん妖力が多いほど何度もしなくちゃならない。中出しした方が幸福感も高まって受け取りやすくなるから、どっぷりたっぷり出しちゃった方がいいかもね」


 エンジュは恥ずかしがることなく平然と言って退けるが、アサヒは更に顔を赤くして舌打ちをする。


「っ……(中出しとかどっぷりとか平然と言いやがってこの変態野郎)」


 アサヒは、ナツメが言っていた言葉を思い出す。


“オレとアサヒは魂が繋がってるから協力しろ”みてーなこと言われたんだ。
アサヒ、お前ならこの意味が分かるか?”


「……(今分かったっつーの!)」


 様子のおかしいアサヒに、クレナイはそっと声をかける。


「……アサヒ。アンタ心当たりがあるんじゃないのかい?」


 クレナイの言葉にビクッと大きく反応したアサヒは、動揺した表情で口を開いた。


「ななななんでもねぇよ!帰るぞ!」


 アサヒは部屋の窓を開ける。


「で、なんでこんな本引っ張りだしてそんなこと聞いたの?」


 エンジュの問いかけに、アサヒは何も答える事なく窓から飛んで狐に変化し飛び去った。クレナイとエンジュもそれに続くと、クレナイは今までの経緯を全てエンジュに説明する。


「そんなことが……!?じゃあ今、九尾御殿にニンゲンがいるってこと!?」


 エンジュは栗色の毛並みを靡かせながら、驚きの表情を浮かべながら空を飛ぶ。


「そうさね。一週間目を覚さないナツメのために、アサヒはずっと助ける方法を探してたんだよ」

「なるほどね……翠緑を救ったニンゲンを助けたいってことかぁ」

「……それだけが理由じゃないさね」


 クレナイはボソッと呟くも、エンジュは「なんか言った?」と耳をピクピク動かしながら笑みを浮かべた。


「なんでもないさね。ところでエンジュ、アンタ大変な時にいなかったね。落とし前つけてもらうよ」

「うっ」

「みんな戦いで療養中さね。まだ瘴気の毒っ気が抜けきってないんだから、溜まった任務は全部アンタがやんな」

「うえ~ん」


 エンジュは泣きべそをかきながら、翠緑の地へと戻るのであった。
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