星流国の狐族〜池に落ちたら、妖怪しかいない異世界にワープした!?〜

みるくくらうん

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ダイダラボッチ⑨

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「確かにこの瘴気の感じ、平地に広がるのも時間の問題や。動きが鈍いうちに、はよ片付けなあかんね」


 ヒイラギは鈴の音を鳴らしながらダイダラボッチを見ると、うっすら目を開けて赤い瞳を光らせつつ感覚を研ぎ澄ます。
 ナツメはダイダラボッチが両腕を動かし、試すようにして拳を突き立てるのを見ると目を見開いた。


「うわ!今度は両手で殴りかかってくる!」


 ナツメは焦った表情で叫ぶと、ヒイラギが前に出て光を放つ。


「邪気退散」


 ヒイラギは鈴の音を鳴らし、額の白い印を光らせそう唱えると、全員を包み込むように強力な結界を張った。
 ダイダラボッチの拳はヒイラギの結界に一瞬食い込むも、やがて弾かれ手の部分が消滅する。


「おお!手が消えた!」


 ナツメは興奮した表情でそう言うと、ヒイラギは目を細めた。


「なんや、結構強いの出したんやけど、一瞬破られそうやった。何発も受けてられへん、はよ心臓潰さんと」


 ヒイラギは結界を解きダイダラボッチに近付いていくと、それに続くように全員が動く。


「ナツメ、胸の心臓はどこだ」


 アサヒがそう問いかけると、ナツメは指をさす。


「右胸のど真ん中。そこを起点にして瘴気の手足が出来てるから、潰した方がいいと思う……次は頭から体を出すかもしんねーけどさ」


 ドクドクと脈打つように動く胸の濃い瘴気は、不完全ながらも手足に瘴気を送り込み形を作っている。


「頭の方は僕一人じゃ難しそうやな。どうせ全部の心臓潰さなあかんなら、とりあえず胸の心臓を貫ぬこか。半端やとあかんし、結構なもんお見舞いしたるわ」


 今この場で最も妖力を持つヒイラギは、低い声でそう言うと目を細め集中する。


「下がっとき」


 振り返らずにそう忠告したヒイラギ。全員がその場から離れて見守った。


「掛けまくもかしこき、柊の鈴ここに有りし」


 ヒイラギが呪文を唱え始めると、ダイダラボッチはそれに反応するように、足を動かした。


「穢れを払いし狐の御魂、樹々に宿て禍事を討て」


 そしてその足をヒイラギ目掛けて蹴り上げるように動かすと、ナツメが慌てて「危ない」と叫ぶ。


討祓宿木うちはらいのやどりぎ


 ヒイラギは寸前のところで呪文を唱え終え、神々しい妖力を輝かせた。
 しめ縄のような首輪がヒイラギから離れると、鈴が鳴り響き、辺り一体の木々がそれに呼応して急成長を遂げる。それはすぐに一本の木になるように絡みつくと、先端を尖らせて思い切りダイダラボッチの胸に突き刺さった。


「硬いな……もう一押しや」


 ヒイラギが額の印を光らせると、妖力を纏った木はやがてダイダラボッチの胸を貫通し、綺麗に心臓を射抜いた。
 心臓の瘴気が弾け飛ぶのをみたナツメは、目を見開く。


「心臓が弾けた!」

「グゥゥオアアアアアアアア」


 ダイダラボッチは心臓を失い叫び声を上げる。心臓から溢れた最も濃い瘴気は、残された頭部にある心臓に吸収されていった。


「ふぅ。久しぶりの大技やわ、こんなんもう今日は打てへんよ……あの凶悪な頭はどないする」


 一同はヒイラギの元へ行くと、残されたダイダラボッチの頭を見上げる。心臓を失った胴体はボロボロと崩れていった。
 ナツメは瘴気で出来た手足が霧のように散り、それが頭部へと吸い込まれるのを確認すると周囲にそれを報告する。


「やっぱり頭が要ってことさね。どのみちあれで心臓は最後さ、やるしかないねぇ」


 クレナイは覚悟を決めたように目を細める。


「正直あの頭が何してくるかは未知数だ……心臓を潰すたびにアイツの周辺の瘴気が濃くなりやがるし、文献にも心臓を潰す以外の攻略は無かった。クレナイの言う通り、何が何でも殺すしかねーよ」


 アサヒは顔を顰め、毛を逆立てながらダイダラボッチの本体である頭を睨み付ける。目の開き切ったダイダラボッチもまた、四肢がなくともその禍々しさを変わらず放出させ、頭部だけでも凶悪さを主張していた。
 放っておけばいずれ四肢が再生し同じことの繰り返し。ここで消滅させなければ翠緑の地に安寧など無いと誰もが気付いていた。


「ダイダラボッチがここを占拠した日、頭を狙うと強力な結界で弾かれて手が出せなかった。普通に攻撃しても無駄だぜ、どーする」


 シュラはそう言って試しに爪を長くし妖力を込めて攻撃しにいくも、強い結界に阻まれ弾かれて飛ばされた。


「クソっ、前より結界が強くなってる」


 シュラはを上げながら顔を顰める。


「結界を破るなら、私に任せてくれないか。その代わり、それ以降は役に立てないけどね」


 シキは全員の前に立ち、額の赤い印を光らせた。


「シキ、アンタあれを使うのかい」


 クレナイは静かに問いかける。


「ああ。正直、ここで使う為に温存していたっていうのもある。あわよくば、少しは頭を割れるかもしれない」


 シキは金色の体を徐々に大きくさせ、クレナイよりも三倍ほどの大きさになる。


「で、でかっ……!」


 ナツメはシキの影に覆われながら目を丸くし驚きを示した。


「シキは狐の中でもいっとう大きくなれる。その分、力も大幅に上がるが……反動が大きい」


 アサヒは驚くナツメに説明する。


「反動って?」

「見てりゃ分かる」


 ナツメはシキに視線を戻す。
 大きな身体は先ほどより妖力を増し、赤い印が煌々さを増した。どこか落ち着きつつも、確固たる自信を瞳に滲ませながら口を開く。


「雷帝大剣・殲滅諸刃」


 シキが呪文を唱えると、七つの尻尾が一つにまとまり、雲一つ無い星空から雷が一瞬降り注いだ。
 尻尾は大剣へと変貌し、雷を帯びて妖力を増す。
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