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ダイダラボッチ⑧
しおりを挟む「ったく心配させやがって!」
シュラはサイカが無事であることを噛み締めながら声をかける。
「ヒイラギ様が寸前で助けてくれたのじゃ!」
サイカはヒイラギの方を向き笑みを浮かべた。
「危なかったなぁ。アカンよーシュラ、可愛い妹をあんなところに一人で残したら」
サイカを救った緑の狐は、吊り目がちの目を細めて笑みを浮かべながらシュラを嗜めた。七本の尻尾を揺らし、鈴がたくさんついた真っ白な縄の首輪をぶら下げて優雅に宙に浮かぶ。
「ヒイラギ様。助かりました、有難う御座います」
別の隊の四天王に対しては敬語を使うシュラ。サイカを頭に乗せながら頭を下げてお礼を言う。
「サイカ!無事か!」
「アサヒ様、わっちは無事じゃ~!」
ヒイラギの光に吸い寄せられるように集まった他の狐。緑色の狐を確認したアサヒは、小さく口を開いた。
「お前のおかげか。すまねーな、ヒイラギ。来てくれて助かった」
緑色の狐は、ニコッと笑顔のまま口を開く。
「なんや水くさい。久しぶりやねーアサヒ。シキにクレナイも」
「ああ、久しいのうヒイラギ。久しぶりの再会なのに、こんな汚い姿で申し訳ないさね」
クレナイは申し訳なさそうに笑うと、次にシキが口を開いた。
「ヒイラギ、遠いところからよく来たね。この通り、みんな手負だよ」
ヒイラギは傷だらけで妖気の多くを失っている四人を見ると、困った表情を浮かべる。
「ほんまに……みんなえらいボロボロやんか。思ったより苦戦しとったんやね」
ヒイラギが喋っているところをじーっと見ていたナツメは、思わず「関西弁だ……」と呟く。この世界にも方言があるのだと発見し、感心していた。
「九尾隊でどうにかしようと思ったが、四天王が二人不在で、この通り初めて見る危険な瘴気だ。首領である俺と四天王のシキ、クレナイ、上位の妖力を持つシキとサイカでしかこの山に来ることができなかった。お前を頼って悪い」
昔からの付き合いなのか、アサヒは信頼するヒイラギに助太刀を要請していた。
国の至る所で黒妖怪が多く出没している中で、ヒイラギは自分の住む地を離れアサヒの為に駆け付けたようだった。
「謝ることはあらへんよ。むしろ僕一人で申し訳ないくらいやわ。白狐隊も今、西の黒妖怪の退治に行っとるから中々難しくてなぁ。にしても、思ったよりえげつない黒妖怪やね。ダイダラボッチゆうんやっけ?」
「ああ。暴れる前にこの土地に縛り付けて、長い間妖力で弱らせた。それでもこの瘴気だ」
「初めて感じる禍々しさやわ。手足が無くて頭と胴体だけが浮いとるけど、どないしたらええ?」
ヒイラギは笑みを浮かべながら首を傾げると、ダイダラボッチの瘴気で出来た拳がヒイラギを狙っていることに気付いたナツメが慌てて声をあげる。
「ヒイラギ!こっちに飛べー!!」
「ん?」
ヒイラギは聞いたことのない声にキョトン顔を浮かべるも、寸前になってその意味に気付き慌てて瞬間移動をして真っ黒な瘴気の攻撃を避ける。
「は~、驚いたわ~!なんかえげつないのが飛んできた」
アサヒの近くに飛んだヒイラギは、冷や汗をかき苦笑する。
「おいニンゲン……さすがに他所の偉い狐には様を付けて呼べ、このドアホ」
アサヒは尻尾を動かしナツメの体をペシっと叩く。
「いてっ………すみません、ヒイラギ様」
さすがに九尾隊の体裁を気にしたのか、ナツメはひょこっとアサヒの背から顔を出して気まずそうに謝罪をした。
ようやくナツメの存在を認識したヒイラギは、目をキョトンとさせナツメに顔を近付ける。
「何やこの妖力のない子!不思議でええ匂いするやん。アサヒにべったりやねー」
「……好きでこんな奴とべったりしてる訳じゃねーし」
ナツメはアサヒにしがみつきながら口を開く。
「さりげなく俺を蔑むな、馬鹿」
アサヒは苛ついた表情を浮かべ言い返したが、ナツメは知らん顔をした。
「ヒイラギ様、その子はナツメ殿というのじゃ!“ニンゲン”の男の子で、瘴気が見えるすごい子なんじゃ」
サイカはシュラの頭の上で手を広げ、嬉しそうに説明する。ヒイラギは感心したようにナツメを見た。
「ほんまに?瘴気が見えるん?すごいやんか……!ほんで何?ニンゲン?こりゃまた夢物語みたいや。なんにせよ、さっきはありがとうなぁ、ナツメちゃん」
ヒイラギはニコッと笑みを浮かべナツメにお礼を言うと、少し照れたように伏し目がちで口を開く。
「……アサヒとシュラよりよっぽどいい奴じゃん」
「なに!」
「んだとぉ!」
アサヒとシュラは苛ついた表情を浮かべながら声を上げた。
「なんや、いじめられとるん?」
「うん」
ナツメはしれっと肯定すると、アサヒが目を引き攣らせた。ヒイラギは哀れむような顔でナツメを見る。
「そりゃ可哀想やねー。ほんなら、ダイダラボッチ倒したら白狐隊にこーへん?みんな優しいでー」
「えっ」
キョトン顔で狼狽えるナツメ。アサヒは呆れ顔で口を挟む。
「おいヒイラギ。コイツは弱いくせに生意気だから西ではやってけねーよ。わざわざこんな手のかかるニンゲン引き取っても面倒なだけだ、うちで預かるからほっとけ」
アサヒが口を挟んだことに、ヒイラギはにまーっと口角を上げた。クレナイも同じように口角を上げる。
「なんや、珍しく御執心やないの。気に入ったんならそー言うたらええのにぃー」
ヒイラギがにんまり顔でそう言うと、ナツメは首を傾げ、アサヒは動揺した表情を浮かべてすぐに口を開く。
「ちげーよ!!誰がこんな弱い奴気に入るか!っとりあえず、今はゆっくり話す暇はねぇ。もうダイダラボッチが起きちまってる以上、急がないと翠緑が危ない」
「(話を逸らしたさね)」
クレナイは内心笑みを浮かべアサヒをからかった。
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