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ダイダラボッチ⑦
しおりを挟む時を同じくして、シキとシュラも右足の心臓を討伐し、アサヒの元へと飛んだ。
クレナイもそれに続き、サイカ以外はアサヒの元へと集結する。
「はぁ……はぁ……残すは頭のどでかい心臓と胸の心臓か」
手足を失ったダイダラボッチだが、頭と胴体は宙に浮いたまま君臨しており、黒い妖気と瘴気が辺りを包み込む。
まさに死闘と言ってもいいぐらいに、全員は息を切らせ苦悶の表情を浮かべた。
激しく体力を消費している狐達を見たナツメは、心配そうな表情で口を開く。
「大丈夫か……?」
「ナツメ君、やっぱり君はすごいね。こんなに禍々しい瘴気を受けても平気そうだ」
シキは目を閉じ笑みを浮かべる。背には血が滲んでおり、あまりの痛々しい姿にナツメは絶句した。
「けっ、それで戦えたら文句ねーのによォ!」
憎まれ口を叩くシュラに言い返そうと思ったナツメだが、シュラも至る所が傷だらけで血が流れていることに気付くと、ぐっと言葉を飲み申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「……ごめん」
ナツメが珍しく謝罪をすると、シュラが気まずそうな表情を浮かべた。
「なっ……なんだよ……さっきの勢いはどーしたんだよ!これじゃ俺が性格わりーみてーじゃねーか!」
シュラはかあぁっと顔を赤くして怒鳴り散らした。
「あっはっは!シュラは素直じゃないだけさね、どっかの誰かに似て」
クレナイはアサヒをじっと見てニヤけた表情を浮かべた。
「……は?何で俺を見るんだよ。俺は何も言ってねーだろうがよ」
アサヒは納得いかないと言いたげな表情を浮かべる。
「シュラはアンタに育てられたも同然さね。似たんだよ、口の悪さと、態度のデカさと、怖いもの知らずで後先考えない性格とかさぁ」
「ははは、クレナイの言う通りだなー」
クレナイはニヤニヤと口元を緩ませ目を細め、シキは穏やかな表情を浮かべる。
シュラはアサヒと似てると言われ嬉しいのか少し得意げな表情をした。
「ふん、別にいいことづくめじゃねーか。この隊と土地を守る者として、舐められねぇようにしないといけねーし?」
アサヒはツーンとそっぽを向きながらそう言うと、シュラは首を大きく縦に振り、ナツメはじとっとした目で二人を見て納得いかない様子で口を開いた。
「偉そうなのが二人もいたら疲れる」
ナツメは口を尖らせながらそう言うと、アサヒは顔を引き攣らせた。
「るせーな……大体お前はな、俺を誰だと思ってんだよ。俺はこの辺じゃ結構偉いんだからな?敬意を払え馬鹿」
アサヒはふんっと鼻を鳴らす。
「馬鹿って言うなばーか。妖怪の世界のことなんて知るかよー」
「あのなぁ、郷に入っては郷に従えって言うだろうが。ニンゲンってのは妖力だけじゃ無くて教養もねぇのか?ああ?」
「仲が良いねー二人とも」
喧嘩をする二人を眺めていたシキが、嬉しそうにそう言うと、ナツメとアサヒは同時にシキに振り向き口を開いた。
「「良くねーよ!」」
全く同じ言葉が被ったため、表情を強張らせる二人に周囲は笑う。
休んだことで少し回復した狐達とナツメは作戦会議を始めた。
「ナツメ、瘴気はどんな感じか分かるかい?」
クレナイの問いかけに、ナツメはダイダラボッチを見下ろして目を凝らす。
「最初に見た時より真っ黒になってる。心臓から出た一番やばいのが全部吸収されてってるんだ。それに……」
ナツメはダイダラボッチの瘴気の流れが変わっていることに気付くと、目を見開いた。
「なんだ、この流れ」
一度頭に集結した最も禍々しく黒い瘴気は、手足の方向に瘴気を流している。切られた手足は心臓を失い消滅したはずだが、ダイダラボッチは瘴気を送り込んで何かをしようとしていた。
「なんかおかしい、無いはずの手足の方向に瘴気を流してる」
「!」
全員は目を見開いてダイダラボッチを睨み付けるも、瘴気が見えないためその異質さが分からない。
「どーゆーことだニンゲン」
アサヒは不可解そうにナツメに問いかける。
手足側に流れる瘴気は、まるで元あったダイダラボッチの手足のように形を作ると、失ったはずの手足が復活したかのように見えたナツメは声を上げた。
「て、手足が復活してる!」
「何だと!?」
狐達はダイダラボッチを確認するが、手足は見えない。
「手足は無いけど、ナツメ君には見えてるんだね」
シキは警戒するように低く唸る。
「そっか、俺しか見えないのか。なんか動かしづらそうだけど、真っ黒い手足が出来てる……うわ、た、立ち上がった!」
ダイダラボッチは、瘴気で出来た足を使い頂上付近に片足を乗せた。
ダイダラボッチは完全に目を開き、目を金色に光らせる。目が光ったのを確認したアサヒは、「まずい」と声を漏らし顔を歪めた。
「覚醒だ。目が光ったってことは、完全に眠りから醒めやがったぞ」
アサヒの言葉を皮切りに、狐達は警戒するように毛を逆立てて牙を剥き出しにした。ダイダラボッチはナツメらに顔を向け、瘴気でできた硬い腕を振り攻撃を仕掛ける。
「下に逃げろー!腕が動いてこっちにくる!!」
全員ナツメに従い急降下する。確かに感じた瘴気の通る感覚に、狐達は顔を歪めた。
「厄介だな……この妖力で、攻撃を避けながら残りの心臓を壊すなんて難しい」
シキは目を細めて打開策を考えていると、ナツメは再び口を開く。
「まずい!サイカの方向に足をあげてる!あれじゃ踏み潰されるぞ!!」
「んだと!?サイカァ!!!」
シュラは表情を一変させすぐさまサイカの方へ向かうも、ナツメは焦った表情を浮かべて口を開く。
「だめだ、間に合わない」
ダイダラボッチは無情にもサイカがいた場所を思い切り踏み潰した。土埃があがり、辺りは何も見えなくなるが、シュラはそのまま突き進む。
「そんな……」
クレナイは眉を顰め呆然とその様子を見た。
「サイカァァァァ!!!!」
シュラは大声を上げて吠えるように叫ぶと、一筋の光がシュラの近くに飛び交う。
その光は弾け飛び、中から淡い緑色の狐とサイカが姿を現した。
「兄上!」
緑色の狐の背に乗っていたサイカは、シュラに飛び乗って抱き締めるようにしがみつくと、シュラはホッとした表情を浮かべる。
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