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ダイダラボッチ⑪
しおりを挟む「この野郎、ダイダラボッチ!!!止まりやがれー!!!!!」
ナツメが大声で叫んだ瞬間、数珠が青白く眩い閃光を放ち、ナツメの髪色が一気に白く変化する。ダイダラボッチにナツメから放たれた青白い光が宿ると、ピタリと動きを止め、触手も増殖する事なくまるで時が止まったように動かなくなった。
「なんや、ダイダラボッチの動きが止まった……?」
ヒイラギは驚きの表情を浮かべたまま、その場に留まる。
「ナツメ殿の技じゃ!」
「ちったぁーやるじゃねぇか」
シュラの背に乗るサイカがそう叫ぶと、シュラは鼻で笑いながらナツメを見る。
「良かった……止まった」
ナツメは安堵の表情を浮かべてへたりこむ。クレナイは「今だよアサヒ!」と必死に叫んだ。
「!」
突然動きが止まったダイダラボッチに一瞬驚くアサヒだったが、この機会を逃すわけにはいかないと目を瞑り集中する。
額の赤い印が煌めき、洗練された妖力がアサヒを包むと、目を開き、くるっと円を作るように身体を丸めた。
アサヒの身体で出来た円に、丁度満月がすっぽりと重なる。
「満月閃鏡」
アサヒがそう唱えると、満月から凄まじいオーラを纏った銀色の閃光が放たれ、それはアサヒの円を通ってダイダラボッチに直撃した。辺りは凄まじい風が吹き荒れ、閃光に包まれて真っ白な視界となる。
「…………」
閃光が止み、目を開く一同。
ダイダラボッチの頭はボロボロに崩れ、翡翠山の頂上に大きな音を立てて落ちていく。
「やったのじゃ!頭が崩れている!」
サイカは興奮した表情で声を上げるも、シキとクレナイは違和感に気付き顔を顰めた。
禍々しく大きい心臓は破裂し、そこから瘴気と共に黒い液体を流れて土の上に広がっていく。
全員が頂上に降り立つと、その様子を近くで眺めた。
「終わった……のか?」
シュラがそう問いかけると、クレナイは顔を顰め口を開く。
「黒妖怪を退治すれば、ソイツが放った瘴気も消えるはず。なのにこの気配、おかしいさね。まだ瘴気が残ってるよ」
技を放ったアサヒが、黒い液体の近くに行き目を細める。
「……どういう事だ、心臓をぶっ壊したはずだ。この禍々しい液体は一体何だよ」
未だ消えない瘴気の気配と、謎の黒い液体。大技を使ったアサヒは、少しよろめきながら顔を顰めた。
「ナツメ殿!瘴気は消えておらぬか!?」
サイカの問いかけに、ナツメは頷く。
未だ山に漂う瘴気と、黒い液体から放たれる最も危険な瘴気が、ナツメの目にははっきりと映った。
「まだ消えてない。アサヒ、そこにいたら危な……」
ナツメがそう言いかけた瞬間、黒い液体が沸騰するように動き出し、アサヒの身体を絡めとる。
「アサヒ!!」
「アサヒ様!」
クレナイとシュラが大声で叫び近寄るが、アサヒは抵抗する間も無く飲み込まれていった。
「逃げろ」
飲み込まれる寸前、そう言い放ったアサヒ。やがて完全に飲み込まれると、黒い液体はアサヒを包みながら球体となって空に浮いた。
「アサヒ……」
クレナイは目を見開き呆然と巨大な球体を見つめる。
「そんな、アサヒ様が!アサヒ様ぁー!!!」
サイカは泣き叫びながら何度も名前を呼び、シュラは冷や汗をかきながら身体を震わせる。
「心臓もあの巨体も、本体を隠す器やったってことなんか……あの禍々しい液体がダイダラボッチの核やったとして、どう滅しろって言うんや」
ヒイラギは牙を剥き出しにして悔しそうに表情を歪ませる。
「見える……中で瘴気が動いてる」
ナツメは球体を見上げながらそう呟く。
「ナツメ、アサヒ様はどうなってやがる!」
シュラはナツメに近付いて必死に問いかけると、ナツメはギリッと拳を握り締めながら口を開く。
「一番黒い瘴気がアサヒの中に流れ込んでる」
「んだとォ!?アサヒ様を黒妖怪にしようとしてんのか!?」
シュラは今にも球体に飛びそうな勢いで言い放つと、クレナイがその前を塞いだ。
「落ち着けシュラ。馬鹿なことは考えたらダメさね。分かってるだろう?行けば飲み込まれる」
近付けば飲まれる。シュラは助けに行けない自分を責めながら、行き場のない怒りを抱えた。
「クソッ……クソッ……」
シュラはアサヒに拾われ九尾隊の一員になったことを思い出す。辺境の地で生まれ、妹のサイカを守るのに必死だった自分に手を差し伸べたアサヒの姿。
一番尊敬し、憧れているアサヒが窮地に立たされているのに、何もする事が出来ない。シュラは涙を浮かべて項垂れた。
「…………」
ナツメはそんなシュラの様子を見て、歯を食いしばり何も言えずに俯いた。
サイカの予言では、ナツメがダイダラボッチを滅するというものだったが、実際には瘴気の流れを伝え、動きを止めただけだったと自分を責めるナツメ。
「ダイダラボッチは、アサヒを新しい器にしようとしているかもしれへん。もしそうなったら……」
”翠緑の地は混沌となる“
ヒイラギが口に出さずとも、周囲はそれを感じ取り苦悶の表情を浮かべた。
「いくらアサヒでも、大技を放って弱った状態じゃ抗えへん。早くあの球体から出さんと、アサヒは乗っ取られる。……僕達は、アサヒと戦わなあかんことになるで」
ヒイラギは絶体絶命だと言わんばかりの表情でそう言う。
「じゃあどうする……アサヒを殺せって言うのか。あの球体ごと」
シキは珍しく怒りを込めた声で問いかける。
「同じことの繰り返しさね。他の奴が餌食になるだけ」
クレナイは球体から目を離すことなく、切なげにそう告げた。
ナツメはアサヒを失い絶望の表情を浮かべる狐達を見て、切なげに球体を見上げる。瘴気がアサヒの形に蠢き、侵食を続けている。このままでは本当にアサヒは黒妖怪になり、九尾隊は首領を失うことになってしまう。
「(サイカは俺がダイダラボッチを倒すって言ってた。鯉は、オレがアサヒと魂が繋がってるから協力しろって言ってた)」
ナツメは再び数珠を握り締め、額にくっつけて目を閉じる。
「(だったら、オレがなんとかしないと。ダイダラボッチをどうにかして、アサヒを助けないと、オレがこの世界に来た意味が無い)」
ナツメはうっすらと目を開け、未だ戻らぬ肩まで伸びた雪のように白い髪を靡かせながら、再び数珠に祈った。
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