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ダイダラボッチ⑥
しおりを挟む「おいニンゲン」
「んあ?」
名前で呼ばれない事に苛つくが、とりあえず不機嫌そうに返事をするナツメ。
「さっきクレナイが壊した心臓から出た瘴気、どこに行きやがった」
アサヒの質問に、ナツメはダイダラボッチを見上げて確認する。
「ダイダラボッチの体にバラバラに入ってった。こっからでも透けて見えるぞ?頭にどでかいの、右胸のところと、右脚は付け根。あとはー、左足の太ももかな」
ナツメは指を差しながら丁寧に答えた。
「おおっ!やはりナツメ殿はすごいのじゃ!」
サイカは嬉しそうに声を上げる。
「なら、そこが心臓の位置だな……。お前、俺の背に乗って正確に場所を教えろ。近付いて心臓だけを狙う。闇雲に攻撃しても無駄に妖力が減るだけだからな」
アサヒはナツメにそう命令するが、ナツメはじとーっとした目でアサヒを見る。
「何だよ。覚醒まで時間がねーんだ、早くしろ」
アサヒは牙を見せ吠えるようにナツメに言い放った。
「落とすなよ」
「は?」
「高いところから落ちたらオレ死ぬからな。分かってんだろうなー?」
信用できないナツメは、念を押すようにアサヒに詰め寄る。
「……分かったっつーの!落とさねーから早くしろ!」
アサヒは面倒くさそうに返事をすると、ナツメは「はいはい」と呆れ顔でアサヒの胴体の方へ行く。その間、アサヒはサイカを見て口を開いた。
「サイカ、お前は危ないからそこで待ってろよ。じきに西からヒイラギがくる、来たら心臓を壊すのを手伝えと言っておけ」
「分かったのじゃ!くれぐれもナツメ殿を頼むぞアサヒ様。ナツメ殿は妖力がないから、怪我をしてもすぐには治せないのじゃ」
サイカは心配そうな表情でアサヒに訴える。
「……ああ、わかった。で、まだかニンゲン。早く乗れ」
「シュラよりでけーからよじ登れねーぞ!ちょっとは屈めよ馬鹿狐!」
「……ばっ!?……クソ、あとで覚えてろよ」
アサヒは苛ついた表情を浮かべながらも、言い返す時間も惜しいため、言われた通りに地面に胴体を付けて乗りやすい高さにした。
「よいしょっと。ほら、乗れたぞー」
アサヒの背によじ登ったナツメ。透き通るような銀色の毛並みを、ナツメは思わず撫でた。
「おーツヤツヤ……綺麗だなー」
ナツメは小さく呟いたつもりだったが、それが聞こえていたのか、ピクッとアサヒの耳が動く。
「この状況で呑気に撫でやがって……飛ぶから掴まってろ。一旦、右足にいるシキとシュラに心臓の位置を教えろ」
「おう。なるべく安全なフライトで」
「……は?ふらいと?」
「なんでもない」
「ったく、訳の分かんねーこと言いやがって」
アサヒは不可解そうな表情を浮かべながら浮上する。
ナツメは、こっちの世界では通じない言葉が多いな、と内心思いながら溜息をいた。
ダイダラボッチの右足に飛んでいく二人を見届けたサイカは、少し笑みを見せる。
「……アサヒ様のような高貴なお方に馬鹿狐なんて言えるの、ナツメ殿ぐらいじゃのー」
一方右足では、シキが七つの尻尾を刃のように変化させ、身体ごと高速回転し膝部分を傷付ける。半分まで切ったところで、シュラが爪を大きく鋭く変化させ切り裂いた。
「んだよこれ……硬ぇ!それに瘴気が邪魔して妖力を半減させてる」
「いくら切っても、浅いと時間が経てば元通りか……腕よりも難しい。一気に切り落として心臓を見つけないといけないね」
苦戦している二人の元に、アサヒが大きな風を立てて近寄った。
「シキ、シュラ。コイツが心臓の場所を教えるから、そこを狙って一気に攻撃しろ」
シキとシュラは、アサヒの背に乗るナツメを見ると目を見開く。
ナツメはすぐに心臓の場所を指差し口を開いた。
「右足の付け根の真ん中らへん……黒い渦が見えるから、多分あれが心臓の場所だ。そんなに深い位置にないから、すげー勢いでやっちゃえばいけると思う」
ナツメの言葉を聞いたシキとシュラは顔を見合わせて頷く。
「助かったよナツメ君」
「アサヒ様に面倒かけんじゃねーぞ!」
シキとシュラはそう言って右足の付け根に移動した。
「かけねーよばーか」
ナツメはシュラの背に向かってべっと舌を出しひらひらと手を振る。
「俺らは左足に行くぞ」
アサヒはその場を二人に任せ、ナツメに一言告げダイダラボッチの左足に向かうため飛んだ。
「……なぁ、さっきサイカに言ってた“ヒイラギ”って誰?」
「西にある“深緑の地”を治める狐族、“白狐隊”の四天王だ。九尾隊と同盟を結んでる。こっちで言うとシキやクレナイぐらいの実力を持ってんな」
「へぇー。じゃー九尾隊の四天王って誰?」
ナツメの質問に、アサヒは少し目を細めた。
「クレナイとシキ……あと二人はいない」
「何で?」
「……さぁな。ほら、着いたぞ。どこら辺に心臓があるんだ」
意味深に小さく返事をしたアサヒは、誤魔化すように話を逸らしナツメに問いかける。
「んーと、太ももの真ん中。渦が小さいから多分奥の方」
「ここだな。一気にぶった切る。しっかり掴まれよニンゲン」
アサヒの言葉に、ナツメはゴクっと息を飲み、綺麗な銀色の毛を掴んで身体にへばりついた。
それを確認したアサヒは、鋭い目付きになり妖力を出して集中する。すでに体力は限界に近いが、アサヒの瞳は迷いのない純粋な闘志に溢れていた。この地を背負う者のとしての覚悟を背負い、アサヒは月の光を帯びて目を光らせる。
「月光斬!」
アサヒは青い炎を全ての足に纏うと、思い切り振り翳して全身を使いダイダラボッチの左太腿を切り裂いた。一瞬空に対して垂直になったため、ナツメは必死にアサヒの銀毛に掴まり冷や汗をかく。
「ばかやろう……落とす気満々じゃねーか……」
アサヒはダイダラボッチの太腿に潜む心臓ごと刈り取ると、真っ黒に澱んだ瘴気が一気に飛び出したため、ナツメは声を上げる。
「黒いのが飛び出た!離れろよ!」
「ああ」
アサヒはすぐに飛び立ち、ダイダラボッチの背丈よりも上空に退避した。
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