上 下
16 / 113

ダイダラボッチ⑩

しおりを挟む


 
「九尾隊・四天王、雷大剣のシキが参る」


 シキはそのまま光の速さで姿を消すと、いつの間にかダイダラボッチの頭上に移動し、一つの大きな光の玉となってそのままダイダラボッチを貫くように急降下した。

 ダイダラボッチと衝突すると、閃光が辺りを包み、眩しさのあまり目を閉じるナツメ。


「さすがやな……」


 ヒイラギは小さく呟きながら見守る。
 ナツメはうっすらと目を開けると、結界がガラスのように砕け散り、頭が少し割れて心臓を露わにさせたダイダラボッチの姿があった。


「心臓が見えた!」

「いやー、久しぶりに使ったけど、結構疲れるねやっぱり」


 ナツメの横には、サイカほどのサイズになったシキが現れる。


「え!?シキ、お前そんなちっちゃくなって……」

「反動だよ。一晩寝れば治るさ」


 シキはボロボロの姿でふわふわと飛びながら笑みを浮かべた。


「シキ、休んでろ。あとは俺らでやる」


 アサヒがそう告げると、ヒイラギ、クレナイ、シュラと共にダイダラボッチの元へ畳みかける。あまりの速さにしがみつくので精一杯のナツメは、顔を歪めた。


「暴れるなら降ろしていけよこの馬鹿!」


 戦うのに必死なアサヒに、ナツメの声は聞こえない。

 クレナイは爪に自らの血を含ませると、凄まじい力でダイダラボッチを攻撃し、シキが付けた傷をさらに広げる。脈打つ心臓がさらに露わになり、ダイダラボッチは唸り声を上げた。
 ヒイラギとシュラも攻撃を続け、頭部は半分にまで割れ禍々しい瘴気を放つ。

 アサヒは満月を見上げ、何かを決心した表情で口を開いた。


「左右に離れてくれお前ら。シュラ、ニンゲンを任せた」

「おわっ!?てめっ……」


 アサヒは身体を振ってポイっと雑にナツメを投げると、シュラは慌ててナツメを口に咥えてキャッチした。


「あっ……あぶねェ、落とすとこだったぜ」


 シュラは冷や汗をかき、噛みちぎらないように優しくナツメを咥え続ける。
 アサヒはそれを見届けると、満月に近付いて行くように高く飛んでいった。


「月術を使うつもりだねぇアサヒ……今日は丁度、綺麗な満月さね」


 クレナイは満月を背にダイダラボッチを見下ろすアサヒを見つめた。


「おいシュラ、このままオレを喰う気か……背に乗せろよ」


 シュラに咥えられたナツメは、眉を顰め諦めたようにだらんと腕を下げた。


「アァ?何の足しにもならねぇよ、お前みたいなの喰っても。アサヒ様がお前を雑に落とすから、つい口で受け取っちまった。我慢しろ」


 シュラは苛つきながら答える。
 ヒイラギはシュラに近付くと、ナツメを見て笑みを浮かべた。


「シュラ、僕の背にナツメちゃんを乗せたってー。噛まれると思ってビクビクしとるわ」


 ヒイラギは興味津々な表情でシュラに近寄りナツメを眺める。


「……おいナツメ、粗相するなよ」


 シュラは口を少し開き、ヒイラギの背にナツメをそっと乗せた。


「(こいつ、案外力加減に気をつけてるな。散々悪口言うくせに)」


 ナツメはシュラを見て不思議そうな表情を浮かべる。サイカの言った通り、優しいというのは本当なのかもしれないと思いながら、ヒイラギの背に跨った。


「……ありがとうございます、ヒイラギ様」


 ヒイラギの背に乗ったナツメが礼儀正しくお礼を言うと、ヒイラギはうっすらと笑みを浮かべる。


「ええよ。気にせんとって」


 ヒイラギはそう言って上品に笑った。
 淡い緑色の毛並みは少し柔らかく、ふわふわしていたのが気持ちよかったのか、ナツメは思わず毛並みに沿って撫でる。ヒイラギは嫌がる素振りは見せず、むしろ目を細めた。


「随分とあったかい手やね。狐族は体温が低いから、なんかじんわりするわー」

「え?そ、そう?」


 ナツメは不思議そうに返事をする。


「……!アサヒ、気を付けろ!」


 シキがそう叫ぶと、一同はダイダラボッチを見て目を見開く。裂かれた頭部はそのままだが、首の方から黒い触手のような物が生み出され、アサヒに向かって伸びていった。
 アサヒはそれを確認すると、素早く避けながら飛ぶ。しかし避けたところで追われ続け、触手は長さの限界がないのかどんどんと伸びていった。
 アサヒがいくら噛みちぎろうとも、結界で弾こうとも、触手はアサヒを絡め取ろうと永遠に襲い続ける。


「クソッ……これじゃ“満月閃鏡”が打てねぇ」


 アサヒは技を繰り出す事が出来ず苛立った表情を浮かべる。クレナイが尻尾を振って風で触手を切り裂いても、結局すぐ元通りになってしまった。


「きっとアサヒは満月の夜にしか出せない“満月閃鏡”を出すつもりさね。あの技はかなり強いけど、相手の動きを止めないと技が出せないよ!」


 クレナイは焦った表情でそう言い放つも、増え続ける触手はナツメ達をも襲った。全員がバラバラに散り、触手を避けながら飛ぶ。


「こりゃアカンわ……切っても燃やしてもどんどん増える」


 ヒイラギは狐火を出しつつそう嘆く。ナツメは必死にヒイラギにしがみつきながら、眉を顰めダイダラボッチを睨んだ。


「……」


 ナツメはふと、湖の前でシュラの動きを止めたことを思い出す。数珠が光り、まるで金縛りのようにシュラの自由を一時だけ奪った。
 あの力が使えれば、ダイダラボッチの動きを止められると考えたナツメは、数珠を握り締めて目をぎゅっと瞑る。


「頼む……止まれ、止まれ……!」


 ヒイラギはぶつぶつとそう呟きながら念じるナツメに気付き、首を後ろに向けて様子を伺う。
 数珠を握りしめ、祈りを捧げるような姿をするナツメに、満月の光が降り注いだ。


「止まれよ、止まれダイダラボッチ」


 ナツメはダイダラボッチを睨みつけ、歯を食いしばって目を細める。
 ヒイラギは、ナツメの数珠に僅かに光が灯り、髪の色が白く変化していくのに気付くと目を見開いた。

 ナツメは口を開き、怒りの形相を浮かべる。

しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

おっさんにミューズはないだろ!~中年塗師は英国青年に純恋を捧ぐ~

天岸 あおい
BL
英国の若き青年×職人気質のおっさん塗師。 「カツミさん、アナタはワタシのミューズです!」 「おっさんにミューズはないだろ……っ!」 愛などいらぬ!が信条の中年塗師が英国青年と出会って仲を深めていくコメディBL。男前おっさん×伝統工芸×田舎ライフ物語。 第10回BL小説大賞エントリー作品。よろしくお願い致します!

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

誰かの望んだ世界

日灯
BL
 【完結】魔界の学園で二年目の学園生活を送るイオは、人知れず鶯色の本をめくる。そうすれば、必要な情報を得ることができた。  学園には、世界を構成するエネルギーが結晶化したといわれる四つの結晶石≪クォーツ≫を浄める、重要な家系の生徒が集っている。――遥か昔、世界を破滅に導いたとされる家系も。  彼らと過ごす学園生活は賑やかで、当たり前のようにあったのに、じわじわと雲行が怪しくなっていく。  過去との邂逅。胸に秘めた想い。  二度目の今日はひっそりと始まり、やがて三度目の今日が訪れる。  五千年ほど前、世界が滅びそうになった、その時に。彼らの魂に刻まれた遺志。  たった一つの願い。  終末を迎えた、この時に。あなたの望みは叶うだろうか…? ――――  登場人物が多い、ストーリー重視の物語。学校行事から魔物狩り、わちゃわちゃした日常から終末まで。笑いあり涙あり。世界は終末に向かうけど、安定の主人公です。  11/29完結。お読みいただき、ありがとうございました!執筆中に浮かんだ小話を番外編として収めました。

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

処理中です...