18 / 113
暗闇の中で灯る希望の光
しおりを挟む「じーちゃん……オレに力を貸してくれ……」
ナツメの声に呼応するように、数珠は再び眩い光を放つ。
「ナツメちゃん?」
異変に気付いたヒイラギが声をかけるも、ナツメは数珠を握り締め反応を示さない。
光に気付いた九尾隊のメンバーも、何事かと目を凝らしナツメを見つめた。
「ナツメ殿……?」
サイカはナツメから温かく不思議な力を感じ、希望に縋るような声でナツメを呼ぶ。ナツメはその声に反応し、ニコッと笑みを浮かべた。
「オレが助けに行く」
「!?」
狐達は、ナツメの言葉に目を見開く。
「オレ、多分瘴気の影響そんなに無いしさ。あの中入ってアサヒのこと引きずってでも連れ戻してやるよ!」
ナツメは意を決した声でそう言い放ち、狐達を安心させるように満面の笑みを浮かべた。
大丈夫、大丈夫と必死に自分に言い聞かせて笑ってみせるナツメの健気さを感じ取った狐達は、目を細め心配そうに顔を歪める。
「んなこと言ったって、震えてるじゃねーかお前。本当に出来るのか……?死んじまったらどうする」
シュラがそう問いかけると、ナツメはあっけらかんとした表情で口を開く。
「そうなったらそれまでだな。オレ弱っちぃ人間だし、そこまでだったってことで」
「おまっ……そんな博打みてぇなこと!」
シュラは顔を歪める。
「でも!」
ナツメが大声をあげると、シュラはビクッと驚きを示す。
「たとえ死んでも、ダイダラボッチをどうにかしてアサヒは助ける!それは約束する!」
不思議と自身に湧き上がってくる未知の力に自信を感じたナツメは、ハッキリとそう言ってシュラを見つめた。シュラはナツメの覚悟と真っ直ぐな瞳に気圧され、それ以上は何も言い返さず目を見開いてナツメを見つめた。
「じゃがナツメ殿……わっちはナツメ殿も心配じゃ!もし死んでしまったら悲しむ家族がおるじゃろ?」
サイカの問いかけに、ナツメは切なげに笑みを浮かべる。
「オレ、元いた世界に家族はもういないんだ。だから、オレが死んでも誰も悲しまない」
ナツメの返事に、一同は哀れみの表情を浮かべる。
「だから行かせてくれ。もうそれに賭けるしかないって分かってるだろ?シキ、クレナイ」
シキとクレナイは目を細め真っ直ぐとナツメを見つめた。
「……死ぬことは許さないさね、ナツメ」
「ダメだと思ったら逃げるんだよ」
二人は優しさを込めた声色でそう言いながらナツメに近付き、クレナイがすりすりと頬擦りする。
ナツメは笑顔を浮かべ、「分かった」と小さく返事をしてクレナイの赤い毛並みをトントンと撫でた。
「ヒイラギ様、オレをあの球体の近くに連れてって。あまり近付いたら危ないから、上の方に。そっから飛び降りる」
「…………分かった」
ヒイラギは黒い球体の上を目指し、浮上していく。
「ナツメ殿ぉぉー!!!絶対に戻ってくるんじゃぞぉー!!!」
「ナツメ!テメェだけ死にやがったら許さねぇ!」
サイカとシュラの言葉を背に受け、ナツメは振り返って手を振る。
「ここら辺でいいよ、ヒイラギ様」
球体の上に着いたヒイラギは、その場に留まった。
「ホンマに危ない思ったら、逃げるんやでナツメちゃん」
「…………うん。ありがとヒイラギ様」
ナツメは儚げに笑みを浮かべ、ヒイラギの背に立って黒い球体のに向かって飛んで降下した。
「……行ってしもた」
ヒイラギはそれを見送り、クレナイ達の元へ戻っていく。まるでお通夜のような雰囲気の九尾隊達に、かける言葉も見つからずただ球体を見守るしかなかった。
徐々に黒い球体に近付くと、球体はナツメを取り込もうと変形しナツメを絡め取る。
「待ってろよアサヒ」
ナツメは球体に飲まれ、闇の中へと入っていった。
----------------------------------
広い闇の中を歩くナツメ。
自身が青白く光っているが、それが何かを照らすこともなくひたすら闇が広がっていた。
「どこだアサヒ!」
外から球体を見たが、ここまでの面積があったか?と首を傾げるナツメ。
まるで別世界かのように闇が広がる空間に、ナツメは数珠を強く握り締めて不安を抑え込んだ。
すると、数珠が動き、右の方へと引っ張られたナツメはその通りに走った。
「ぉわ!?」
何かに躓いたナツメはその場に転ぶも、感じたことのあるツヤツヤとした感触に気付く。
「アサヒ……!」
闇の中で横たわるアサヒ。ナツメが触れたことで、全身が青白く光ってアサヒを目視することが出来たナツメは、アサヒの顔の方へ移動した。
「アサヒ、おい、起きろ!寝てる場合じゃねぇぞ!」
黒い瘴気に覆われ、液体がドンドンとアサヒの中に入っていく。アサヒはうっすらと目を開けてナツメを確認した。その瞳は金色から濁った黒に変化しかけており、ナツメは目を見開く。
「……おま、え……なんで、ここに」
アサヒは息も絶え絶えな様子でナツメに声をかけるも、動くことができない様子でただ息を上げていた。
「助けに来たに決まってるだろ!」
助けるのは当たり前だと言わんばかりの表情でそう叫ぶナツメに、アサヒは一瞬ピクッと目を開いた。
「……ニンゲンに何が出来んだ。オレはもう……この身体を制御できない。九尾隊には申し訳ないが……民を連れて別の地に、はや、く……逃げろと伝えろ……」
アサヒは力無くそう告げ、何とか言葉を絞り出す。
薄れていくアサヒの妖力。
ナツメは数珠を握り締めて下唇を噛むと、アサヒを睨むように見つめた。
「なんでっ……!」
ナツメは必死な形相で大声を上げる。
アサヒは反応を示さず、諦めたように瞳を閉じた。
「何で諦めるんだよ!九尾かなんか知らねーけど、お前凄い奴なんだろ!?九尾隊のてっぺんなんだろ!?……みんなお前を失ったら悲しむの、分かってんのか……!」
ナツメの必死な訴えに、未だ残る心が震えたアサヒは、うっすらと目を開ける。
2
お気に入りに追加
789
あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

俺が総受けって何かの間違いですよね?
彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。
17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。
ここで俺は青春と愛情を感じてみたい!
ひっそりと平和な日常を送ります。
待って!俺ってモブだよね…??
女神様が言ってた話では…
このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!?
俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!!
平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣)
女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね?
モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。


転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…

推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる