星流国の狐族〜池に落ちたら、妖怪しかいない異世界にワープした!?〜

みるくくらうん

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ダイダラボッチ⑩

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「九尾隊・四天王、雷大剣のシキが参る」


 シキはそのまま光の速さで姿を消すと、いつの間にかダイダラボッチの頭上に移動し、一つの大きな光の玉となってそのままダイダラボッチを貫くように急降下した。

 ダイダラボッチと衝突すると、閃光が辺りを包み、眩しさのあまり目を閉じるナツメ。


「さすがやな……」


 ヒイラギは小さく呟きながら見守る。
 ナツメはうっすらと目を開けると、結界がガラスのように砕け散り、頭が少し割れて心臓を露わにさせたダイダラボッチの姿があった。


「心臓が見えた!」

「いやー、久しぶりに使ったけど、結構疲れるねやっぱり」


 ナツメの横には、サイカほどのサイズになったシキが現れる。


「え!?シキ、お前そんなちっちゃくなって……」

「反動だよ。一晩寝れば治るさ」


 シキはボロボロの姿でふわふわと飛びながら笑みを浮かべた。


「シキ、休んでろ。あとは俺らでやる」


 アサヒがそう告げると、ヒイラギ、クレナイ、シュラと共にダイダラボッチの元へ畳みかける。あまりの速さにしがみつくので精一杯のナツメは、顔を歪めた。


「暴れるなら降ろしていけよこの馬鹿!」


 戦うのに必死なアサヒに、ナツメの声は聞こえない。

 クレナイは爪に自らの血を含ませると、凄まじい力でダイダラボッチを攻撃し、シキが付けた傷をさらに広げる。脈打つ心臓がさらに露わになり、ダイダラボッチは唸り声を上げた。
 ヒイラギとシュラも攻撃を続け、頭部は半分にまで割れ禍々しい瘴気を放つ。

 アサヒは満月を見上げ、何かを決心した表情で口を開いた。


「左右に離れてくれお前ら。シュラ、ニンゲンを任せた」

「おわっ!?てめっ……」


 アサヒは身体を振ってポイっと雑にナツメを投げると、シュラは慌ててナツメを口に咥えてキャッチした。


「あっ……あぶねェ、落とすとこだったぜ」


 シュラは冷や汗をかき、噛みちぎらないように優しくナツメを咥え続ける。
 アサヒはそれを見届けると、満月に近付いて行くように高く飛んでいった。


「月術を使うつもりだねぇアサヒ……今日は丁度、綺麗な満月さね」


 クレナイは満月を背にダイダラボッチを見下ろすアサヒを見つめた。


「おいシュラ、このままオレを喰う気か……背に乗せろよ」


 シュラに咥えられたナツメは、眉を顰め諦めたようにだらんと腕を下げた。


「アァ?何の足しにもならねぇよ、お前みたいなの喰っても。アサヒ様がお前を雑に落とすから、つい口で受け取っちまった。我慢しろ」


 シュラは苛つきながら答える。
 ヒイラギはシュラに近付くと、ナツメを見て笑みを浮かべた。


「シュラ、僕の背にナツメちゃんを乗せたってー。噛まれると思ってビクビクしとるわ」


 ヒイラギは興味津々な表情でシュラに近寄りナツメを眺める。


「……おいナツメ、粗相するなよ」


 シュラは口を少し開き、ヒイラギの背にナツメをそっと乗せた。


「(こいつ、案外力加減に気をつけてるな。散々悪口言うくせに)」


 ナツメはシュラを見て不思議そうな表情を浮かべる。サイカの言った通り、優しいというのは本当なのかもしれないと思いながら、ヒイラギの背に跨った。


「……ありがとうございます、ヒイラギ様」


 ヒイラギの背に乗ったナツメが礼儀正しくお礼を言うと、ヒイラギはうっすらと笑みを浮かべる。


「ええよ。気にせんとって」


 ヒイラギはそう言って上品に笑った。
 淡い緑色の毛並みは少し柔らかく、ふわふわしていたのが気持ちよかったのか、ナツメは思わず毛並みに沿って撫でる。ヒイラギは嫌がる素振りは見せず、むしろ目を細めた。


「随分とあったかい手やね。狐族は体温が低いから、なんかじんわりするわー」

「え?そ、そう?」


 ナツメは不思議そうに返事をする。


「……!アサヒ、気を付けろ!」


 シキがそう叫ぶと、一同はダイダラボッチを見て目を見開く。裂かれた頭部はそのままだが、首の方から黒い触手のような物が生み出され、アサヒに向かって伸びていった。
 アサヒはそれを確認すると、素早く避けながら飛ぶ。しかし避けたところで追われ続け、触手は長さの限界がないのかどんどんと伸びていった。
 アサヒがいくら噛みちぎろうとも、結界で弾こうとも、触手はアサヒを絡め取ろうと永遠に襲い続ける。


「クソッ……これじゃ“満月閃鏡”が打てねぇ」


 アサヒは技を繰り出す事が出来ず苛立った表情を浮かべる。クレナイが尻尾を振って風で触手を切り裂いても、結局すぐ元通りになってしまった。


「きっとアサヒは満月の夜にしか出せない“満月閃鏡”を出すつもりさね。あの技はかなり強いけど、相手の動きを止めないと技が出せないよ!」


 クレナイは焦った表情でそう言い放つも、増え続ける触手はナツメ達をも襲った。全員がバラバラに散り、触手を避けながら飛ぶ。


「こりゃアカンわ……切っても燃やしてもどんどん増える」


 ヒイラギは狐火を出しつつそう嘆く。ナツメは必死にヒイラギにしがみつきながら、眉を顰めダイダラボッチを睨んだ。


「……」


 ナツメはふと、湖の前でシュラの動きを止めたことを思い出す。数珠が光り、まるで金縛りのようにシュラの自由を一時だけ奪った。
 あの力が使えれば、ダイダラボッチの動きを止められると考えたナツメは、数珠を握り締めて目をぎゅっと瞑る。


「頼む……止まれ、止まれ……!」


 ヒイラギはぶつぶつとそう呟きながら念じるナツメに気付き、首を後ろに向けて様子を伺う。
 数珠を握りしめ、祈りを捧げるような姿をするナツメに、満月の光が降り注いだ。


「止まれよ、止まれダイダラボッチ」


 ナツメはダイダラボッチを睨みつけ、歯を食いしばって目を細める。
 ヒイラギは、ナツメの数珠に僅かに光が灯り、髪の色が白く変化していくのに気付くと目を見開いた。

 ナツメは口を開き、怒りの形相を浮かべる。

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