星流国の狐族〜池に落ちたら、妖怪しかいない異世界にワープした!?〜

みるくくらうん

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ダイダラボッチ④

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 満月を背にして飛ぶ大きな狐の影。
 それは徐々にナツメに近付くように華麗に飛ぶ。


「あれは……」

「うむ、あれが首領のアサヒ様じゃ!若くして九尾隊の長になられた、九つの尻尾を持つ狐の妖怪なのじゃー!」

「首領って一番年上がやるんじゃねーんだなぁ。そういやアイツらってそもそも何歳なの?」

「九尾隊は強い者、つまり尻尾の数が多い狐が首領をやるのじゃ。えーっとー、アサヒ様は百五十ぐらいでー、シキ様とクレナイ様は四百は超えとる。兄上は七十じゃ!」

「へ、へー……妖怪の“若い”はよくわかんねーなあ……」


 ナツメは最早驚くことなく、呆れた表情を浮かべた。


「…………」


 ナツメはアサヒの方へ目を向ける。
 近付くほどにはっきりと見える銀色の美しい毛並みと、一切澱みのない金色の瞳。
 息を飲むほどの美しさに、ナツメは呆然としていた。


「アサヒ様!」


 サイカはぶんぶんと手を振る。


「サイカ。瘴気は平気なのか」


 アサヒはふわっと風を立たせながらナツメとサイカの前に降り立つ。
 長い爪と、九つの尻尾が存在感を引き立たせ、凛とした雰囲気を放っていた。


「大丈夫じゃ!それよりアサヒ様、この男の子がナツメじゃ。予言通り、ちゃんと湖から湧いて出てきたのじゃぞ!」


 サイカは得意気に尻尾を揺らしながら語る。


「ああ。クレナイ達から聞いてるが……」


 アサヒは金色の瞳で、じーっとナツメを睨むように見つめた後に口を開く。


「近くで見ても、やっぱり弱そうだな」


 アサヒの態度がシュラに似ているとを感じ取ったナツメは、思わず顔を顰める。シキやクレナイのような落ち着きは無く、サイカの言った通り“若い”感じがした。


「いきなり言うことかよ……」


 ナツメはイラッとした表情でアサヒを睨むも、アサヒはフンっと鼻で笑う。


「で、お前はここで何してんだ?瘴気が見えるってのは聞いたが、妖力が全く感じねぇ。つまり俺達のようには戦えねーんだろ?足手纏いになるだけだ、命が惜しければ逃げた方がいい」


 アサヒはじっとナツメを見下ろし、期待はずれとでも言いたげな表情を浮かべる。


「たしかにな。オレは人間だから、お前ら妖怪より弱いし、すぐ死ぬ」


 ナツメは溜め息を吐きながらもあっけらかんとした態度で答えると、アサヒは不機嫌そうに顔を歪めた。


「だったら……」


 アサヒが何かを言いかけると、それを阻止するようにサイカが口を開く。


「な、ナツメ殿~!わっちが守るのじゃ~!」


 自分の予言を信じるサイカは、慌てた様子でナツメを見上げた。普段は人見知りのサイカが、これほど短時間で懐いている様子にアサヒは内心驚いていた。


「ははっ。お前は優しいなサイカ。オレ、この世界にきてお前ら狐しか知らねーし、黒妖怪っていう危険な妖怪から身を守ることもできねー。それに、そもそも、行くとこねーしさ」


 ナツメはダイダラボッチを見上げる。


「他の奴らは、何だかんだでみんなサイカを信じてあの湖まで来たんだろ?俺があのダイダラボッチを倒すって予言をお前がしたから、オレに賭けてみようと思ったんだろ?」


 ナツメはサイカを見て微笑む。


「オレに何ができるかわかんねーけどさ、とりあえず逃げるのは性に合わねえっ」


 ナツメはこの世界に来て初めて満面の笑みを浮かべた。少し生意気で、愛くるしくもある屈託のない笑顔。
 笑うと両頬に少しえくぼができ、普段の口の悪さからは想像できない可愛らしさが溢れた。

 その姿を見たアサヒは、一瞬目を開く。


「(は?なんだ……今の感覚は。気色悪い)」


 初めて感じる胸の高鳴りに、アサヒは違和感を覚えるもすぐに真顔に戻る。


「ナツメ殿……そなたはいい奴じゃの、まだこの世界にきて間もないというのに健気じゃ」


 肩に乗っているサイカは、そんなナツメを見て目を潤ませ顔を綻ばせた。


「…………(自分にとっては知らない世界で命を賭けるというのか、この馬鹿は)」


 アサヒは顔を顰める。


「でも、どうしたらいいかわかんねーんだよなー。……なあ、オレがこの世界に来る時に、変な鯉にさ、“オレとアサヒは魂が繋がってるから協力しろ”みてーなこと言われたんだ。アサヒ、お前ならこの意味が分かるか?」


 ナツメの問いかけに、アサヒは心底意味が分からなさそうに顔を歪めた。


「はぁ?魂、だと?何のことだ、知らねーぞそんなの。それより俺を呼び捨てにするなよニンゲン、様をつけろ様を」


 アサヒはむすっとした様子で返事をすると、ナツメも反抗するようにむくれながら顔を逸らす。


「あーはいはい。すんませんねーアサヒさまぁーーー」


 投げやりで呼ぶナツメに、アサヒはピクッと目をひくつかせ苛ついた表情を浮かべる。


「てめぇその態度……ダイダラボッチより先に殺してやろうか」

「やってみやが……れ……」


 ナツメは言い返すも、アサヒの背後で左腕が落ちる瞬間を目撃し指をさした。


「うわ!左腕が落ちた!」

「!」


 アサヒはすぐに振り返ると、ダイダラボッチの左腕が落ちたことを確認し少し笑みを浮かべる。同時にダイダラボッチは大きく唸り声をあげ、より一層禍々しい瘴気を放出した。


「ふん、三人がやったか」


 左腕は山の斜面に落ちると、大きな音を立てて土埃を生み出す。

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