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聞こえている①
しおりを挟む実は眠りについてからは、意識があることが多かったナツメ。身体は動かずとも、皆の声は届いていた。
連日訪れる九尾隊の上位のメンバー。
返事をしないナツメに、何度も声をかけていたのをナツメは知っていた。返事はできないが常に声は聞こえていたため、心の中で返事をしている。
「ナツメ殿~!早く目を覚まして欲しいのじゃあ~。わっちは寂しいぞ……。
あ、ナツメ殿に翠緑の地を案内したいのだ!翠緑は結構都会なんじゃぞ?活気もあってみんなキラキラしておる!」
サイカ。相変わらずいっつも沢山話しかけに来てくれてありがとうなっ。元気になったら翠緑の地を案内してくれよ。
「あ、それとそれと、ナツメ殿の隊服をクレナイが仕立ててるのじゃぞ!ナツメ殿は九尾隊の一員になるのだ。
……あのな、ナツメ。ナツメの家族は九尾隊じゃっ!」
ああ、この前クレナイが俺の身体のサイズ測ってたのって服を作るためだったんだな。オレは学ランしか持ってないし、ありがたい。
……まさか異世界で家族が出来るなんてな。でも何だろ、すげー嬉しいや。
「おいナツメ。テメェまーだ寝てやがったのか?ニンゲンってのは随分長ぇー睡眠を取るんだなァ。……寿命短ぇんだから、寝てたらもったいねーだろ!とっとと起きろボケ!」
シュラてめー、声でけぇーし、言い方悪いんだよ……。とりあえず起きて欲しいのは伝わったけどな。
「それとな、お前はいつまでもアサヒ様の部屋にいられると思うなよ。この俺様がテメェの部屋を丹精込めて作ってやったから、元気になったらそこ使えよ馬鹿」
オレのために部屋作ってくれたんだな、ありがとう。ちゃっかり居場所用意してるあたり、素直じゃねーよなー。
ま、起きたらお礼ぐらい言ってやるよバーカ。
「やあナツメ君。やっぱりまだ起きないみたいだね……。
君は危険を顧みずに私たちを救ってくれた。君には何の徳もないと言うのに、命を賭けてくれた。本当にありがとう。感謝してもしきれないぐらいだ」
シキ、大袈裟だなー。
俺は最後にちょいちょーいって瘴気吸っただけで、それまではみんなが死にそうになりながら戦ってただろ?
お前のあの結界破りのやつ、すげーかっこよかった!シキって優しいけど戦い方がダイナミックでギャップあるよなー!
「君は九尾隊が永遠に衣食住を保証するよ。ずっとここにいてくれて構わないからね。あぁそうだ、ナツメ君の元いた世界の話、良かったら起きたら聞かせてくれないか?結構気になっててね。
早く君が良くなるように、天に毎日祈るよ」
あっ、オレずっとここにいて良いんだ。でも働かざる者食うべからずだろ?起きたらオレもなんか仕事くれない?
元の世界かー。うん、分かった。教えてやる!別にそんな面白くないと思うぞ?
祈りとか、シキはやっぱり大袈裟だって。
「ナツメちゃん、元気しとる?うーん、やっぱ辛そうやねぇ。
あんな瘴気、ボクやったら即死やわ。でもナツメちゃんはちゃんと生きとる。心配することは何にもあらへん!アサヒが助けてくれるで。今日はアサヒに頼まれて都に買い付けに行くんや。ぜーんぶナツメちゃんのための物やで?」
ヒイラギ様……じゃなくてヒイラギ。
西の白狐隊?ってところの四天王なのに、オレのために動いてくれてるんだ。やっぱアサヒとすげー仲良いんだな。
九尾隊のために戦ってたいい奴だし、仲良くしたいな。
「アサヒはお金持ちやけど昔から物欲がないんよ。せやからナツメちゃんが欲しいもの言ったら、すぐ買ってくれると思うで。ええ金ヅルちゃう?」
「おいヒイラギ、聞こえてるんだよバカ」
「なんやおったのかいなー!」
「誰が金ヅルだよ!とっとと頼んだもん買ってこい!」
「はいはい、ほんま人使い荒いんやから……ほなナツメちゃん。またくるで。アサヒが嫌なったら、ボクが迎えにい」
「ヒイラギ!舐めたこと抜かすな。ナツメは渡さねぇって言ってるだろ」
「はいはい、ほななー」
なんかアサヒめっちゃ怒ってる?ヒイラギの冗談いちいち真に受けて、アホだよなー。
オレの居場所は九尾隊だってば。
どこにもいかねーよ。
「ナツメ、調子はどうさね。寝ている顔はまるで赤子みたいで可愛いねぇ。
……ちゃんと伝えられてなかったけど、あの日は本当にありがとうさね。アサヒは息子みたいに可愛がってきた子だ。ナツメが助けてくれて本当に良かった。
でもね、ナツメ。アンタはもう九尾隊の一員。もうあんな無茶はしちゃダメさね」
クレナイ。
あの日すごい怪我してたけど、大丈夫だった?オレ少し見てたけど、アサヒのこと庇って怪我してたのオレ知ってるよ。アサヒは気付いてなかったけどさ。本当にアサヒが大事なの、すげー分かった!
だからアサヒを助けられて良かった。クレナイが悲しむ顔、見たくないし。
オレこんなことしか出来ないけど、九尾隊のために出来ること、これからもさせてよ。
「そうそう、アンタに作った服が出来たんだ。アサヒと同じ馬乗り袴にしようと思ったけど、アンタは直垂の方が似合うさね。起きたら着てみておくれ」
オレ、袴とか着たこと無いから種類とか分かんないや。ひたたれ?ってやつもよくわかんねー!クレナイが作ってくれた服なら何でも着る。ありがとう。
「ああそれとねナツメ。アサヒはあんまり誰かに執着することはないんだけど、ナツメは特別みたいさね。ここんとこずっとアンタの事を考えてばかりさ。
きっとアサヒがアンタを治してくれるよ。アイツの性格はアタシが一番分かってるつもりだ。アサヒは惚れた相手には一生尽くす男だと思うさね。
ナツメ、アンタもアサヒのこと特別なんじゃないか?何となくそんな気がするよ」
え……?
惚れた相手ってオレのこと!?
いや待って待って、アイツそんな感じ出してたか!?確かに俺のモノとか言ってたけど!そ、そりゃオレは、鯉にアサヒとオレの魂が繋がってるって言われたから意識してたけどさ。
アイツ口は悪いけどすげー綺麗な顔してるよな。助けた後からずっと構ってくるし、妙に優しいし……って、何言ってんだオレ。これじゃまるで……。
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